ミステリ読書録

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山口芳宏/「豪華客船エリス号の大冒険」東京創元社刊

山口芳宏さんの「豪華客船エリス号の大冒険」。

数々の難事件を解決してきた眉目秀麗の探偵・荒城咲之助の探偵事務所に、一人の男が奇妙な
依頼を持ち込んで来た。十三年前、密航した欧州からの引き上げ船上から見た一艘の船。その船に
乗っていた美女の人形。その人形の周りで踊る黒人たち・・・。そして、一瞬の後に消えたその
船の消失。それらの不可解な出来事を解明して欲しいという。しかし、男の言動に嘘が混じって
いることを嗅ぎ取った荒城は、その依頼を断ってしまう。だが、しばらく経って、その男と関係の
深い一人の少年が荒城を訪ねてきて、男が一週間前に何者かに殺されたと告げる。死んだ男の
コートの生地の裏側からは豪華客船への招待状と、荒城に対する伝説の犯罪者・夜叉姫からの挑戦状
が見つかった。事件の解決の為、豪華客船エリス号へと乗り込むことになった荒城と弁護士の殿島。
同行したがる義手の探偵・真野原を置いて――。そして事件は地中海で起きた――シリーズ第二弾。


前作『雲上都市の大冒険』がなかなか面白かったので、その続編が出たと聞いて読むのを楽しみに
していました。やー、面白かったです。前作同様、古き良き時代の昭和の探偵小説そのものといった
作品。いい意味でも悪い意味でもキャラやトリックに全くリアリティがありません(笑)。でも、
このシリーズはそこがいい。荒城、真野原、殿島、三人の会話が絶妙で、ストーリーもめまぐるしく
展開していくので、全く飽きることなく読み進められました。今回は豪華客船上で起きる連続
殺人事件ということで、当然のごとくにタイタニックを思い浮かべながら読んでました。豪華
客船の旅、いいなぁ。豪華な食事も夜毎行われる様々なイベントも全て無料で楽しめるなんて!
(まぁ、最初に払うチケット代に全て含まれているだけなんだろうけど^^;)この作品の時代
の船だと殿島さんみたいに船酔いでえらいことになりそうだからご免被りたいけど、最近の船は
全く揺れないらしい。その分料金もえらいことになってそうですけど・・・^^;;
でも、彼らが乗ったエリス号のような運命を辿る船にだけは頼まれても乗りたくないですが・・・。

前作を読んだ時に、探偵役は二人もいらないのではと思ったのですが、本書を読んで、前作は
この二作目を想定に入れた作品だったのだろうな、と探偵役を二人にした理由が腑に落ちました。
確かに、今回は探偵役が二人いたことがかなり大きな意味を持っています。特に、前作では書き込み
が足りないと思った荒城のキャラでしたが、今回はかなり重要な役割を担っていました。彼に関する
後半以降の展開には完全に殿島と同じように騙されてしまいました・・・(いや、絶対からくり
があるとも思ったのですが・・・そうしないと、前作のラストで殿島が語るある一文の読み取り方が
違ってきてしまうし)。この辺りの物語展開もいい意味で王道を貫いていて、昔ながらの探偵小説
の趣を感じさせてくれるところがエンタメに徹していていいな、と思いました。

それにしても、前代未聞の犯人の動機には仰天。こんな理由で、あんなに犠牲者を出したのか!!
全くもってリアリティがありませんが、昭和の探偵小説回帰としてはこれもアリかな、と
思わせてくれました。全体的に懐かしい探偵小説の香りが漂っているからこそ、許されるトリック
と動機という感じはしました。時代設定の勝利といいますか。現代小説では成立し得ないだろう
なぁ、コレ^^;

犯人に関してはそれほど意外性というのはないけれど、トリック自体には意外性があるし、論理展開
もしっかりしているので、本格好きならば充分楽しめる作品になっていると思います。ただ、冒頭の
船消失や美女の人形の謎なんかはもう一ひねり欲しかった気もしましたが。
あと、真野原が地中海上で現れる経緯もちょっとご都合主義すぎ。その辺りは、あんまり
突っ込んじゃいけないんだろうな^^;アニメのヒーローの登場シーンみたいに、こんな
都合よく来れるわけないだろ!ってところでじゃじゃーんって登場するんだけど、虚構の世界
だから誰も突っ込んじゃいけない、みたいな(苦笑)。

文章は読みやすく現代風なのに、内容は典型的な本格探偵小説。乱歩や正史に興奮した世代なら
間違いなく楽しめるのではないかな。ページ数は前作と同じくらいだと思うんですが、前作よりも
冗長な感じが薄れ、確実に巧くなっているように感じました。

殿島さんと例の女性のその後も気になるし、まだまだ続きを書いて欲しいです。
今後のシリーズは全部語尾に『大冒険』がつくのかなぁ。呼び名は大冒険シリーズで決まり?(笑)
今回も少年探偵団っぽい装丁がいい感じです。今後もこの雰囲気を貫いて欲しいな。