ミステリ読書録

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恩田陸/「メガロマニア あるいは「覆された宝石」への旅」/日本放送出版協会刊

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恩田陸さんの「メガロマニア あるいは「覆された宝石」への旅 」。

NHKスペシャル番組の為、マヤ・インカ文明を追ってメキシコ、グアテマラ、ペルーを旅した
17日間を追った紀行エッセイ。著者撮り下ろしのカラー写真50点も掲載。

NHKスペシャル番組で特集されたマヤ・インカ文明の紀行文を書く為に旅した中南米の国々の
体験記を綴った紀行エッセイ集。恩田さん自ら撮影した写真と、この旅からヒントを得て生まれた
小説の一部も併せて収録されています。
タイトルの『メガロマニア』は、誇大妄想古代妄想を合わせた恩田さんの造語だそうです。
副題の『覆された宝石』に関しては、
中南米の古代遺跡は)それぞれの技術でそれぞれの輝きを放っていた文明が、植民地主義
カトリックによって一元化され、一色に塗りつぶされていくさまは、宝石を覆してその地金に
石を詰め込んでいくさまにちかいのではないか。そんな風に感じられたからだと書かれて
います。恩田さんらしいインスピレーションから生まれた言葉という感じがしますね。

まず、一番驚いたのは、あんなに高所恐怖症で飛行機恐怖症だった恩田さんが、11回もの
トランジットを経て中南米に行けたことですね。「『恐怖の報酬』日記」の時からは考えられない
成長っぷりです。相変わらず飛行機自体は苦手なご様子ですが、アイルランドの時のあのパニック
ぶりは影をひそめ、大分冷静に飛行機と向き合えるようになったようです。慣れってすごいなぁ。

紀行エッセイとはいえ、「『恐怖~』」の時のような笑える要素は皆無。やはり、行った場所が
古代遺跡やピラミッドやのような文化的遺産みたいに神聖な場所が多いからかもしれません。
収録されている写真がまた曇天で全体的に暗いものが多い。高地の天気は変わりやすいというのも
あるでしょうけど、湿り気を帯びて靄がかかったような寒々しい写真が多くて、一冊通して
暗い印象を感じるエッセイ集でした。
高地に行く関係もあり、お酒を控えていたせいもあるかな。あの豪快な飲みっぷりを楽しんで
いたところもあったので。それでも、やっぱり普通の人よりは飲む回数が多かった気はするけど
(苦笑)。

個人的には古代文明や古代遺跡にはそんなに興味はないのですが、マチュピチュはいつか行って
みたいとずっと思っている場所です。人間がなぜあんな高地に石の都市を作ったのか。考えれば
考える程不可解です。解明されない、不可思議なものだからこそ、人を惹きつけてやまないので
しょうけれどね。いつか私もその場に立って、風に向かいながら何かを感じてみたいです。
マチュピチュ以外にも行ってみたい場所は山ほどありました。特にペルーの風の谷。山に
囲まれたインカの宿場町。隠れ里。何かいろんな秘密が隠されていそうな町です。恩田さんに
強烈な印象を残すくらいなのだから、絶対行く価値がありそうですね。

でも、古代文明も古代遺跡も大自然も、恩田さんの目を通して語られる、旅で出会ったすべての
ものにロマンを感じて、私もそれに触れたくなりました。同じものを見ても、恩田さんみたいに
インスピレーションは浮かばないだろうけど^^;

嬉しかったのは、今回も新たな恩田さんとの共通点を発見できたこと。高所恐怖症でも、特に
展望台とか高い建物から下を見るのがダメだとか、血の成分が男性なみに濃くて、献血すると
喜ばれるとか。私も今は海外渡航経験の関係で献血できなくなってしまいましたが、以前は
献血フェチで、行く度に献血ルームの人に『濃くていい血ですね~」と褒められていたので(笑)。

合間に挿入されている小説の断片が、どんな風に一冊の作品になるのか、楽しみです。
プロローグで、少女が鳥のように下界を俯瞰しながら飛んでいる場面を読んだだけでも、壮大な
ファンタジー小説のイメージが膨らみますからね。恩田さんが今回の旅でどんな作品を紡ぎだすのか、
早く読みたくてうずうずします。古代ロマン溢れる、『上と外』なみの長編を期待したいなぁ。

きっかけとなったNHKの番組も観てみたかったなぁ。いつやってたんだ、そんなの。全然知らな
かったぞ^^;
恩田ファンはもちろん、古代文明や遺跡に興味のある方には愉しめる一冊ではないでしょうか。