ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柄刀一/「fの魔弾」/カッパノベルス刊

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柄刀一さんの「fの魔弾」。

南美希風は、目が覚めたら密室の中で銃で撃たれた男の死体と共にとり残されていた。意識を
失う前のことが思い出せない。気がついたら死体が横にいた――これは、あの事件の再現なのか?
あの、美希風の旧友が犯人として検挙され、裁かれている二重密室事件――この密室を脱出する
には、あの事件を解決するしかないのか――南美希風が友の為に不可解事件の謎に挑む。


ペガサスと一角獣薬局がなかなかの良作だったので、同シリーズと知って手を出して
みました。多分これが一作目に当たるのではないかと思うのですが、もしかしたらこれの前にも
作品があったりするのかも?おそらく本書と『ペガサス~』の間にあの、分厚さで京極本を抜いた
と思われる超大作の『密室キングダム』があるのだと思うのですが。『密室~』は何度も図書館
で手に取っているのだけれど、あの迫力ある分厚さに恐れをなして、結局そっと書架に返して
終わります^^;あれ読み始めたら二週間くらいはかかりっきりになりそうなんだもの・・・^^;;

しかし、本書を読んで、更に『密室~』に手を出す気が失せてしまいました。だって、やっぱり
文章がなんだか読みにくいんだもの。そんなに難解な用語が使われてる訳でもないし、会話文も
それなりに多いのに、なんだかやたらに1ページ読むのに時間がかかりました。真相に至るまでの
展開が短調で、事件についての考察がだらだらと続いて面白味に欠けるというのが最大の敗因
かと思うのですけれど・・・。構成は現在と過去が交互に描かれ、最後にそれが繋がって行く
という、なかなか凝ったものなのですが・・・。特に『過去』パートの法定のシーンは同じような
事件の質疑や考察が繰り返されてはっきりいって退屈だった。真相となる二重密室のトリックは
なかなか良く出来ているし面白かったのに、お話として面白くなくなっちゃってるところがとても
残念。無駄な要素を削ってもっと読みやすくしたらもっといい作品になる気がするんですが。
美希風と憲也の友情の部分をもっとクロースアップさせるとかね。友達の為に立ち上がる美希風
っていう流れは良かったと思うんですけど、そこも見せ方がいまひとつ上手くないから友情物語
としても中途半端になっちゃってる。美希風のキャラももうちょっとはっきりカラーを出して
欲しいなぁ。いいキャラだと思うんだけど、どうもそれがいまいち生かされてないように感じ
ました。姉が美貴子で弟が美希風。ご両親は『ミキ』って響きに拘ってるんですかねぇ。父親か
母親のどっちかがミキがつく名前だったりして。個人的に、ちょっと親近感が湧く名前だったり
するんですけど(笑)。

でも、先述した通り、ミステリとしてはなかなか面白かったです。二重密室最大のポイント
であるあるモノの秘密に関しても「へ~、そうなんだ~」って感じでしたし。ただ、この殺害方法
だと、被害者が受ける弾丸の位置がその部分になるのはおかしいように思うのですが・・・。
○にあたるのが普通じゃないか?そこはちょっと腑に落ちないものを感じました。
ただ、被害者が事前に謎の人物に襲われた理由なんかには驚かされました。でもこの殺害方法
って、事前によっぽど予行演習しないと上手くいくかどうかって、かなり賭けのような気がしますが。
緻密に計算された犯行ではありますが、かなり偶然に頼っている面がなきにしもあらずのような。
密室事件の背後に隠されたある事実にも驚かされました。まさか、ある人物の死が最後にこう
繋がるとは。なんだかとてもやるせなく悲しい気持ちになりました。終盤の展開はなかなか
良かったです。途中がもっと面白ければねぇ・・・(それ、致命的?^^;)。
ちなみに、本書はディクスン・カー『ユダの窓』に触発された作品、らしいです(ネット調べ)。
なんだかんだ言いましたが、本格ミステリにとことん拘ったこういう作品はやっぱり好きですね。
ただ、『密室キングダム』を読む日が来るのかどうかは、神のみぞ知る、ですけれど^^;