ミステリ読書録

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東野圭吾/「ガリレオの苦悩」/文藝春秋刊

東野圭吾さんの「ガリレオの苦悩」。

マンションの一室から三十歳の女性銀行員が転落死した。自殺かと思われたが、被害者の後頭部を
殴ったと思われる凶器の鍋が部屋から発見され他殺の疑いが出て来た。顔見知りの犯行との見方
が強かったが、転落時マンションの周りには人だかりが出来ていたにも関わらず、不審な人物を
目撃したとの証言は得られなかった。しかし、その夜被害者の大学時代の先輩という大型家具店の
セールスマンの男が名乗り出てきた。事件当日、犯行の前に家具のカタログを届ける為に被害者宅を
訪問していたという。男は部屋を辞した後、マンションの側から被害者が転落するその瞬間を目撃
したという。刑事の内海はこの男の証言に不審なものを感じ、男が何らかの遠隔操作で被害者を
転落死させたのではないかと疑問を抱く。そして、先輩刑事である草薙の友人で天才科学者の
湯川学に助言を求めに行くのだが――(「落下る」)。


普段、私の通っている図書館は原則として新刊本の予約は発売されていないと受け付けてもらえ
ないという決まりがあります。だからいつもは発売日チェックをして、ちゃんと本が発売されて
いるか確認してからリクエストをかけることにしているのですが、このガリレオシリーズだけ
は絶対それでは遅れを取る!と思ったので、発売二日前にリクエスト用紙を書いて出してしまい
ました。カウンターで何か言われるかなぁとドキドキしたのですが、ちゃんと受け付けてもらえた
ようで、このフライング予約が功を奏して目出度く一番手で回ってきました。やってみるもんだなぁ。
もちろん、長編の「聖女の救済」も同時に手元に回ってきました。これから読みます。
ちなみに、どちらもすでに予約数200を越えております^^;確か今『流星の絆』が400件
くらいいるみたいだから、それ位は行くだろうなぁ・・・蔵書は11冊あるけど、一体いつ回って
くるんだろう^^;

また前置きが長くなっちゃった^^;とにかく、とても好きなシリーズなので新刊が出てくれる
のは非常に嬉しい。このシリーズ、もとの短編形式の方が個人的には好きなので、本書も期待に
違わぬ面白さで一気読みでした。どの作品も程よく纏まっていて、短編ならではの良さが出て
いて良かったです。1話目、2話目はドラマになった作品だったので、脳内でトリックも映像化され、
わかりやすかった。ただ、ドラマの影響はとてつもなく大きく、私の頭の中ではもちろんキャスト
はあのままで映像化されてました・・・。特に、内海薫のキャラクターは今回初登場だったの
ですが、彼女自体の身体的特徴というのがほとんど出てこないので、そのまま柴崎さんのイメージ
で読んでしまいました。もともと、ドラマ化に際して作られたキャラクターだそうなので、その
読み方で正解なんでしょう。ただ、彼女がやたらに『女』刑事であることが強調される場面が
多く、『女だからこういう発想するんだ』みたいな書き方がちょっと鼻につきました。女じゃ
なくても、気付く人は気付くと思うけどって所が結構あったんで。
今回、ドラマ同様湯川先生の相棒は完全に草薙刑事から内海刑事にシフトする形になっていた
のが私としてはやっぱり残念。ただ、今後、湯川先生と内海刑事は色恋関係が絡んで来る可能性
もあるのかなーと思える描写もあったので、その辺りは要注目ですね。




以下、各作品の短評。


『落下る』
これはドラマそのままでしたね。もちろんこちらが先に連載されていたのですが、私は
ドラマからだったので随分原作に忠実に作ってあったんだなぁとちょっとびっくり。
この作品では湯川先生、最初は犯罪捜査に協力したくないって頑なに拒否していたのに、
その後の作品であっさり協力しちゃってるのは一体どういう心境の変化だったんでしょうか^^;



『操縦る』
これもドラマ化作品。でも、こっちは大分設定が変ってましたね。トリック等はそのままですが。
確かドラマでは元大学准教授の家に集まるのは、湯川先生の同級生ではなかったと思うのですが。
違ってたらすみません^^;ラストの恩師と湯川先生のやりとりに胸が切なくなりました。
ドラマよりも感動しちゃったよ・・・。本のタイトルの『苦悩』が一番表れてるのはこの作品
でしょうね。



『密室る』
学生時代の友人が意外に多い湯川先生。学生時代は今より人付き合いが良かったのでしょうか^^;
トリックはよく考えてありますね。実際、上手くいくかどうかとかは私にはわからない範疇
なので、素直に感心してしまいました。ラストの人物の行動、やっぱり○○する準備ってこと
なんでしょうか・・・(深読みしすぎ?)。



『指標す』
ある人物が行うダウジングという胡散臭い行動を湯川先生が論理的に解き明かしてくれて、
なるほど~~!って感じでした。ラストの内海刑事の指摘はきっと図星なんでしょうね。
こういう、時たま見せる人間くさいとこが好きなんだよね。最後まで読むとタイトルの意味が
腑に落ちますね。こういう作品は好きです。



『攪乱す』
この間読んだ有栖川さんの火村准教授も挑戦状を叩きつけられていたので、読んでてだぶって
しまいました。准教授は挑戦状を受けるものなのか?(苦笑)湯川センセがペーパードライバー
というのにちょっとウケました。親近感・・・。確かに運転するイメージないなぁ。
これは完全に相手の逆恨みが元になっているので、准教授の受難物語って感じですね。まぁ、
湯川先生の方が数枚上手で相手になりませんでしたが。犯人に、だからお前はダメなんだよ!って
言ってやりたくなりました。ラストの草薙刑事の言葉につっかかる湯川先生が可笑しい。
結構、気になるんだね。





短編だと、長編にはあまり見られない湯川学のお茶目な面もちょこちょこ覗けるとこがいい。
どれも『実に面白い』作品ばかりでした。このシリーズは私が初めて面白いと思えた
理系ミステリなので、これからもこのスタイルを貫いて欲しいな、と思います。長編も楽しみ!