ミステリ読書録

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辻村深月/「子どもたちは夜と遊ぶ 上・下」/講談社文庫刊

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辻村深月さんの「子どもたちは夜と遊ぶ 上・下」。

二年前、月子の大事な狐塚孝太が、二人の在学するD大学を含めた関東ブロックのいくつかの
大学間で行われた論文コンクールに応募した。最優秀賞には四年間のアメリカ留学が副賞として
掲げられていた。巷では、最優秀賞は、狐塚と同じ研究室に属する木村浅葱の一騎打ちだと噂
されていた。しかし、コンクールの審査結果は、該当者なしと発表された。その実、C大学工学部
のある学籍番号から『i』という名義で投稿された論文が狐塚や浅葱を上回っていたが、どこの誰
だかわからず連絡が取れない為、やむ無くそういう結果になったのだった。結局、『i』の正体は
わからないままだった。そして、二年後、高校三年生の少年が突然行方不明になる事件が起きた。
事故なのか事件なのか、彼の両親が情報提供者に懸賞金を懸けて大々的に訴えたことで世間は
騒然となる。事件の裏には『i』がいた。そして、それを知っているのは、浅葱だけだった。
二年前に現れた『i』の正体は、浅葱が幼い頃に別れた双子の兄だったのだ――『i』は、
浅葱に、あるゲームの開始を告げてきた。『待っているよ、次は君の番だ』。殺人ゲームの裏
に隠された真実とは――?


読み逃していた辻村作品。先日、鯨さんの『KAIKETSU!~』と共に中央図書館でようやくゲット。
でも、次の日ネットで予約確認したら、上巻に予約が一人入っていたので、本当に一日違いで
上下巻揃って借りられたようで、ラッキーでした。新刊はまだ図書館入荷しておらず、いつ
読めるか目処がついてませんが^^;チヨダコーキの小説の書籍化と聞いているので、読むのを
とても楽しみにしているのですけれどね。




えっと、少々ネタバレ気味の文章になっております。未読の方はご注意下さい。
(大々的なものではありませんけれど。読まれる場合は自己責任でお願いします)
















文庫とはいえ、上下巻併せて一千ページ超えはなかなかに読み応えがありました。上巻は
登場人物のキャラや人間関係にどうも違和感ばかりを覚えてしまい、読む時間が取れないことも
相まって辻村作品にしては結構時間を取られてしまったのですが、下巻はさすがにぐいぐい
読まされてほぼ一日で読了。相変わらず、クライマックスまでの経緯が長くて回りくどい
傾向がありますね、辻村作品は。その分、最後で報われるからいいんですけどもね。今回も、
ラストではいい意味で『ヤラレタ~』の連続でした。ただ、すっきりしない部分もいくつか
ありましたし、一番大きな謎であった『i』の正体にははっきりいって、一番そうであって
欲しくない真相だったので、かなりがっかりしました。だって、今回はほんとに『i』の正体
が誰だか全くわかっていなかったので、自分の中でいろんな可能性を挙げて推理していたの
ですよ。でも、どれもしっくり来なくて、これは誰が『i』でも意外性がありそうだぞ、と
期待していただけに・・・なんだ、こっちだったのかー・・・と正体がわかった瞬間、かなり
テンション下がりました。だって、意外性が全くないんだもの。こういう真相って、もう
かなり使い古されちゃってるし、今更これ使うの?と思いました。一番驚きたかったところで
驚けなかったのはちょっと痛い。でも、それだけで終わらないのが辻村作品。ある二人の登場
人物の人物関係にはすっかり騙されていたし(途中で『あれ?』とは思ったのですが^^;)、
何より、最終章にはノックアウト。これも、最後の最後まで気付かないまま読んでました。
うわーん。せ、切ない・・・。でも、彼が許しがたい犯罪を犯したことは事実なのだから、
この後の彼は一体どうなったのか、すごく気になります。あのまま捕まっても間違いなく
死刑だろうけれど・・・。あ、でも精神鑑定で減刑される可能性は高いのか・・・。でも、
被害者浮かばれないよなぁ。


今回、かなり残虐で陰惨な描写が多くて、途中読んでいてかなり気が滅入りました。ゲーム
感覚で罪もない人を殺して行く、こういう話はやっぱりどうしても心情的に理解不能で、
読むのがしんどいです。犯人の犯行シーンには嫌悪感しか覚えませんでした。悩んだって
泣いたって、やっていることは人道に背くことであり、許し難い。彼の過去には同情もするし
酷いと思ったけれど、それでもやっぱり、自分の心の闇をこういう形で発散させたことに対する
憤りは変わらなかったです。もっと早くに彼を照らす『光』と出会えていたなら、全く違った人生
になったでしょうけれど・・・。


とても面白かったのですが、先に述べたように、キャラ造詣や人間関係には疑問を覚えるところも
多かった。そもそも、ヒロインの月子のキャラがどうも好きになれなかった。美人で派手好きで
わがままでなみんなの『お姫様』。周りの誰もがこういうキャラを『大好き』と受け入れる
ところもちょっと理解出来なかった。だいたい、誰かに対して臆面も無く『あの人が大好き』
とか口に出来る人間なんて、そうはいないと思うんですよ。でも、この作品にはそういう人物が
たくさん出て来る。普通、好きだと思ってても、それを誰かに直接言ったり出来ないものだと
思うんですけど。なんだか、ちょこちょこリアリティのなさを感じるエピソードがあって、
なんとなく癇に障るというか、イライラさせられました。月子の紫乃の対する態度も理解不能
だったし。わざわざ派手な自分を隠して地味にして、自分を押し殺してまで続ける友情って何
なんだろうって思ってしまう。月子のキャラはなんだかブレがあって、最後まで良く分からない
ままでした。
あと、今回は秋先生のキャラも鼻につく感じがしました。『ぼくのメジャースプーン』では
好きなキャラだった筈なんだけどな。自分のことをさらっと『出来る人間』みたいに自慢する
ところも厭だったし、自分の教え子をちゃんづけで呼ぶところも、なんか、どうも好きに
なれなかった。それに、男子学生を消した事件の真相って結局なんだったんだろ。秋先生は
一体彼に何を告げたんでしょうか。人間一人をそんな簡単に消してしまえるもの?得体の
知れない胡散臭さを感じて、裏に何かあるのかと勘繰ってしまいました。一体、彼は何者
なんでしょうか・・・。
恭司のキャラも好きになれなかったです。なんで彼は出て来たんだろ?と思ったけど、
ラストの仕掛けの為だったんだなぁ。その辺りはやっぱり辻村さんの巧さなんだろうな。
月子と狐塚を含めた周りの人間関係、『冷たい校舎の時は止まる』の深月と鷹野を始めとした
友人関係とそっくりだなぁと思いました。一人の弱い女の子をみんなで守るっていう
関係を描くが好きなのかな、辻村さんは。

もう一つ、気になったのは、赤い靴の被害者。彼女を被害者に決めた理由は一体何だったの
でしょう。名前だけだったとしたら、そこまで遠い場所で見つけなくても、もっと身近で
良かったのでは。どういう経緯で彼女をターゲットにしたのか、そこはきちんと書いて
欲しかったです。








リーダビリティは抜群で、嫌な話なのにぐいぐい読まされてしまいました。面白かったです。
でも、お話として好きではないかな・・・。やっぱり、辻村作品は希望の持てるラストがいいなぁ。
なんか、作品が長い分、記事も長くなっちゃった^^;もっとコンパクトにまとめるつもり
だったのにー^^;辻村作品と違って、長い分報われる記事でもない・・・最悪^^;;