ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

奥田英朗「コロナと潜水服」(光文社)

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奥田さんの最新短編集。やー、これはいい短編集でしたね。この手の、何気ない

日常を描いた奥田さんの短編集はホントに面白い。タイトルから、コロナ禍の

日本を舞台にした作品だとは思ってたんですが、そのテーマで書かれたものは

表題作のみでした。まぁ、そもそも読むまで短編集だとも思ってなかったの

ですが。どれも面白かったけど、五編中唯一女性視点だった『占い師』だけが

主人公に全く共感出来なかった。以前読んだ『家日和』でも似たような感想

だったんだよね。女性視点の作品だけイマイチ乗り切れなかった覚えがありまして。

奥田さんの短編は、男性目線のものの方が圧倒的に面白い気がするな。長編の

『ナオミとカナコ』なんかの女性キャラはそこそこ気に入ったんだけどなぁ。

 

では、各作品の感想を。

『海の家』

二歳年上の妻の不倫が発覚し、ひと夏、海辺の古民家を借りて家族と別居することに

なった小説家の村上。快適に暮らす日々の中で、彼が出会ったものとは――。

村上が、借りた古民家に出没するタケシ君を、全然嫌がらずに自然と受け入れている

ところがいいな、と思いました。普通はもっと怖がると思うけどねぇ。不倫したのに

全然反省してなさそうな奥さんにムカムカしました。でも、娘が母親の性格を

把握していて、不倫のことは伝えていないのに、何かを察して、村上の味方だと

はっきり言ってくれたのが嬉しかったです。良い子だ。

 

ファイトクラブ

早期退職の勧告を無視し続けていたら、閑職に追いやられてしまった三宅。家の

ローンも車のローンも残っている現状、会社を辞めることは出来ない。慣れない

警備の仕事を淡々とこなす日々が始まったが、そこには同じように閑職に追いやられ

た仲間の社員たちが。そんな彼らの前に一人の男が現れ、なぜかボクシングを習う

ことに――。

閑職に追いやられた悲哀感たっぷりの中年男たちが、ボクシングの師匠によって

日に日にたくましくなって行くところが良かったですね。終盤、銅線ドロボウと

やり合うくだりは胸が熱くなりました。師匠の正体は予想した通りでしたけど。

 

『占い師』

これは先に述べたように、唯一の女性視点作品。フリーアナウンサーの麻衣子は、

プロ野球選手の恋人が、近頃実力を発揮してブレイクし始めたことに危機感を

覚えていた。成績が良くなるにつれて、彼の態度が冷たくなって来た気がするからだ。

そこで、知り合いから紹介された当たると評判の占い師の元へ相談に行くのだが――。

麻衣子の身勝手な願望に辟易。セレブ妻になれると思ったから野球選手と付き合う。

相手の成績が上がり過ぎれば、捨てられそうだから成績を下げて欲しいと願う。

成績が下がり過ぎればセレブ妻が遠のくのは嫌だからもう少し成績が上がれと

願う。自分のことしか考えてない思考は理解不能でした。まぁ、相手もそれなり

の男だった訳ですけど。占い師の鏡子の正体は思った通り。こういう女性はプライド

が変に高いから、結局婚期を逃しそうな気がするなぁ・・・。

 

『コロナと潜水服』

コロナ禍でリモートワークになり、5歳の息子と過ごす時間が増えた渡辺。一緒に

過ごすうちに、息子が不思議な能力を発揮し始めた。どうやら、我が息子にはコロナ

ウィルスを察知する能力があるらしいのだ――!?

これはコロナ禍の今の現実を実に見事に描ききってる傑作だと思いましたね。

こんな能力があったら今の世の中、本当に人の役に立つでしょうね。実際、コロナ

探知犬は実在するそうですもんね。自分がコロナだと自覚した途端、家の中では家族

から一人離れて過ごし、外に出る時は潜水服を着る。主人公の徹底した感染対策に

感心しました。なかなか潜水服着て外に散歩に行こうとは思わないよなぁ。まぁ、

感染した自覚があったら、正直、ステイホームしていて欲しいですけど。傍から

見たら滑稽この上ない映像だけど、本人いたって真面目なところが可笑しかった。

あたふたする旦那に対して、妻が妊娠中にもかかわらず随分落ち着いているなぁと

不思議に思っていたら、最後に理由を聞いて納得。すごい能力を持った兄弟(妹?)

ですねぇ。

 

『パンダに乗って』

ずっと憧れだった中古のフィアット・パンダを手に入れた小林。納車の為にはるばる

新潟まで足を運び、念願の愛車を連れて帰ることに。しかし、帰りの道中、カーナビ

は思いも寄らない目的地を次々と案内し始めて――。

これも良かったなぁ。クラシックカーと共に、車の元の持ち主の思い出の場所を

巡る旅。主人公の小林が、それを嫌がらずに、楽しんで付き合って上げるところに

ほっこりしました。車も、新しい持ち主がいい人で良かったと胸をなでおろして

いるんじゃないかな。最後には思いが成就して良かったです。

 

ちょっと不思議な、SFめいた要素を含んだ5つの物語。不思議な話なんだけど、

なぜかどれもがすごくリアルで、楽しく読めました。

奥田さんの短編はやっぱり面白いなぁ。