ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

アガサ・クリスティー/「ABC殺人事件」/ハヤカワ文庫刊

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アガサ・クリスティーABC殺人事件」(堀内静子訳)。

1935年、6月、南アメリカからイギリスに戻ったヘイスティングスは旧友ノエルキュール・
ポアロを訪ねると、ポアロの元にABCと名乗る人物から不審な手紙が届いていた。その手紙には、
『今月の21日のアンドーヴァーに注意すること』と書かれていた。そして、21日、アンドー
ヴァーでアッシャーという名の老女が殺された。現場には、ABC鉄道案内が残されていた。しばらく
してポアロの元に、ABCから第二の手紙が届く。それにはベクスヒルに注意を促す内容が書かれ、
その数日後、実際ベクスヒルで第二の殺人が起きてしまう。現場には再びABC鉄道案内が残されて
いた。二件の殺人の捜査が難航する中、更に第三の手紙が届き、今度はチャーストンでの犯行が
仄めかされていた。しかし、犯人が住所を書き間違えたことによって、手紙がポアロの元へ届く
のが遅れ、ポアロが手紙を読んだのは犯行予告当日になってしまった。焦るポアロは急ぎ現場に
向かうが、チャーストン行きの列車の中で、すでに犯行が起きてしまったことを知る。犯人は
何故アルファベットの通りに犯行を行うのか――著者全盛期の代表作。


早くも今月の一冊登場です。カ行の作家のAから始まる作品とはコレでした。これで6月の読書が
楽になったぜ。ふふ。今更ですか?とまたしても言われそうなクリスティの超有名作。実は未読
でした。クリスティ自体読むのは多分学生時代以来だから十ウン年ぶりになるのかも。一時期海外
ミステリを集中して読んでいた時期に、『アクロイド殺し』や『そして誰もいなくなった』や
オリエント急行の殺人』辺りの代表作は読んでいたものの、本書は未読。随分前に日本の
ミステリ作家が競作した(寄稿作家は有栖川さん、恩田さん、加納さん、貫井さん、法月さんの
六人。超!豪華でした)アンソロジーABC殺人事件を読んだ時に、本家を読んで
いないことをとても悔やんでいたのもの、すでにその時には海外ものに手がでなくなっていた時
だったので、結局気になりつつ未読のまま今に至ってました。月イチ海外企画がスタートした時
からクリスティは読みたいと思っていたのと、ABCのアルファベット順に殺人が起こるミッシング
リンクものの傑作との知識もあったので、ここらで手に取ってみようと思った次第。

いやぁ、久々のクリスティだったんですけどね。やっぱり読みやすいし面白い。先月のギルバート・
アデアよりも更に読みやすかった気がする。もちろんお話が面白かったっていうのが一番大きい
のですが、するするっと一日で読めてしまいました。ただ、やっぱり登場人物のカタカナ名には
少々苦戦。ABCの順番に殺人が起きる訳ですが、その都度事件関係者たちがいて、しかも中盤から
その事件の被害者たちが集まって協力し合う会が結成されるので、誰がどの事件の関係者だった
のか把握するのが大変でした(というか、ほとんど把握しきれず読んでいたような^^;;)。

事件のからくりに関しては正直、なんとなく予想がついてしまったところがあるのですが、これは
多分この作品がその後のミステリー作家たちに多大な影響を及ぼしていて、たくさんの類似作品が
書かれているせいではないかと。すべてまっさらの状態で読んだら、もっとずっと驚けただろう
なぁとちょっと残念に思いました。もちろん全部が予想通りだった訳では到底なく、犯人が
ポアロに挑戦状を送った理由などは全く予想外の真相が隠されていて驚きました。そんな細い部分
にまで気を遣って書かれているところが素晴らしいですね。これだけきっちりミステリとして
完成されているのに、古典とは思えない程の読み易さ。やっぱり、クリスティって凄い作家だ。
先が気になって寝る間を惜しんで読みたくなるミステリってのは、こういう作品のことを言う
んだろうね。だって、最後はほんとに結末が気になって一気読みだったから。面白かった。

ポアロヘイスティングスのやりとりも楽しかったです。真面目なヘイスティングスポアロ
ちょこちょこおちょくったりするところが面白かった。冒頭のポアロの髪型でやりとりする二人
の会話がなんともお洒落。ポアロってお茶目な人なんですねぇ(すっかり人物像なんて忘れて
ました^^;)。人が悪いとも言うけれど(苦笑)。でも、長年の友人の割に相手を呼ぶ時に
tuではなくvousを使ってるんだなーとちょっと意外に思いましたが。お互いに尊敬し合う間柄
だからでしょうか(英語の『you』は相手が親しかろうが初対面だろうが一種類しかありませんが、
フランス語では家族や親しい人に対しては『tu』、年上や公共の場や、それ程親しくない人と
話す時は『vous』などと使い分けるのです)。やっぱり、お互いに敬意を払ってそうしているのかな。










※以下、犯人や犯行動機について触れる記述があります。未読の方はご注意下さい。




















アルファベット順に殺人を犯した理由はかなり身勝手で、犯人に対して怒りを覚えました。まぁ、
多くのミステリーの中の連続殺人なんて似たようなものだとは思うのですが。本当に自分が
殺したい人間を殺す為に、全く無関係な人間を殺し、しかもその罪を心の弱い人間になすりつけ
ようとするなんて。単なるシリアルキラーと変わらないですね。いや、人を陥れる狡猾さがある分
もっと始末が悪い。動機も私利私欲の為でしかないし、犯人には嫌悪感しか覚えなかったです。むぅ。
犯行がポアロによって暴かれた後の態度も醜悪だし。ポアロが犯人に対して最後に突きつける
『フェアではないし、スポーツマンらしくない』という言葉はまさにその通りだと思います。
『イギリス的な犯罪』がどういうものなのかは、日本人の私にはピンと来なかったですけどね^^;











やっぱりいいですね。クリスティ。もっともっと読まなきゃいけない作品がいっぱいあるんだけどね。
取り敢えず6月もクリアしたってことで、半年間は目標達成出来て嬉しい^^半年で6冊も海外
ものを読むなんて、私にとっては天変地異が起きたのかと思うくらいだなぁ(大ゲサ)。
7月の一冊はまだまだ考える時間があるから、じっくり選びたいと思います。
海外物オンチの私にオススメの海外作品、随時募集しております(他力本願)。