ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

笠井潔/「青銅の悲劇 瀕死の王」/講談社刊

笠井潔さんの「青銅の悲劇 瀕死の王」。

1988年末、東京郊外の旧家、鷹見澤家に続発する奇妙な事件。鷹見澤家の長女から相談を
持ちかけられた探偵小説家・宗像冬樹たちは不審人物の存在を知る。そして冬至の日に執り
行われた会席の席上、当主の信輔が突然倒れ…(あらすじ抜粋)。矢吹駆シリーズ最新作。


あらすじ抜粋で失礼します(読むので疲れ切ってしまい考えるの無理^^;)。

お待たせしました・・・って、自分に一番言いたいです。やっとやっと読了です(記事が書ける!)。
正直、読んでも読んでも終わりが見えず、ほんとに記事を書ける日が来るんだろうか・・・
と不安になる程、途中苦戦しました。ページ数的に見ると「新世界より」を上下巻併せた
ページ数を遥かに下回るのに、多分かかった時間と気力は倍以上。違う意味でも今年一番
印象に残る本になりそうです・・・。

さて、比較的このブログの初期の頃からお付き合いしてくださっている方ならば、私が
このシリーズに並々ならぬ愛情を注いでいることをご存知のことと思います。いえ、正確に
記すならばこのシリーズの主人公矢吹駆に、というべきでしょうか。 何せ、普段
本を買わないことで定評がある(それもどうかと思うが)この私が発売日をチェックして
仕事を抜け出してまで本屋に行って単行本を買うシリーズは有栖川さんの学生アリスシリーズ
とこの矢吹シリーズだけなのです(京極堂シリーズなんかはノベルスなのでまたちょっと別)。
それ位、私は矢吹駆という探偵を偏愛しているのです。愛の度合いでは江神さんより上と
言ってしまってもいいかもしれない。偏屈でストイックで、何を考えてるかわからない変人
なのに、私にとってはこの上もなく魅力的な人物。という訳で、このシリーズは駆に会いたいが
為に読んでいると云っても過言ではない。


・・・だから、今回は非常~~に苦戦したのです。だって、だって、読めども読めども、



駆が出てこなーーーい!!



まぁね、実は本書がナディア主人公の外伝的物語だというのは知っていたのです。だから、
出て来ないかもしれないことは予測してはいました。それでも、帯に堂々と「矢吹シリーズ
最新作!」と謳ってるし、ほんの脇役程度でも出て来るんじゃないかなぁなんて期待しちゃってた
訳なのですよ。というか、ナディアが回想してくれるだけでもいいと思っていたのですが、
そういう表記も後半に入るまで全く出てこないので、読むにつれてだんだん読み進める
モチベーションが下がって行くという結果に・・・。
しかも、この作品、何が苦痛って、とにかく一言で言って、



冗長


なんですよ・・・。だって、800ページ近いページ数のうち、500ページ以上が
ほとんど毒殺未遂事件の考察。それも同じ様な推論(いや、ナディア風に言うと推測かな?)
の繰り返し。なぜか比重はその後に起こった殺人事件よりも始めに起きた毒殺未遂事件の方
に置かれている。殺人事件の方を先に考えないでいいんかーい、とツッコミたくなりました。
しかも、瓶A、B、C、猪口α、β、γ、テキストXYZ・・・これが入り乱れてあーだこーだ
する訳でして、もう、頭こんがらがって何が何やらでした。この辺り読んでる時が一番
辛かったな・・・。

ただ、終盤の8章を過ぎた辺りからは意外な事実も判明し、かなり面白く読めました。
駆のこともようやくちょこっと出てきますし(これを待っていたんだーー!!本人不在ですが(T_T))。
ナディアに関してはかなり驚かされました。違和感はずっとついて回ってたんですけどねぇ。
冒頭でナディアが主人公と書いてしまいましたが、実は違います。語り手は小説家の宗像冬樹。
この人、『天啓』シリーズに出て来るキャラなんだそうです。私は未読なのでどんな作品なのか
わかりませんが^^;この人は過去に駆とも繋がりがあり、二つのシリーズはリンクしている
ようです。駆の大学闘争時代のことは『織天使の夏』を読んでいたのでそれ程驚きはありません
でしたが、読んでない人にとってはかなりショッキングな内容かもしれません。だからといって、
内容的にお薦めとは言えない作品なので「読んでおくべき」とも言えないのですが・・・。
でも、間違いなく『織天使~』が本書の伏線になっていますので、興味がある方はそちらも
併せて読まれると良いのでは。ただ、それを読んでいたので、駆に関するある部分のミスリード
には早い段階で気付けてしまったのですけれど。でも、それを凌駕する意外な事実にびっくり。
そ、そうだったんだ・・・と驚きました。シリーズ愛読者の方と是非この部分については語り
合いたいなぁ。私は逆だと思っていたので。イメージ合わないよ~^^;;

ナディア曰く、駆とは過去10件の事件に関わったとか。最後の事件の直後に駆はナディアの
前から姿を消し、10年の歳月が流れ本書の『現在』に至るという流れ。ナディアは駆がもうすぐ
日本に来るだろうと言っているので、次回以降には本人が登場するのかもしれません(いや、
そうであってほしい)。やっぱり、真打が登場しないと盛り上がらないもの。ナディア本人も
言っているけれど、所詮ナディアの推理は駆の『真似』でしかない。駆の『本質直感』は駆だけ
が出来る推理法なのだと思います。彼の『本質直感』を使った推理が読みたいです。


本書の一番初めのページにとても意味深で衝撃的な一文が載っています。


「わたしは日本に帰ってきた、矢吹駆を殺すために――N.Mの日記から」


このN.Mとは誰なのか。普通に考えたらナディア・モガールなんでしょうけど、
『日本に帰ってきた』という言い方は変ですよね・・・。だいたい、ナディアが何故
駆を殺したいのかわからない。一体どういうことなんでしょうか。気になります。
まだまだ日本篇は序章に過ぎないのかもしれません。でも、日本篇の続きの前に駆が失踪前に
パリで解決した事件の方が読みたいです・・・。どうやら一作は連載が終了してるらしい
のですが。何故本にならないんだ?^^;

とにかく、何でもいいから、早く駆本人に会いたいです。また何年も待たなきゃいけない
のかなぁ・・・(嘆)。
矢吹シリーズの今までの作品からすると単調で冗長に感じる方がほとんどじゃないでしょうか。
哲学の薀蓄がない分読みやすいは読みやすいのですが、私は毒殺未遂事件の考察部分はそれに
匹敵するくらい苦痛でした^^;
それでも、このシリーズというだけでやっぱり読めて幸せなのでした。
記事がやたら長くなっちゃったな~^^;これも愛情ゆえなのです。


数少ない駆応援団の皆様、早く読んでこの思いを共有して下さい(懇願)。