ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

初野晴/「1/2の騎士 ~harujion~ 」/講談社ノベルス刊

イメージ 1

初野晴さんの「1/2の騎士 ~harujion~ 」。

母を亡くし、交番勤務の父親と二人暮らしの高校三年生、マドカ。所属するアーチェリー部では
去年インターハイ個人戦で5位に入賞し、部の中心的存在としてみんなから慕われている。
そんなマドカが恋をした相手は最強の騎士『サファイア』。二人の出会いから、街では異常な
犯罪事件が頻発する。マドカはサファイアと供に、狂気に駆られた異常犯罪者たちとの闘いに
身を投じて行く――これは二人の悲しい闘いの記録。切ないファンタジックミステリー。


おおお~~!これは良かった!!ふらりと立ち寄った本屋で立ち読みした某ミステリランキング
本で絶賛されていたので読むのを楽しみにしていたのだけど、本当に面白かった。あらすじを
ちらりと読んで騎士とか闘いなんて単語が出て来ていたので、もっとこてこてのファンタジー
世界なのかと思ったら、全然違ってました。舞台は東北のある街で、主人公は高校三年生の
女の子。ちょっと普通でない性癖はありますが(お約束?)、部の仲間から慕われ、追いかけ
られるアイドル的存在。そんなマドカが出会ったのが栗毛で一学年下の『サファイア』。この
サファイアの存在だけが唯一ファンタジックな要素で、他はなかなか緊迫感のあるミステリに
なっています。設定が面白いし、キャラ造詣もいい。何より、清冽で透明感のある文章がかなり
ツボにきました。ノベルスで400ページ以上はちょっと長い気もしますが、連作形式になって
いるのでさほど冗長な印象はなかったです。一つ一つの話が丁寧に作られているので、一作
づつでも読み応えがありました。それぞれの話のテーマはなかなかに重く、特にラスト一編
の犯人(グレイマン)の犯行と狂気には怖気が走りました。同じ街で起きる犯罪の犯人すべて
に俗称がついているというのは、それぞれの犯人に接点がないだけに弱冠ご都合主義的に感じ
なくもなかったですが、マドカとサファイアが闘う相手の存在をはっきりさせる為にも必要な
設定だったのでしょうね。

終盤、サファイアが想像した通りの状況になって行くのが読んでいて辛かったのですが、ラスト
は未来に明るさを残す終わり方で読後感も良かったです。マドカはこれから辛い思いもして行く
のかもしれませんが、多分彼女なら乗り越えて行けるでしょうね。彼女の性癖はどうなっちゃった
のかしら・・・と思わなくもなかったですが(苦笑)。

一作ごとに増えて行くマドカの協力者たち、ゴリラやサイやキリン、ひよりやもりのさるやロク
といった脇役キャラもすごく良かった。もちろん、マドカの親友加奈子や後輩の鈴たちも。
ゴリラが何故マドカ以外に唯一サファイアの姿が見えたのかは謎でしたが・・・。事件で偶然
知り合った人物たちがみんなマドカの協力者となって、彼女を支えて行くところが好きでした。
もちろん、一番良かったのはマドカとサファイアの関係ですけどね。

『ぼくなら、きみを守る本物の騎士になれる』

うーん、一度でいいからこんなこと言われてみたい^^


いやぁ、まほろショックが完全に抜けました。新年早々、いい作品が読めて嬉しい。
評判の良い『退出ゲーム』を読むのも俄然楽しみになってきました。他にもいくつか作品が
出ているようなので、是非読んでみたい。また一人お気に入りの作家が増えそうだ。

ただ、表紙は完全に萌え系で、ちょっと職場で読んでいるのが恥ずかしかった^^;
職場の人に「珍しく漫画読んでるのかと思った」って言われたもん^^;;
冒頭の方で主人公のある身体的特徴を読んだ時、表紙の絵に疑問を覚えたのだけど、その後
読み続けて謎が解けました。表紙の二人について、完全に誤解してました。最強の騎士
サファイア』のビジュアルが・・・(苦笑)。読まれた方なら意味がわかって頂けると思います。

少し風変わりなファンタジックミステリー。ミステリとしてもきちんと読ませてくれますが、
青春小説としてもなかなかの出来。個人的にはかなりお薦めです。