ミステリ読書録

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アミの会(仮)「怪を編む」/長岡弘樹「道具箱はささやく」

こんばんは。猛暑が一段落したと思ったら大型台風が来ましたね。一体日本は
どうなっているのでしょうか・・・。災害列島もいい加減にしてほしいなぁ。
被災地にこれ以上の被害がないと良いのだけれど・・・。
東京はいまのとこさほどの被害はなさそうなのですが、風の音はすごいです^^;
これからもっと雨が降るのかなぁ。


今回は二冊ご紹介。


アミの会(仮)「怪を編む」(光文社文庫
女性作家の集まり<アミの会(仮)>によるアンソロジー集第五弾。既存の
メンバーに加え、13人のゲストによるショートショート25編を収録。テーマは
タイトル通り<怪>ですかね。真夏の暑い時に読むにはぴったりの、ちょっと
背筋が寒くなるような作品ばかりでした。寄稿作家は今回もとっても豪華。
あまり馴染みのない作家さんもいましたけど、短いながらもほどよくまとめられて
いて、どれも読み応えありました。
印象に残ったのは、似鳥鶏さんの『イルカのシール』坂木司さんの『デコイ』
田辺青蛙さんの『胡瓜を焼く』、新津きよみさんのグリーフケア、福田和代さんの
『記憶』、蓮見恭子さんのオルレアンの噂辺りかな。
柄刀一さんや篠田真由美さんのシリーズ物が読めたのも嬉しかった。熊ん蜂に
会えるとは思わなかったなー。懐かしい。篠田さんはアミの会のアンソロジーでは
必ずこの骨董屋さんのシリーズ出して来ますね。ご自身の中での決まりごとみたいな
感じなのかな?光原百合さんは今回ショートショート三話構成から変えて、普通の
短編一本でしたが。
一番破壊力あったのは、新津さんの『グリーフケア』かなぁ。これは、ほんとに
現実に有り得そうで一番怖い。特に、今年のような猛暑の夏には、ある意味一番の
ホラーですよね。実際、こういう事故(というか、殺人といっても過言じゃないけど)は、
必ず毎年夏のニュースに出ますからね。次点は坂木さんかな。イルカのシールの下の
文字には、ぞぞーっとしました。気づいてしまった主人公のその後が気になります・・・。
『怪』がテーマなので、幽霊系や幻想的な作品もちょこちょこありましたけど、個人的には
人間の悪意を描いたものの方が怖かったです。坂木さんの『デコイ』なんかはそういう
タイプですね。豹変した友人の本音にぞぞーっとしました。ただ、田辺さんの『胡瓜を焼く』
なんかは、ちょっとファンタジックな妖怪もので、ほのぼのした感じで読み進めていたので、
終盤の展開はショックでした。そんな『うっかり』やめて欲しかったーーー。
幽霊系のだと、松村比呂美さんの『霊怪』は怖かったな。冷蔵庫に潜む霊。家の
冷蔵庫開けるの怖くなっちゃうじゃないか^^;
上記に挙げなかった作品でも、どれも全然アプローチが違っていて、それぞれに
面白かったです。短いので食い足りない作品もない訳じゃなかったけど、概ね水準以上の
面白さはありました。従来のメンバーさんたちは、さすがのクオリティだったように
思いますね。短編って、結構その作家さんの力量が試されますよねぇ。
そういえば、文庫で出たのは初めてじゃないかな?掌編集だし寄稿者数が多いので、
こういう形にしたのかも。手に取りやすくていいんじゃないかな。
夏に読むのに相応しい、ちょっぴり涼しい気分に浸れるアンソロジーでした。


長岡弘樹「道具箱はささやく」(祥伝社
長岡さんの最新作。奇しくも、こちらも15~6ページ程度の掌編集。18編が収録
されています。一編が短いですが、こちらも長岡さんらしいひねりの効いたオチばかり
で、なかなかクオリティの高い掌編集になっていると思う。色んな仕事道具が物語の
キモになっているのと、全部に出て来る訳ではないけれど、多くの作品に登場する
南谷と北山という刑事の存在が、なんとなくシリーズっぽさを演出していて、まとまりのある
作品集になっているのじゃないかな。別に、それぞれの作品は単独で読めるものばかり
なのだけれど。南谷が初登場から出て来る度に少しづつ出世していっているのが面白い。
一話目で出て来る同期の北山との関係も良かったですね。
皮肉なオチ、ほっと出来るオチ、ほろっと出来るオチ、真っ黒なオチ・・・いろんなタイプの
オチがありましたけど、どれも思わぬ落とし所という感じで、意外性がありました。よく
こんな短いページ数でこれだけクオリティの高い物語が量産出来るよなぁと感心しきり。
確かに、ちょっと苦しいんじゃないの?って思うものもあるんだけど、予想もしないところに
着地点があるって意味ではどれも面白さは変わらない。
気に入ったのは、『苦い厨房』『風水の紅』『ヴィリプラカの微笑』『仮面の視線』
『遠くて近い森』『虚飾の闇』『嫉妬のストラテジーかな。他のもどれも良かったので、
選ぶのが難しいのだけど。
一番あっと言わされたのは、『仮面の視線』かな。ラスト一行のフィニッシングストローク
見事に決まった作品だと思う。皮肉としか言いようのないラストだけども。
『苦い厨房』は、犯人をあぶり出す為に中国人料理人が取った方法に驚かされました。
でも、いくらまずくても、新メニューの審査をする人が全員一口だけかじって残すってのは
出来過ぎじゃないかなぁとは思いましたけど^^;
『風水の紅』は、さすがに無理があるだろうって設定ではあるけど、義母が伝えたかった
言葉にじーんとしちゃいました。最初は嫌なババアとしか思えなかったけど(苦笑)。
素直になれないって厄介ですねぇ・・・。
『ヴィリプラカの微笑』は、夫婦それぞれの悪意にぞっとしました。室内履きの違和感が
ああいう風に効いてくるとは。ヴィリプラカというイタリアの女神様は本当にいるんでしょうかね。
『遠くて近い森』は、ちょっと長岡さんっぽくないけど、切なくも温かいラストが好きでした。
ただ、義理の父が今更やって来た母親にあっさり大切な義理の息子を渡してしまうところには
腑に落ちない気持ちにもなったのだけれど。可愛がっていたペットも手放してしまって、
義父のこれからの人生を思うとやるせない気持ちにはなりましたね。
『嫉妬のストラテジーは、斬新な自殺の抑止方法に目が点。人間心理の面白いところ
というか、心理学的にはありなのかもしれないけど、本当に効果的なのかな、という疑問は
覚えましたね。
南谷刑事のキャラは結構気に入ったので、また何かの作品で登場してほしいな~と思いますね。
最終話では大分出世しちゃってるから、なかなか難しいかもしれないけれどね(苦笑)。
バラエティに飛んだ作品集で、一作づつは短いながらも読み応え十分でした。
面白かったです。