ミステリ読書録

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三崎亜記/「鼓笛隊の襲来」/光文社刊

三崎亜記さんの「鼓笛隊の襲来」。

戦後最大規模の鼓笛隊が発生した。園子の住む街にもついに上陸の夜が・・・街は鼓笛隊の襲来
を無事乗り切ることが出来るのか?(「鼓笛隊の襲来」)「小説宝石」に掲載された短編8作に
書き下ろし一作を収録した珠玉の短編集。


三崎さん初読みです。以前「となり町戦争」や「失われた町」が話題になっていた時に気には
なっていたものの、なんとなく書架で手に取っては自分の好みとちょっと違う気がして棚に戻す、
を繰り返していました。本書はあちらこちらのブログで評判が良いようなので、短編集だし
お手軽に読めそうなので重い腰をあげて手に取ってみました。一作目、表題作の一行目から目が
点になるような文章で始まり、かなり面喰らわされました。何の説明もなく、いきなり「赤道上に、
戦後最大規模の鼓笛隊が発生した」ですからねぇ。なんだなんだ?と思いながら読み進めても、
そもそもの鼓笛隊の説明というのは最後までありません。でも、多分この手の作品はそれで
いいんでしょうね。全てを描写するのではなく、大部分を読者の想像や空想に委ねる。本書に収録
されている作品はどれもそういう点では共通しているように思います。どの作品も奇妙で摩訶不思議
な世界観。なんで鼓笛隊が世界各国を襲撃するの?とか、なんで本物の象がしゃべって滑り台に
なるの?とか、そんなツッコミは野暮なんでしょう。「ここはこういう世界なんだ」と、この世界観
を受け入れられるかどうかで評価は分かれるところでしょうね。個人的には大部分は楽しめたの
ですが、説明が足りないが為に消化不良を感じる作品もちらほら見受けられました。他のみなさん
のように、絶賛するほど入り込めたかというと、正直微妙。好きだった作品もありましたが、
「だから?」って思う作品も結構あったんで・・・^^;世にも奇妙な物語系の不可思議な話は
好きなジャンルの筈なのですが・・・好みど真ん中、まではいかなかったかな。すみません。
全体的に「喪失」をテーマに掲げた作品が多かったように思います。大事な『誰か』や大事な
記憶が失われた時、人な何を思うのか。何かの欠落から、また何かが生まれることもある。
何かを失うのは哀しいけれど、結末は救いがあるものが多くて読後感は悪くなかったです。



以下、各作品の短評。

「鼓笛隊の襲来」
設定は面白い。はぐれ鼓笛隊の姿にはちょっと笑ってしまった。ただ、おばあちゃんはなんで
あんなに鼓笛隊に対して強かったのでしょう。その辺りはちゃんと書いて欲しかったなぁ。
ラストはじんわり心が温まりました。

「彼女の痕跡展」
自分が覚えていない「恋人」の喪失。彼のことが記憶にないのに、なぜか哀しい。結局、彼女が
なぜ彼を忘れてしまったのかはわからないまま。たくさんの疑問を抱えたまま物語が閉じて
しまいました。なんだったんだろう・・・って不思議な印象を残す作品でした。

「覆面社員」
これまた奇抜な設定です。「覆面を被る権利」が認められた社会。覆面を被ることがそんなに
メリットがあるとは思えないのですが^^;オチはちょっとしたホラーだと思いました^^;

「象さんすべり台のある街」
これは一番気に入りました。本物の象さんすべり台がある公園!行きたいです。象さんがまた
哀愁漂うキャラでよかったです。それだけに、ラストはとても切なくなりました。

「突起型選択装置」
ボタンのある人間・・・結局何のボタンなんですかー・・・気になって眠れないじゃないか(笑)。
私も絶対押せないなぁ、たぶん。世界の滅亡開始ボタンだったら・・・怖っ。

「「欠陥」住宅」
これまた少々ホラーな展開で。作者はホラーを狙って書いている訳ではないかもしれませんが、
ラストのオチにはぞくりとしました。

「遠距離・恋愛」
いきなりベタ甘でちょっとびっくり。有川さんが書いたというなら妙に納得できる作品なんです
が(苦笑)。近いのに遠距離恋愛、というシチュエーションがいいですね。浮遊都市という
設定を読んで何故か『ドラゴンボール』が頭に浮かびました(笑)。

「校庭」
これはもう完全にホラーですね。恒川さんの「秋の牢獄」に収録された『神家没落』を思い出し
ました。「気付かなければ、良かったのにね」の台詞にぞぞぞーーー^^;;一人で読んでた
のでほんとに鳥肌たちました。こ、こわっ^^;;

「同じ夜空を見上げて」
これも『喪失』がテーマ。突然消えてしまった恋人を忘れられない主人公。こういう題材は良く
使われるのであまり目新しさは感じませんが、この短編集のしめくくりには相応しい作品なのかも
しれません。失ったものは『大事なもの』として心にしまって、また新しい一歩を踏み出す。
未来を感じさせる終わり方で救われました。



基本的にはSFっぽい作風の方なんでしょうか。ファンタジーというよりはSF要素が強いように
感じました(表題作なんかはファンタジーですけど^^;)。非現実的要素を現実の世界に取り
入れて、巧く独自の世界観を演出されているように思いました。ただ、全体的にもうひとつ何かが
足りない感じがして、はまりきれない自分がいました。これ一作ではちょっと自分の中では評価が
定まらないって感じです。以前他のブロガーさんにお薦めしていただいた「バスジャック」も
とりあえず読んでみようかな。新作の「廃墟建築士」は、タイトルから好みそうな感じがして
いるので、そのうち読んでみたいと思っているのですが。


ところで、三崎さんって男性なんですね。またしても大いなる勘違い・・・。なぜ、最近の
作家は性別を混乱させるような名前の人ばかりなんでしょうか・・・。大恥かくとこだったじゃ
ないかー・・・^^;;