ミステリ読書録

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飴村行/「粘膜人間」/角川ホラー文庫刊

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飴村行さんの「粘膜人間」。

「雷太を殺そう」――父親の再婚相手の連れ子である義弟の雷太は、一ヶ月程前から急激に凶暴に
なり、父親や利一・裕二の兄弟に暴力をふるい始め、手がつけられなくなった。11歳にして
身長195cm、体重が105キロもある雷太の暴力に為す術がない利一と裕二は、雷太の
殺害を計画する。力で雷太に敵わない二人は、蛇腹村の河童に雷太殺害を依頼することに――
第15回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。


昨年末のランキング本でダークホース的ランクインをした『粘膜蜥蜴』の作者によるホラー大賞
受賞のデビュー作。『~蜥蜴』は早々に入手していたのだけれど、とりあえず一作目から、と
こちらから手に取ってみました。『~蜥蜴』よりもグロいと聞いていたので、かなり身構えて
いたせいか思った程ではなく、結構平気で読めちゃいました。やっぱり、平山(夢明)
さんを経験しちゃうと、並大抵のグロさじゃ動じなくなっちゃってるのかも・・・それも問題
大アリだと思うけど(人間として^^;)。でも、第弐章の拷問シーンはさすがに引きました。
痛いのダメなんだってば・・・。あの拷問シーン、物語に必要だったのかは疑問でしたが・・・。
第壱章の書き出しが秀逸。11歳なのに身長195センチ、体重105キロというとんでもない
巨漢の義弟を殺害する計画を立てる利一・裕二の兄弟。力では敵わないことを痛感している利一は、
その殺害を河童に依頼するという、なかなかトンデモない設定で引き込まれました。この河童の
キャラがまた滑稽でちょっとウザくて莫迦で面白い。雷太殺害を実行させる為に利一がついた嘘
に素直に騙され、自分が村で一番強くてカッコよくて女にモテると勘違いして、まんまと計画に
乗せられてしまう。巷に定着している河童のキャラクターとは随分性格が違っていて、気持ち
悪いのだけど、どこか憎めない純粋さを持っている辺り、なかなかキャラ造詣の上手い作者だな、
と感心させられました。独特の河童用語の持つ変な気色悪さもいい感じ。まぁ、この辺りは好き
嫌いが分かれそうだな、と思いましたが。第壱章のラストから容赦ない結末で物語が閉じるので、
一体続きはどうなるのだろうと第弐章に突入してみると、いきなり主人公が変わり、壱章で出て
来た非国民ヒロインの視点に切り替わります。この第弐章が個人的には一番読むのがしんどかった
のですが、出来自体は一番良いと思います。途中の拷問シーンはともかく、終盤の展開はホラー
だと思って油断していたので、仕掛け自体はありふれているものの、素直に驚かされてしまい
ました。こういう黒いオチは非常に好み。これも、作者の容赦ないキャラへの仕打ちに怖気が
走りましたが。ヒロイン対憲兵のシーンは、実際戦中の日本で行われていたかもしれない、と
思うと、現代に生きていて良かった、と思わずにいられませんでした(もちろん、ここまで極端
だったとは思わないですけど^^;;)。
でも、最後の第参章にはガッカリ。雷太が再登場し、脳みそを半分失い記憶をなくした自分の
記憶を取り戻す為に、河童のモモ太と共に行動するという大まかなストーリーは面白かった
のですが、オチがあまりにも普通。もっと壮絶なラストになっていくのかと思ったのに、全く
意外性のないオチで、拍子抜け。この作者ならもっと違う方向に書けたのではないかなぁ。
巻末の選考委員の選評読んだら、この参章、投稿時は未来の話だったとか。それが批判されて
書き換えてこうなったのだとしたら、それは果たして良かったのかどうか。その、元の話と
比較してみたいなぁと思いました。もっと、予想を超える展開で読者を恐慌に陥らせるくらいの
破壊力が欲しかった。その点が残念。

とはいえ、なかなか奇抜な発想と卓越した描写力で、才能を感じる作品ではありました。
グロいし残虐だし陰惨だし、読んでいて精神を消耗する話ではありましたけど^^;
話題の『粘膜蜥蜴』の方が評判はいいようなので、読むのが楽しみ。この作者はちょっと
今後要チェックになりそうです。
最近、どなたかの影響で(笑)、ホラー大賞系を良く読んでいる気がするなぁ・・・。
ホラークイーンになる気は、間違ってもないけどね!(笑)。