ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

初野晴/「退出ゲーム」/角川書店刊

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初野晴さんの「退出ゲーム」。

高校一年の秋のある日。弱小吹奏楽部でフルートを担当する穂村チカは、天岩戸に引きこもった
天照大御神の如くに自宅に引きこもってしまった幼馴染の上条ハルタを再び学校に登校させる為、
彼が一人暮らしをしているアパートを訪れた。ハルタは、学校でのある出来事がきっかけで、
一週間も不登校を続けていた。ハルタとチカは小学校に上がるまで家が隣同士の幼馴染で、高校
に入って再会し、同じ吹奏楽部に入っている。チカはなぜかいつも困ったことがあるとハルタ
頼りにしてしまうのだ。そして、今回はもうすぐ開催される文化祭が中止に追い込まれる危機に
直面していた。チカは文化祭の実行委員だった。化学部が展示する為に作った硫酸銅の結晶が
紛失したのだ。劇薬が盗難の被害に遭ったとなったら警察沙汰になることは必至、挙句文化祭
中止に追い込まれることになる。楽しみにしている文化祭、チカはなんとかそれだけは阻止
したいと思っていた。それには明晰な頭脳を持つハルタの知識が必要なのだ。ハルタはチカの
必死の説得に折れ、文化祭開催の為問題解決に乗り出した――(「結晶泥棒」)。幼馴染の
ハルタとチカが校内で起きた事件を解決する連作ミステリー。


続編が出ると聞いて、一作目が読めてないのに予約するのもなぁ、でも、出てすぐに予約しないと
またいつ読めるかわかんなくなっちゃうしなぁ、どうしたもんかなぁ・・・と悩んでいたのですが、
毎回私に読みたい本との奇跡の出会いを提供して下さる隣町図書館の開架にめでたく返却。ネット
でその情報を仕入れてすぐに電話で取り置き要請して無事手元に届きました。いやー、またしても
タイミングばっちりで読めてほくほく。わたし、絶対本の神様に愛されてるわ!!と一人ほくそ
笑む女がいるのでした(すみません、すみません、身の程を弁えないバカ野郎で^^;でもそう
勘違いするほど嬉しかったんだよぅ)。

と云う訳で、楽しみにしていた本書。うん。楽しかった!最初は引きこもりで登場したハルタ
学校に復活した途端に人気者になってるところに違和感を覚えて首を傾げながら読んでいたの
だけど、だんだん彼のキャラに馴染んできてからは楽しく読めるようになりました。ハルタ
チカの関係がすごくいいですね。漫才みたいな二人の会話が可笑しくてにやにやしちゃいました。
二人が同じ人物に恋をするライバル関係というのも面白い設定です。男の子相手に本気で嫉妬
しているチカちゃん、その時点で女としてどうなんだ、と思わないでもなかったですが・・・。
美貌で頭が切れて、ホルンも上手で、なんでも持っているハルタ。外見は可愛らしいし、一見
穏やかそうなのに、内面は結構強かでかなりの情熱家な感じがします(特に草壁先生への激しい
恋心なんて、完全に女の子を超えている^^;)。ちょっと高校生にしては達観しすぎてる感じも
しましたが。一作ごとに弱小吹奏楽部の部員が増えて行くところが面白い。続編もこの調子で
増え続けて行くのかしら。なんといっても、チカとハルタ共通の願いは草壁先生を吹奏楽
華々しい表舞台に連れて行くことですからねぇ。彼らの願いは果たされるんでしょうか。
草壁先生のキャラはもう少し確立されてると良かったなぁ。ハルタとチカがそこまで入れ込む程
の魅力があまり感じられなかったので・・・。二人が関わる事件の終局のいい場面で必ず顔を出す
ところもちょっと謎。なんだか裏がありそうな気もしたりして。深読みしすぎか。
今まで読んだ初野作品とは大分雰囲気が違いましたが、テンポ良く楽しく読める学園ミステリで
面白かったです。


以下、各短編の感想。

『結晶泥棒』
硫酸銅から○を作るというのは意表を突かれましたねぇ。でも、一介の高校生が考え付くこと
かなぁ・・・ほんとに、ヘタすると逆効果になりそうで、怖い。ラストはちょっとご都合主義な
感じもしましたが、○○○が死ななくてほっとしました。

『クロスキューブ』
ルービックキューブなつかしーー。そういえば、最近再ブームが来てましたねぇ。私は苦手
でした。スネークキューブ(知ってる人いるのかな^^;)の方がよくやってたなぁ。
キューブに隠されたメッセージにじーん。しかし、もっとわかりやすくメッセージ残せよ、
ってツッコミたくなりましたけどねぇ^^;キューブを崩すことをスクランブル、それを
する人のことをスクランブラーとか、初めて知ったルービックキューブのマメ知識にへぇ~!
でした(笑)。国産完熟パインジュースが飲みたい(笑)。

『退出ゲーム』
本のタイトル聞いた時から、一体どんなゲームなのか見当もつかずにいたのですが、こういう
ことだったとは。シチュエーションゲームというか、これって完全にガラスの仮面の世界じゃん!
とか思いながら読みました(マヤとか出てくるし!笑)。ゲームの場面がすごく面白かった。
名越のキャラがいいですねぇ。藤間さんの真面目そうなのにノリがいいところもウケました。
マレンのラストに爽やかな気持ちになりました。良かったね。

『エレファンツ・ブレス』
三つの色の真相には驚かされました。ミステリとしてはこれが一番出来が良かったかな。ただ、
この真相に気付いた高校生が三人もいたというのはちょっと信じがたい。みんな頭良すぎない?
確かに、それぞれ真相に気付けた理由は述べていたけれど・・・。いくら教科書に載ってたって、
三つの色からその歴史的事実を思い浮かべることが出来る人間なんてそういないように思うの
ですが。みんな高校生のくせに達観しすぎだよ~^^;
最後のチカの言葉で、後藤さんとおじいさんが救われていたらいいなぁと思う。チカ、良いこと
言ったねぇ。あまりいいところのなかった彼女の見せ場があって良かったです(笑)。



読後爽やかな連作ミステリーでした。かけあい漫才みたいな登場人物たちの会話が楽しかったです。
続篇も楽しみです。