ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三雲岳斗/「海底密室」/徳間デュアル文庫刊

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三雲岳斗さんの「海底密室」。

深海4000メートルにある海底実験施設「バブル」に取材に訪れた雑誌記者の鷲見崎遊。
スタッフに取材すると、そこで二週間前に常駐スタッフの一人が不審な死を遂げていることを
知る。現場が密室だったことから自殺と処理されていた。しかし、「バブル」に行く為の潜水艇
乗り合わせた少年は死んだスタッフの弟で、兄の死を自殺とは思っていないらしい。深海4000
メートルの閉じられた実験施設で取材を続ける遊だったが、またしても密室で変死したスタッフの
死体が発見される。遊は行方不明の友人が開発した人工知能アプリカントと供に事件の解明に
乗り出すが――本格SFミステリー。


三雲さん好きの私に心優しきもねさんが送って下さった作品です。随分前に頂いていたのに、
読むのが大変遅くなってすみません・・・(忘れていた訳ではないのですー)^^;
以前に読んだ『M.G.H』の姉妹編のような作品。時系列はこちらの方が先のようです。
『M.G.H』の主人公鷲見崎凌と本書の主人公鷲見崎遊は血縁関係あるようです。遊の名前、
『M.G.H』で出て来たような気がするんですが、手元に本がないのでどういう関係なのか
わかりません^^;遊は三姉妹らしいので弟ではないことから、従弟か甥とかそんなところ
だとは思いますが。ネットで書評を回ったのですが、なぜかそのことに言及してる記事がなくて
確認できず終いでした^^;

作風も『M.G.H』にかなり似ています。あちらは宇宙空間が舞台のクローズドサークル
ものでしたが、今回は海底。深海4000メートルの実験施設の中で起きる密室殺人。二重の
密室です。SF要素はあまりなく、基本的には本格ミステリー。しかし、今回も理系の薀蓄
に頭がついていかず、状況把握が大変でした。ミステリとしてはなかなか凝っていて良く
出来ているとは思うのですが、前回同様、情景が思い描けないのでいまいち「おお!」という
感動が得られなかったような・・・。三つ目の殺害事件の密室の真相には驚かされましたが。
化学の知識がないので、これが現実的なことなのかさっぱりわからなかったのが痛い。
文系にとって水や酸素の基本知識なんて忘却の彼方なんですよ・・・。いや、これはこれで
割り切って楽しむべき作品なんでしょう(誰かそうだと言って)。

本書のもう一つ根底にあるテーマは『孤独』。海底という閉じられた空間で働くスタッフ
たちは、それぞれのプライベートに踏み込むことなく上辺だけの付き合いで生活してきた。
そんな中でどうして相手に対して『殺人』に気持ちが向くほどの憎悪が生まれたのか。人間
関係が希薄で、孤独に苛まれながら生活するなんて、気が滅入ってきそうです。それぞれの
殺人の真相を読んで、何故殺人が起きたのかという理由がすとんと腑に落ちました。○○
殺人とはね・・・。これはこれで人間関係の希薄さが浮き彫りにされた感じがして、やり
きれない殺人という感じがしました。

残念だったのは、主人公と行動を供にする『相棒』である人工知能である『私』のキャラが
いまひとつ掴み所がなく、活躍も控え目だったところ。一人称視点の本人であるにも関わらず、
あまり存在感がなかった。基本的に設定は面白いし、キャラも渋めでいい感じなので、もっと
書き込んで欲しかったです。そもそも、開発した張本人が名前しか出てこないで失踪しちゃって
るというこの思わせぶりな設定は何なんだ^^;結局失踪したまま謎の男で終わっちゃってるし。
多分遊は彼のことが好きなんだろうけど。あと、遊の過去の事件についても意味深な情報だけで
謎のままなので、これはなんとしてでも続編を書いてもらいたいです。消化不良で気持ち悪いもん。

ブコメ要素があった分、作品としては『M.G.H』の方が好みなのですが、こちらもなかなか
読み応えのある本格ミステリで面白かったです。徳間デュアル文庫なんて初めて読んだけど、これ
ってもともとはラノベレーベルなのかな?だとしたら、ラノベの水準は軽く超える良作だった
と思います。


もねさん、貴重な本をありがとうございました!