ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

海堂尊/「ジェネラル・ルージュの凱旋」/宝島社刊

海堂尊さんの「ジェネラル・ルージュの凱旋」。

東城大学医学部付属病院ICUに伝説の歌姫が食道静脈瘤破裂で運び込まれ、辛うじてたった一つ
空きのあった十二階の神経内科病棟、通称‘極楽病棟’の特室に入院することになった。担当医
は、当日の当直であった不定愁訴外来責任者の田口公平が受け持つことになり、アルコール譫妄
の為暴れる患者に手を焼いていた。その一方、リスクマネジメント委員会の委員長でもある田口
の元には一通の匿名の怪文書が届いていた。その内容は、救命救急センター部長の速水晃一が
特定業者と癒着しているという内部告発を記したものだった。高階病院長から依頼を受けた田口
は調査に乗りだすが、速水とは旧知の間柄で文書の内容に疑問を覚えていた。数々の伝説を作った
高潔な‘ジェネラル・ルージュ’は本当に乱心してしまったのか――田口&白鳥コンビが活躍する
バチスタシリーズ第三弾。


はい。赤い本です(笑)。どうも「チームバチスタの栄光」以降の海堂作品には当たりがなく、
正直最近では『氏の作品を読みたい』という意欲を失いかけていたのですが、本書はお仲間さん
内でも評判が良さそうだし、どのレビューを見ても好意的なものしか見かけなかったので、とりあ
えず追いかけてみることに。
うん。これはちょっと見識を改めなきゃいけないかな、と思える位、噂に違わず面白かったです。

冒頭部分で「あれ、この内容読んだ覚えが・・・」と思ったら内容は二作目の「ナイチンゲール
の沈黙」とほぼ同時期に起きていた出来事を綴っているのですね。あちらではヒロインの
浜田小夜の友人として脇役だった如月翔子嬢が本書では活躍します。そして「螺鈿迷宮」で
とんでもない本性を表した氷姫こと姫宮も。どうやらこの事件の直後を描いたのが「螺鈿~」
なのですね。時系列で言うと、あちらを後に読んだ方が良かったかも(でも出たのはあちらが
先だったと思うのですが^^;)。本書で修行を積んだ後で桜宮病院に派遣されるという流れに
なるようですが、「螺鈿~」でのドジっぷりを鑑みるに、彼女、全く成長しなかったようです(笑)。
頭はいいから仕事覚えるのは早いのに、それが実技では全く生かされないってのは何なんで
しょうか(苦笑)。どうも彼女はよくわからない。性格と見た目の印象がまず一致しないし。
出て来る度に印象が変わって、頭にキャラクターが思い描けない。こんなのは珍しいです。
まぁ、気になるキャラであることは確かなのですが。

ストーリーは複雑さがなくなって、かなり読みやすい。ミステリとしては相変わらずアレですが、
このシリーズはもうミステリという枠をはずしてるみたいなんで、徹底したエンターテイメントを
目指した作品としてはかなり完成度が高いのではないかな。ジェネラル・ルージュ速水先生は
確かに格好いい。やったことは悪いことなのに、彼の高潔さを見ていると、どうしても彼の方に
肩入れしたくなる。反対勢力のエシックス・コミティの沼田をやり込めるところなんか胸が
すくような気持になりました。そして、やったことを素直に認め、引き際を引こうとする潔さ
がとても素敵だと思いました。







以下、ラストに触れる表記があります。未読の方はご注意下さい。















ただ、女性に対する態度はどうなのかな、とは思いましたけど・・・完全に二股じゃないのか、
この態度は!?あのラストの流れには驚きました。はっきりいって、あれはやりすぎじゃないか?
それに、今までの翔子さんへの態度や感情は何だったんだ!?なんだか、狐につままれたみたいな
気持になりました。そして、速水さんへの好印象もそこで一気に冷めて行ったという・・・。
確かに映画のワンシーンみたいな綺麗なラストだけど、演出過多すぎて私は引いてしまったな。
このラストにしたいなら、せめて作中でもう少し花房看護師とのエピソードを描くべきだった
と思う。過去のジェネラル・ルージュの名前の由来のエピソードだけでは絶対的に描写不足。
だいたい、このエピソード自体に私は疑問を覚えました。だって、男の人に顔色が悪いからって
ルージュを渡す女がどこにいる?好きな男性に対して、「女装しろ」と言ってるようなもの
でしょ。患者だって、真っ赤な口紅をした男が治療しようとしたら「変態!?」って思っちゃうよ。
想像するとかなりシュール。といより、青い顔に真っ赤な口紅をさした男を想像するとこれはもう
ホラーだ。どうも、海堂さんのこの辺りのセンスに私は反発を覚えてしまうのだなぁ。みんな、
この部分に疑問を覚えないのかな。私はそれが不思議だ。

それに、確かに速水さんはかっこいいと思ってたけど、やっぱり私は田口先生中心で
読んでたんですよねぇ。あの飄々としたキャラが最高です。冒頭の翔子さんに対する言葉
なんか、もうツボですよ。なんて優しいの。素敵すぎるっ。ぼさぼさ髪で冴えなくても
田口先生の温かさと、なんだかんだ言いながらも仕事に対する真摯な態度がすごく好きだなぁ。








まぁ、文句つけた部分もありましたが、トータルでは非常に楽しめた一冊ではありました。
田口先生活躍したし(←まだ言ってる)。
これでまた次の作品を読もうという意欲が湧いてきました。
次は黒い本よね(予約数、どうなってるんだろ・・・いつになるやら^^;;)。