ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西澤保彦/「複製症候群」/講談社文庫刊

西澤保彦さんの「複製症候群」。

天才の兄へのコンプレックスを抱え、両親の期待を背負いながら進学校に通う下石貴樹。なんとか
成績上位のAクラスに振り分けされたが、これからの授業について行けるか不安になるくらいの
成績だ。友人の包国サトルはBクラスに入れられてしまったことで落ち込んでいる。新学期早々
ブルーな気持ちで学校に通う二人だったが、ある日突然空から七色に輝く光の壁が降りてきて、
閉ざされた空間の中に閉じ込められてしまう。しかも、その壁は触れた者のクローンを作り出して
しまう恐ろしい機能を持っていた。次々と生み出されるクローンたちを前に、人は次第に狂気に
かられていき、ついには殺人事件が――。


久々にチョーモンインシリーズを読み進めようと思ったのに、次に読むはずの作品が置いてない
ので代わりに初期の読み逃し作品を借りてみました(結構ぽろぽろと読んでない作品が残って
るのです^^;)。

いつも西澤さんのSFミステリは結構理解するのに頭を使うことが多いのですが、これは非常に
シンプルな設定で読みやすかった。触れるとクローンが生み出されてしまう壁とは、またすごい
設定を持ってきたなぁって感じです。一体どういうからくりなんだよ!と基本的な部分で
ツッコミを入れたくなりましたが、まぁ、その辺は受け流しつつ(笑)後半の意外な展開に
面くらいながらも一気読み。次第に壊れて行く高校生たちが怖かった。特に終盤の猟奇殺人を
実行する犯人が凄まじい。まさかここまでエグイ展開になるとは驚きました。「収穫祭」の
○○の原型がここに・・・。またしてもあの人物を思い返してしまったじゃないか^^;

クローン人間を前にして自分というアイデンティティーを見失って行く登場人物たちの
心理状態がだんだんエスカレートしていくくだり非常に怖かったです。弱冠終盤で急ぎすぎた
感じがなきにしもあらずでしたが^^;閉ざされた空間というだけでも普通の状態じゃないのに、
そこに自分の複製が存在するという異常事態。確かに、人の正気を失わせるに充分な状況では
あります。複製という設定がミステリの仕掛けにも非常に効果的に使われていて、さすがに
上手いなぁと思いました。
冒頭で主人公がいきなり殺されているという謎を最後まで引っ張る構成もいい。
殺されるのはオリジナルか、コピーか。殺したのはオリジナルかコピーか。最後に明かされる
事実に唸らされました。それぞれの殺人の動機は普通の状態ならば納得しかねるものが多い
のですが、この異常な状況下ではそれなりに説得力があるところがまた上手いですね。
終盤、周りの人間の死体を前にして主人公が取った行動はどうかと思いましたが・・・。
何故全員を○○させようという結論になるのか、私には理解不能でした(普通で考えたら
一人だけでいいと思うのですが。これも異常な状況下で考えた思考だからなのか)。

もし目の前に自分のクローン人間がいたとしたら、私も自分というアイデンティティーをどう
確立すればいいのかわからなくてパニックになるかもしれないです。仕事中よく自分がもう一人
欲しい・・・とは切実に思うのですが(人手が足りない^^;)、実際こういう状況に置かれたら
怖いだろうなぁ。しかし、自分だけでも手に負えないのに、もう一人同じ人間がいるってのは
・・・やっぱりご免だな^^;

初期の西澤作品、まだまだ読み残しが残っているので、細々と読み進めたいと思います。
次はチョーモンインかな、やっぱり。