ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

太田忠司/「まいなす」/理論社刊

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太田忠司さんの「まいなす」。

飛魚中学校の二年生、那須舞は自分の名前が大嫌い。それは英語読みすると『まい・なす』=
マイナスになるからだ。しかし、周囲の人間はみんな舞を『まいなす』とあだ名で呼ぶ。本当は
やめて欲しいのに、言い出せない。他人に『嫌だ』と言えない性格なのだ。そんな性格のせいで、
周りの人間から頼られることが多い舞だが、ある日、大して仲の良くない筈のクラスメートの茅香
から奇妙な頼まれ事をする。飛魚町にある乳母山に一緒に登って欲しいというのだ。乳母山には、
タイムトリップができるという伝説が伝えられる『時渡りの祠』がある。茅香はそこから過去に
行きたいらしい。頼みごとを断れない舞は仕方なく一緒に行くことにしたが、伝説の祠に着くと、
そこには怪我をした飛魚中学の男子中学生が倒れていた。助けられた少年は、舞の通う飛魚中学
のバスケ部のエース立岡先輩だった。彼は時渡りの祠から未来に行き、虎槻橋の崩壊と、飛魚
中学の女子生徒が一人殺されるのを見たという。彼の話は本当なのか――?ミステリYA!シリーズ。


久々のミステリYA!シリーズ。最近刊行が多くて追いつかなくなって来ましたが、太田さんの
ジュヴナイルならばと手に取ってみました。規則を破るのが大嫌いで弱冠14歳ながら、しっかり
した自分の信念を持っている舞には好感が持てたのだけど、周りの脇役キャラがそれぞれちょっと
づつ嫌な部分を持っているのが鼻について、タイトル通り、前半はマイナスの感情ばかりを抱えて
読んでました。特に前半の茅香の印象は最悪。一緒に山登りをする過程なんか、もし私が舞の立場
だったらとっくにキレて家に帰っているかも。そもそも、何十分も遅刻してきたくせに謝罪や弁解
の一言もない時点で許しがたい。山登りにミュールを履いてきて、自分の足が痛いからって他人の
運動靴と交換してくれなんて、あまりの傍若無人ぶりに唖然。そこを我慢して交換してやる舞の
忍耐強さには頭が下がりました。えらすぎる・・・。とにかく、茅香の最初の印象は最悪で、終始
イライラしながら読んでいたのですが、後半では少し挽回。舞と知り合ったことで、彼女も少し
成長したのかな、と思えたところは良かった。反面最後まで印象が最悪だったのは立岡先輩。舞とは
恋愛が絡んで来るのかな、と思っていただけに、終盤の彼の言動にはがっかりでした。立岡の
彼女の木下も嫌な子だったなぁ。ある意味お似合いのカップルだったのかも・・・(『元』ですが)。
舞のお母さんにもちょっとムカつきましたが(ものに執着心がないというのはちょっと自分に
似てる部分もあるのですが)、ある意味さばさばしていて、付き合いやすい人でもあるのかも
(自分が執着しているものを勝手に捨てられたりしたら私もキレると思うけれど)。

全体的にマイナス要素の印象が強かったのですが、良かったのは舞の伯父さんの存在。舞との
関係がとても良かった。ドルフィンジョークはちょっとピンとこなかったですが^^;伯父さんが
舞に買って来て欲しいと頼んだ作品が有栖川さんのあの作品なのが嬉しかった。伯父さん同様、
私も待たされた人でしたからね。こんな素敵な伯父さんがいて羨ましいなぁと思っていただけに、
終盤の展開はショックでした。予想はしていたのですが・・・。伯父さんからの手紙の内容が
素敵でした。タイムマシンもタイムトリップも使わずに過去を変える方法。それは誰でも考え方
一つ変えるだけで出来ること。『まいなす』の名前を持つ舞にとっては一番の教訓になったのでは
ないでしょうか。

『まいなす』と呼ばれるのが嫌いなのにそれを言い出せない舞の性格は共感できました。心の中
ではいくらでも抗議できるのに、いざ本人を目の前にすると言えなくなってしまう。それはお人好し
だからというよりは、それを言った後のその人の反応を考えてしまうからなんですよね。でも、
嫌なことは嫌だとはっきり相手に伝えることも本当は大事なことなんだな、と終盤、茅香が舞に
語る言葉を読んで思いました。きちんと伝えなければ、相手は自分が悪いことをしたということ
にも気付かない。知らない間に相手にとっての悪者になってしまう。嫌なことでも伝えることが
人とのコミュニケーションの第一歩なんだろうな、と思いました。

ミステリとしての真相はちょっと拍子抜け。でも、最後まで読んだらマイナスの評価が少しプラスに
傾きました。太田さんらしいジュヴナイルミステリーではないかな。

表紙のイルカがとっても可愛い。章ごとに出てくるイルカイラストにもほのぼの。でも、内容的
にはほとんどイルカは関係なかったですけど^^;;しっかり者でクールな舞がぬいぐるみの
イルカに名前をつけて話しかけるというのは、中学生らしい幼さが伺えて少しほっとできる
要素でした。