歌野晶午さんの「絶望ノート」。
中学二年の大刀川照音(しょおん)は、ジョン・レノン好きの父親の趣味でつけられた名前が
きっかけで、同級生からいじめられるようになってしまう。何もかもが嫌になり、何度も神様に
祈りを捧げたが、どうにもならなかった。そして、彼は自らの『絶望』を日記に記すことにした。
彼の心の叫びが綴られた日記を見つけてしまった母親は、息子が本当にいじめに遭っているのか
調査して欲しいと興信所に依頼する。一方、照音は次第にエスカレートして行くいじめに必死に
耐えていたが、ある日、校庭で見つけた石のおかげでいじめから救われたことを契機に、その
石を自室に持ち帰り、『神』と崇めるようになる。そして、彼はいじめグループの同級生たちの
死を『神』に願い始めた。すると、一人、また一人と死を願った同級生たちが実際に死んで行く
ように――彼らに鉄槌を下しているのは本当に『神』なのか?その裏には驚くべき真相が隠されて
いた――書き下ろし長編ミステリー。
はい。という訳で歌野さんの新刊『絶望ノート』です。タイトルから嫌な話なのは予測できて
ましたが、ほんとにその通りの嫌な話でした(笑)。多分『デスノート』みたいに、ノートに
名前を書いて行った人が殺されて行く話なんだろうなぁと思っていましたが、そちらも予想
通り。ただ、私は『デスノート』の方は良く知らないので、両者の比較はあんまり出来ない
のですが(じゃ、引き合いに出すなよって話なんですが^^;)。
延々と続く主人公によるいじめの告白部分には、ほとほと気が滅入りました。最近の中学生の
いじめはここまで陰湿なのか、とこちらが絶望的な気分になりました。とにかく、出て来る登場
人物にほとんど好感が持てる人物がいないし(唯一来宮だけは良さそうな人物だったけど、その
優しさもどこまで本物なのか疑問だったし)、出て来るエピソードもこの上もなく不快なもの
ばかりだし。題材が題材なだけに仕方がないとは云え、やはりこの手の話を読むのは精神的にしんど
かったです。いじめられる側の照音の態度も卑屈でいやらしく、あまり同情出来るものではなかった
ですし。リーダビリティがあるので読む手が止まるようなことはなかったのですが。精神的に
辛い時に読むと引きずられちゃいそうなので、これから読まれる方は気力のある時の方が良い
かもしれません^^;
ただ、ミステリとしての出来はかなり良かったと思います。ノート自体のある部分に関しては
(後述します)、おそらくほとんどの人が気付けるのではないかと思うのですが、終盤に
明かされるそれぞれの殺人のからくりはほとんど予測できず、驚かされました。まさか、ここまで
錯綜しているとは・・・。さすがに歌野さん、一筋縄では行かないブラックさ。
とにかく、一番の黒幕に対する嫌悪は半端じゃなかったです。やりたかったことは分かったけど、
いくらなんでもやりすぎでしょ。こんな※○○○怖すぎるよ~^^;;
以下ネタばれあります。未読の方はご注意を!
『絶望ノート』自体がフェイクだということは、割と早い段階で気付けてしまうと思います。
特に、母親が庵道の所にお見舞いに行った辺りではバレバレですし。いじめられてるにしては
文章が明るいというか、ユーモアがあって悲壮感が足りないところも違和感ありましたし。
ここまで創造出来るのもある意味才能だとは思いますけど、たった二人に読ませる為だけに
ここまですること自体に、相当に粘着質で性格の悪さが伺えます。いくらほったらかしに
していたからといって、こんな風に自分の子供が育ったらショックで寝込んじゃうよ・・・。
庵道の事件に関しては犯人はその通りだったんだけど、他の殺人に関しては全く推理できなかった
です。ここまで複雑に思惑が絡み合っているとは・・・。すべてがある人物の為に犯した犯罪
だったのに、当の人物にはひとつもその想いが届いていないのがなんともやるせなく、後味の
悪さを感じました。それぞれに実行犯は違うけれど、これは紛れもなくある一人の人物の完全
犯罪と云えるでしょうね。でも、P374で匂わせている次のターゲットに関しては一体誰に
やらせるつもりなのか・・・それとも、ここで初めて自らの手を染めるのか。どっちにしても、
人間の皮を被った悪魔としか言い様がありません。こんな人間にこそ、『神』は天誅を下すべき
なのではないでしょうか。いつか、因果応報となって自分に災いが返ってくるのではないかしら。
気になったのは、国府田さんの人物像。彼女が照音の自室に来て話した部分は全部実際にあった
ことなんでしょうか。そうだとすると、あまりにも性格が悪すぎると思うんですが・・・彼女の
言葉の理不尽さには腹が立って仕方がなかったです。是永に関しても、隠し撮りのくだりは
いくら照音をけしかける為だとしても、それをネットで公開するのは明らかに『いじめ』の範疇
としか思えず、これが友情から来たものというのはいまひとつ納得がいきませんでした。
あと、不満だったのは興信所の鯰田の存在。意味深に出て来た割に、結局大した活躍もなく
後半では忘れられた存在になってしまったのが消化不良でした。母親が依頼した時はいじめる
側に何かしらの報復を考えているようなことも言ってたのに。何の伏線でもなかったとは・・・^^;
あ、でも、いじめの事実が発見できなかったからか・・・。でも、その辺りの結果報告も
書いて欲しかったなぁ。
※中学生
気になる点もありましたが、トータルではなかなか良く出来た読み応えのあるミステリーでした。
後味は最悪ですが(^^;)、歌野さんらしい巧さと黒さが表れている作品ではないでしょうか。