ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦/「腕貫探偵 残業中」/実業之日本社刊

西澤保彦さんの「腕貫探偵 残業中」。

櫃洗市にあるカフェレストラン < てあとろ > に突然三人組の強盗が押し入ってきた。そのうちの
一人はこの店の元・従業員で、間近に迫った改装資金を出せとオーナーである薮田に迫って来た。
食事に来ていた客と従業員が人質に取られる中、薮田は強盗犯の一人と自宅にある改装資金を
取りに行く。客の中には櫃洗市の市民サーヴィス課臨時出張所一般苦情係を担当するあの男が
混じっていた――(「体験の後」)。腕貫を脱いだ後の腕貫探偵の活躍を描いたユーモア溢れる
連作ミステリー。


あの腕貫探偵が帰って来ました。無表情な顔で葬儀帰りのような服を着て飄々と謎解きを
してしまう神出鬼没な通称腕貫さん。西澤さんの作品の中では地味であまり読まれてる人も
いないのかな~などと思っていたら、結構図書館予約が多くてびっくり。でも蔵書が途中で
増えたので思ったよりも早く回って来ました^^

今回は勤務時間外の腕貫探偵を追ったものばかりなので、前回とは大分雰囲気が違うように
思いました。プライベートな時間でも基本的にはお堅い風貌は変わらないものの、意外に
グルメで美味しいお店を渡り歩いていたり、バレンタインチョコをもらってホワイトデーに
お返ししたりと、かなり人間味のある所も見せてくれていて興味津々。でもホワイトデーの
お返しに選んだものが腕貫さんらしくて笑えました(苦笑)。前回は神出鬼没で感情を
見せない腕貫さんの存在自体がもっとファンタジックで、実体がないように感じていたのですが、
今回は生身の人間らしさがたくさん感じられてちょっとほっとしたかも(苦笑)。相談者の
悩める心が見せた幻だったというような印象があったので^^;;

推理はかなり強引なものが多い気がしますが、腕貫さんの解説を聞くと納得できてしまうから
不思議。全く予想外の結末に感心しながら読みました。特に「青い空が落ちる」と「流血
ロミオ」は「そういうからくりだったのか~」と驚きました。「流血~」は主人公が中学生
ということを考えるとちょっとあり得そうにもない部分もありましたが・・・。ラストの
「人生、いろいろ」だけはほとんどのからくりが読めてしまったのですが、その後のオチが
意外な方向に進んで行ったので、さすが、ただでは終わらないな、と思いました。ものすごく
後味の悪い作品になりそうなのに、犯罪を犯した人間が自業自得な目に遭うのでなんとなく
爽快ささえ覚えるラストで良かったです。ただ、この作品だけ腕貫さんが謎解きをしないので
少し物足りなさも感じましたが。

今回いくつかの作品に登場する女子大生の真緒とユリエは、いかにも西澤さんっぽいキャラ。
なんとなくタックシリーズのタカチをウサコを彷彿とさせる印象があります。ユリエの、美人
で金持ちなのにオヤジなキャラはなかなか好感が持てました。ただ、江梨子が二人と接触
持つ時点でなんとなく嫌な予感がしたのですが、ラストの話で「あー、やっぱり・・・」て
感じでした。絶対にその要素を入れないと気がすまないんだなぁ、西澤さんは^^;;

それにしても、グルメな腕貫探偵が選ぶお店の料理はどれもこれも涎が出そうな程美味しそう。
これも間違いなく『空腹小説』に入るな。戸次楼村の七面鳥が食べてみたい・・・。じゅるっ。

飄々とアクロバティックな名推理を開帳する腕貫探偵の意外な一面が見られてなかなか
楽しかったです。こういうトンデモ推理的な作品はとても好きなので、このシリーズは今後も
是非続けて欲しいです。