ミステリ読書録

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深水黎一郎/「トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ」/講談社ノベルス刊

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深水英一郎さんの「トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ」。

東京・上野に落成したばかりのニュー・トーキョー・オペラハウスで、日本を代表するオペラ
演出家郷田薫演出によるプッチーニ作曲の歌劇『トスカ』の公演が行われ評判になっていた。
しかし、ある日、上演中の舞台の上で、主演女優が突き立てたナイフで悪役の男性俳優が
本当に死んでしまった。偽のナイフと本物のナイフがすり替えられていたのだ――!
「開かれた密室」である現場の状況に、警察の捜査は難航する。担当の海埜は、芸術に
造形の深い甥の瞬一郎と共に、事件の謎に迫る。シリーズ第二作。


前作『エコールド・パリ殺人事件』がなかなか面白い美術ミステリだったので、早速第二作も
予約してみました。今回の題材はオペラ。のっけから、オペラ『トスカ』についての薀蓄が
続いて、少々出鼻をくじかれた感があったのですが、その流れから一転、舞台の上で第一の
殺人が起きて一気に物語が動き出したのでほっとしました。合間合間にオペラの薀蓄が盛り
込まれているので、そんなにページ数がある作品でもないのに、結構時間がかかりました。
ただ、この薀蓄が退屈だったかというとそうでもなく、結構面白かった。オペラに関しては
私は完全に門外漢で、全く何の知識もない状態だったので、なかなか勉強になりました。
特に面白かったのは、既存の古典オペラの新解釈。一つの事実を変えるだけで、これだけ
違う解釈の作品が成立するのか~と感心しました。ミステリでも、一つの見方を変えると
全く違う真相の解釈が出来ることがありますが、それに近い。落語なんかでもそうですね。
あと、もう一つ面白かったのは瞬一郎の『テキストの読み替え』説。テキストには唯一無二の
意味はなく、読む側がどう解釈してもよいという考え方。これを唱えたロラン・バルトに対して、
テキストには読み取られるべき絶対的な真実があり、それを読者が歪めてはいけない
と唱えたのがレイモン・ピカール教授。瞬一郎は完全にバルト派で、子供の頃に読んだ乱歩の
少年探偵団を全く違う捉え方で読んだというエピソードが興味深かったです。私もバルト派
かなぁ。でも、作者が意図した真実というのは一つであって欲しいような気もしますが。ただ、
いろんな解釈で読めた方が作品も深みが増すと思うし、読み返す度に新しい発見が出てきたり
して楽しめる気がしますね。

トリックもなかなか凝っていて面白かったです。特に、第一の殺人に関しては、人間の思い込みを
上手く利用したトリック(といっても、犯人が意図した訳ではないのですが)で、『開かれた密室』
が作られた過程もほぼ納得が行きました。ダイイングメッセージに関しては無理矢理って感じも
しましたが^^;















以下ネタバレあり。未読の方はご注意下さい。




















でも、○○のちょっとした出来心でナイフをすり替えちゃって、それが殺人に転化
したって真相は、個人的にはあんまり好きではなかったです。意外な犯人=○○という
安易な印象を受ける作品を最近立て続けに読んでしまっているせいかも・・・。
でも、『悪の十字架』のエピソードがああいう風に効いてくるとは思いませんでしたので、
その辺りの伏線の貼り方は上手いなぁと感心させられました。
懐かしいなぁ、『悪の十字架』『恐怖の味噌汁』・・・。私の小学校でも流行ったっけ。
















なかなか良く出来ていて面白かったのですが、薀蓄が多かったせいなのか、なぜか読み始めると
三ページ位で睡魔が襲ってきてなかなか作品に集中できず、読むのに結構時間がかかってしまい
ました^^;
それにしても、あのとぼけた警部は何の為に出て来ているんですかねぇ。捜査の邪魔するため?(笑)
作風的にいって、別にわざわざギャグ要素を入れる必要性は全く感じないのですが。彼がいるが
為に、ユーモアミステリの範疇に入れられちゃいそうです(苦笑)。
まぁ、警部のオヤジギャグやとんちんかんな受け答えについついウケちゃう時も多いし、
面白いからいいか(笑)。
三作目も良さそうなので、早速予約しなければ!