ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

メフィスト編集部編/「忍び寄る闇の奇跡 メフィスト道場①」/講談社ノベルス刊

「忍び寄る闇の奇譚 メフィスト道場①」。

メフィスト編集部からの「お題」に併せて6人の作家が競演。豪華なミステリアンソロジー


図書館で見かけて思わず手にした本書。こんなの出てたなんて知らなかったです。メフィスト道場
って何?^^;と思ったら、一つのお題に対して二人の作家がそれに見合った作品を書いて競い合う
(?)というちょっと変わった趣向のミステリアンソロジーらしいです。競い合うといっても、
別に勝ち負けが決まる訳ではないのでしょうけど^^;読者が勝手に各々で優劣をつければいいって
感じなんでしょうね。
私のお目当ては最近非常に注目している初野晴さん、あとははやみねさん、西澤さんなんかの
名前もあったので、これはなかなか期待出来そうだぞ、と思った次第。もう一冊同じようなアンソロ
ジーが出ていたのだけれど、とりあえずこちらから借りてみました(そちらは学園ミステリーの
アンソロジーらしい)。メフィスト編集部もいろんなこと考えますねぇ。

んで、それぞれのお題と作家は以下の通り。

Round1 ボクのSF はやみねかおるVS.初野晴
Round2 フェティシズム・ホラー 西澤保彦VS.真梨幸子
Round3 都市伝説 村崎友VS.北山猛邦


個人的な意見で言えば、Round1は初野さん勝利、Round2は引き分け、Round3は北山さん勝利、
って感じでした。ただ、負けた作品も、別に面白くなかった訳ではなく、それぞれに違った
面白さがあって、バラエティに富んでいてなかなか読み応えのあるアンソロジーでした。
まずお題があって、各作家がそれに沿った作品を書くという趣向が面白い。メフィスト道場って
ネーミングはどうなんだと思いますけど^^;修行すんのか^^;



では、各作品の短評を。

< Round1 ボクのSF >
はやみねかおる「少年名探偵WHO 透明人間事件」
シリーズもののようなのですが、私は初めて読むシリーズだったので、キャラ設定などちょっと
入りにくい部分がありました。これって日本の話ですよねぇ?アラン警部って何人?^^;
漢字当てると阿蘭とか?WHO君の年齢設定もよくわからなかった^^;ネコイラズ君って、教授の
なれの果てじゃないですよね?(身長190cmくらいあるみたいなんで)とか、なんかいろいろ
勘繰ってしまった(苦笑)。透明人間のトリックはちょっと強引って感じがしましたね。

初野晴「トワイライト・ミュージアム
この人の物語センスはやはり非常に好みです。これもかなり変わった奇抜な設定。ファンタジー
SFと医療の複合技って感じ。時代設定は未来なのかなぁ。植物状態に陥ってしまった少女を救う為、
中世の魔女裁判の現場に精神の時間旅行をする男女の話。キャラ設定やストーリー展開など、非常に
魅力的だったのだけど、終盤急ぎ足になってやや失速してしまったのが残念。この続きが読みたい
です。長編で読みたい作品かも。


< Round2 フェティシズム・ホラー >
西澤保彦「シュガー・エンドレス」
いやー、これは怖い。家族にこんな人間がいたらと思うと・・・。砂糖ってこんなに怖いもの
なのか。砂糖が化学薬品っていうのは以前に聞いたことがあったのだけど、長期に亘って多量に
摂取するとこんなに人間の身体を蝕んで行くものなんですね・・・。実は親戚に清涼飲料水の
多量飲用が原因で糖尿病になった人がいるので、砂糖の怖さは知ってはいたのですが。私も甘い
ものには目がないので、気をつけないと・・・。それでもついつい傍らにはチョコレートが^^;;
この手のフェティシズムものは巧いですねぇ、西澤さんは。間違いなく、この怖さはホラー
ですね・・・。

真梨幸子「ネイルアート」
初読みの作家さん。メフィスト賞出身なんですね。全然ノーチェックだった^^;これも相当
怖かったです。展開は割とオーソドックスといえばオーソドックスなんですが、夜中に爪が
切られるくだりとか、ぞぞーーって感じ。痛い描写苦手なので、かなり途中読むのがキツイ部分も
ありました。ネットの掲示板を巡る争いの辺りは非常にリアル。やっぱり、ネット系のトラブル
ものは身近なだけにリアルな怖さがありますね。シイラに関しては案の定ではあったのですが、
ラストのある人物の独白の身勝手さに寒気がしました。人間の思い込みが一番怖いのかも・・・。


< Round3 都市伝説 >
村崎友「紅い壁」
この方も初読み。正史賞出身の方なんですね。他の方のブログで何度か記事を見かけたことが
ありました。これもシリーズものなのかな。軽めの学園ミステリって感じ。キャラなんかは
悪くないのですが、ミステリ部分の説明描写がちょっとわかりにくくて、頭に思い描けなくて
あまりピンと来なかったです。ミステリとしての結末もちょっと曖昧で消化不良。ただ、この
キャラたちの他の作品があるなら読んでみたい。チェックしておこう。

北山猛邦「恋煩い」
これはなかなか巧い。主人公の片想いを追った甘酸っぱい青春小説だと思って読み進めて行くと
・・・ラスト一行の言葉にどーん。こ、こわっ。かなりというかあまりにも苦い結末。おまじない
に振り回される主人公にはあまり好感が持てなかったのだけど、ここまで落とされたら可哀想だ。
しかも○○に・・・。救いはシュンのキャラがかっこよかったことかな。先輩の人となりの真実
は結局明かされないままだけど・・・多分、シュンの言ってることが正しいんだろうな。まぁ、
アキ(主人公)もこれで目が覚めて、目の前にいる男の真の価値に気がついたでしょう。



なかなか面白い趣向のアンソロジーで、気に入りました。
メフィスト道場①となっているので、そのうち②が出るんでしょう。次はどんな作家の対決が
見られるのか、楽しみです。