ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

初野晴/「惑星カロン」/角川書店刊

イメージ 1

初野晴さんの「惑星カロン」。

コンクールと文化祭を経て、ちょっぴり成長した清水南高吹奏楽部。更なる練習に励む中、
チカは「呪いのフルート」に出会い……!?楽器に秘められた謎、音楽暗号解読、旧校舎の
怪事件。珠玉の青春ミステリ最新刊!(紹介文抜粋)


ハルチカシリーズ第五弾。久々二人に会えて嬉しかったです。今回は冒頭のイントロダクション
+四編の中編から構成されています。といっても、ページ数はラストの表題作が圧倒的に多い
ですが。
今回はミステリ的な面白さはちょっと控えめだったかな。いつも思いがけない切り口で
あっと言わせる仕掛けがあって楽しませてくれるのだけど。今回はあんまりそういうのがなかった。
ただ、それがなくても、十分楽しめる内容ではありました。吹奏楽の甲子園普門館
目指して奮闘する清水南高校吹奏楽部は、一時部員5名で廃部の危機にあったものが、ハルチカ
コンビの頑張りで、紆余曲折を経て24名まで増えて小編成B部門にエントリー出来るまでに成長。
ただ、彼らの目標はあくまでも草壁先生をA部門まで連れて行くこと。ハルチカコンビはまだまだ
夢に向かって邁進中なのです。
なんかもー、青春っていいなぁってしみじみ思うシリーズですね。私が高校生の頃は、こんな
夢とか持ってなかったし、一つのことに夢中になったりとかもなかったから、ただただ羨ましい
って感じです。チカちゃんみたいに、夢があって大好きなひとがいて、異性の親友がいて、
支えあって行ける仲間がいる青春時代、過ごしてみたかったぁ・・・(遠い目)。
今回も、チカちゃんとハルタの掛け合いが絶妙でした。チカちゃんは、ほんとに愛すべき
性格だなぁ。


一作づつ軽く感想を。

『チェリーニの祝宴―呪いの正体―』
フルートの腕を上げたいと願うチカは、楽器自体をグレードアップすればいいと
思い立って、楽器店巡りを始めることに。そこで、ある楽器店で出会った銀製の
フルートに一目惚れしてしまいます。しかし、店長によると、そのフルートは
『呪いのフルート』として持ち主が転々としていて、様々な曰くがついているという
――。
チカちゃんママのWAHOO!知恵袋にはウケたなぁ。やっぱり、あの親にしてこの子あり、
なんですね(笑)。
フルートの模様に隠された秘密の部分は面白かったです。

ヴァルプルギスの夜―音楽暗号―』
藤が崎高校吹奏楽部の部長から、部内の一部の生徒の間で流行っているという
携帯による音楽暗号問題に挑戦することになったチカたち。その暗号にはとんでもない
秘密が隠されていた―。
随分、限定したターゲット相手に考えられた暗号だなぁ、とそこはちょっと腑に落ちない
ものがありましたね。だって、これを解ける人間って音楽に造形が深いごくわずかだと思うし、
解けたとしてもその人物が出題者の意向に沿うとは限らないだろうし。一体何が目的だったの
かなぁと思う。こんな面倒なことをして何かメリットあるのかな、と。自称OBの正体が
気になりました。最近高校生の間でこういう犯罪が横行しているというニュースが少し前に
世間を騒がせたばかりだから、そいういう意味ではリアリティありましたけどね。

『理由ありの旧校舎―学園密室?―』
一夜にして、旧校舎のすべての窓やドアが開けられるという珍事が起きた。盗られたものは
ないようだが、果たして犯人の動機とは―?
旧校舎の窓やドアが全開になった理由は、実は早々にわかっちゃいました。これは、結構推理出来る
人が多いんじゃないかな?でも、生物部の女子たちが大泣きした理由には目が点になりましたね。
なんとも初野さんらしい展開というか・・・。
携帯の予測変換が真相解明のポイントになるところは、巧いなーと思いましたね。

『惑星カロン―人物消失―』
ハルチカコンビが、『呪いのフルート』の件で懇意になった楽器店店主の中3の娘あゆみは、
フルートのアンサンブルコンテストで日本人の作曲家が作ったオリジナル楽曲の「惑星カロン
を使用したいと考え、ネット検索していると、作曲家の息子のブログにたどり着く。しばらく
使用許可を巡りやり取りをしていると、S市のあるセレクトショップで起きた人物消失事件についての
意見を求められる。一方洋服を買いに街に繰り出したチカは、ショッピングモールで草壁先生を
見かけ声をかけようとしたところで、突然現れたハルタに引き止められる。ハルタは草壁先生が
やってくることを知って張っていたらしいのだが――。
人口知能デジタルツインに関しては、近い将来実際に実現しそうなリアリティがありますね。
亡くなった人の人格をネット上で再現出来て、生前のようにやり取り出来るとしたら、
大切な人を亡くした人間にとっては藁にもすがるような気持ちになるでしょうけど・・・。
でも、こういうのが実現しちゃったら、ネットの世界なんてほんとに何が真実なのか全くわからなく
なっちゃいそうですけど。
あゆみちゃんの恋の結末が切なかったです。
草壁先生の謎がちょっぴり明らかになりましたね。ほんのちょっぴりだけですけど。かなり
重い過去がありそうです。先生が失った人は恋人だったのかなぁ。先生がコンサートを放って
失踪した理由が非常に気になりますね。そろそろ次辺りで明らかになるのかなぁ。

チカちゃんとハルタの恋はまだまだ前途多難そうですね。っていうか、おそらくどちら恋も
成就しないで終わりそうな気がするな。これも苦い青春の1ページってことでね。
チカちゃんの天然っぷりに磨きがかかっていて、今回もたくさん笑わせてもらいました。
彼女は、このままの性格で育って欲しいなぁ。曲がらないで欲しいです。ハルタが側に
いるから、きっと大丈夫だとは思うけれど。二人の間に恋愛関係がないだけに、この友情が
ずっと大人になっても続くのだろうと思えるところがいいですね。二人の関係が大好きです。
変わらないでいて欲しいな。

次作も楽しみです。