ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「本格ミステリ08 2008年本格短編ベスト・セレクション」/講談社ノベルス刊

本格ミステリ08 2008年本格短編ベスト・セレクション」。

本格ミステリ作家クラブが選んだ2007年のベスト本格ミステリ短編9編と評論一作を収録。


この本格ミステリシリーズは今まで既読作が多かったり、あまり興味を惹かれる作家が入って
なかったりして読んだことがなかったのですが、今回はざっと収録作に目を通して読んでみたいもの
が多かったので手に取ってみました。嫌いな作家も入ってなかったし。既読は二作ありましたが、
それ以外の7編、どれもなかなかに楽しめる作品ばかりでした。シリーズものが多かったので、
久々に会えたキャラなんかもいて嬉しかったです。さすがに2007年のベストに選ばれる
だけあって、読み応えのあるアンソロジーでした。ただ、ラストに収録されていた評論は申し訳
ないけれど読み飛ばしました。だって森博嗣論なんだもん・・・(ファンの方すみません)。


以下、各作品の短評。

黒田研二『はだしの親父』
これは良かった!くろけん作品久しぶりに読みましたが、くろけんファンなら必読かと思われます。
弱冠腑に落ちない点もあったのですが、ミステリとしても、兄弟・親子の絆を描いた感動作と
しても良作に仕上がっています。厳格で何事にもきちんとしていた父親が何故病院の中庭に裸足で
出かけたのか?その理由に泣けてきました。三兄弟のキャラクターも良かったです。

法月綸太郎ギリシャ羊の秘密』
既読。「犯罪ホロスコープ Ⅰ 六人の女王の問題」参照。再読しても、やっぱりこのダイイングメッセージ
には無理を感じました^^;

東川篤哉『殺人現場では靴をお脱ぎください』
東川さんらしいゆるいキャラ造詣に脱力しまくりでしたが、『室内で見つかった死体は何故編み
上げブーツを履いたままだったのか?』という謎の解明には「なるほど~」と思いました。
ギリギリのラインで本格、の作風は健在です。やっぱり好きだなぁ、東川ミステリ。

柄刀一『ウォール・ウィスパー』
『天才・龍之介がいく!』シリーズ。このシリーズ、4~5作目辺りで読むのがストップしたまま
なので、久しぶりに龍之介君と再会しました。なんだか壮大な計画が立ち上がっていてびっくり^^;
‘紫の人影’の真相は予想通りで拍子抜け。現場の状況がちょっと頭に思い描けずわかりにく
かった(私の頭の問題)。でも、40年前の事件の真相が後味の悪いものではなくて良かったです。

霞流一『霧の巨塔』
真相はある意味バカミス。さすが霞さん。おいおい、そんな勘違いってあるかい?と思うのだけど、
面白かった。ただ、これも情景がいまいち浮かんでこなくて、映像で見てみたいと思いました。
被害者のある人物への献身ぶりにジーンとしました。こんな理由で殺されてしまうのはあまりにも
可哀想だ・・・。

北森鴻『奇偶論』
こちらも久々の那智シリーズ。三國メインの話なので、那智先生はあまり出て来ませんが、さすがの
存在感。いつもの『ミ・ク・ニ』の呼びかけもちゃんとあります(笑)。それにしても三國
さん、こんなに弱弱キャラでしたっけ?^^;もっと自信持ってーー!と弁護してあげたくなり
ました。頑張れ、ミクニ。ミステリとしては弱さも感じましたが、このシリーズが読めただけで
満足。

米澤穂信『身内に不幸がありまして』
既読。「儚い羊たちの祝宴」参照。ガツンとやられた一作。これはまさしくフィニッシング・ストローク
作品だと思います。

乾くるみ『四枚のカード』
以前に読んだシンクロ探偵・林真紅郎シリーズの真紅郎の兄が探偵役。かなり面白く読んだのですが、
最後の謎解きはもう一ひねり欲しかったような。実は多分このシリーズが一冊に纏まった『六つの
手掛かり』がちょうど図書館から回って来ているところです。これも入ってるだろうなぁ^^;
探偵役の林茶父(はやし・さぶ←名前がスゴイ)なかなか面白いキャラなので楽しみです。

北山猛邦『見えないダイイングメッセージ』
気が弱い名探偵(?)音野順が活躍するシリーズ、だそうです(今回が初読)。音野の言動は
確かにちょっとイライラ。その音野を勝手に祀り上げる白瀬の言動にも弱冠イラっとしましたが^^;
でも、音野は確かになんとなく庇護欲にかられるキャラかも。一冊に纏まってるなら読んでみたい
けれど、出てるのでしょうか。最初、引っかかる点があって斜に構えて読んでいたのですが、ラスト
でその部分もきちんと説明がついていたのですっきりしました。この人、過去に読んだ長編は
いまいちの印象なのですが、この間読んだアンソロジー収録の作品もなかなかだったので、短編の
方が向いているのかも・・・?


はずれの作品は一作もなかったです。どれも水準以上の面白さはあると思います。
ミステリ好きならば読んで損はしないアンソロジーでしょう。おススメ。