ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柳広司/「キング&クイーン」/講談社刊

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柳広司さんの「キング&クイーン」。

ある事件がきっかけでSPを辞め警察を去った冬木安奈は、六本木のバーで用心棒のようなことを
しながら糊口を凌いでいた。ある日安奈は、知り合いのクラブのホステスから一人の留学生を
紹介された。ロサンゼルスからの留学生という美しいその女性は、宋蓮花と名乗った。蓮花は、
安奈の用心棒としての仕事ぶりを知り、ある人物の警護を依頼したいと言う。その人物とは、
元チェスの世界王者にして、現在は行方をくらましているアンディ・ウォーカーだという。気が
進まないままに依頼を受けることになってしまった安奈。過去の事件がきっかけでSPの仕事を
辞めることになりトラウマを抱える彼女は、今度こそ依頼人を守り抜けるのか――書き下ろし長編。


楽しみにしていた柳さんの新刊。装幀もタイトルもカッコいいので期待大だったのですが、
ちょっと全体的に盛り上げりに欠ける内容だったかなぁという感じ。リーダビリティはあるし、
面白かったのは確かなのですが、『ジョーカー・ゲーム』シリーズなんかの水準を期待してしまうと
ちょっと物足りなさを感じてしまうかもしれません。ただ、そうはいっても、ラストの仕掛け
に関しては、オーソドックスながら非常に巧みに罠がかけられているせいで、全く疑いもせず
まんまと騙されてしまいました。天才チェスプレーヤーであるアンディ・ウォーカーを狙う側と
主人公安奈との攻防があまりにもあっさりしてて盛り上がりに欠ける為、なんだかなぁと思いながら
読んでいたのだけれど、ラストで明かされるある事実を知り、目からウロコの思いがしました。
全く気付いてなかったです・・・っていうか、気付ける人がいるのかなぁ、これ。真相を知った
後で二度読みとかしてないから、どの辺に伏線が張られていたかとかはいまいち把握してないの
ですが。
最後まで読むと、タイトルが実に意味深だったこともわかります。多分読む人のほとんどが、
キング=あの人(男)、クイーン=あの人(女)と、特定のある二人の人物を当てはめると
思うのですが、実は、そこに作者の巧妙な仕掛けが隠されているのです。この辺の騙しの
テクニックはさすがとしか言いようがないですね。
でも、アンディが残した安奈へのチェスの暗号はあまりにも回りくどすぎないか?と首を
傾げてしまうところもあったのですけれど。

安奈のキャラは、天海祐希さんを二十代にした感じとでも云えばいいのかなー。背が高くて
クールで(役柄のイメージですよ。実際の天海さんはとっても優しい姉御肌の姐さんって感じ
ですが)、感情が表に現れない。宝塚に入ったら間違いなく男役って感じでしょうね(苦笑)。
それだけに、ちょっと感情移入しずらいところもありますが、彼女を取り巻く脇役キャラが
なかなか威力的なので、彼女のキャラも生きている感じがしました。特に警察時代の上司の
首藤主任と北出課長の二人、渋くてカッコいい!この辺りのキャラ造詣は、『ジョーカー・ゲーム
の結城中佐なんかに通じるものがあるかも。あそこまでクールじゃないですけど。

チェスは昔にルールを覚えようと頑張ったことがあるのだけど、理解能力不足で結局今ひとつ
掴めないままマイブームが終わってしまったんですよね。もっとちゃんとしっかり覚えておけば
良かったなー。今使ってるパソコンにチェスゲームが入ってるから、もう一度勉強し直そう
かなぁ。本将棋の指し方もわからないくせに^^;チェスのあの駒とか台の感じがカッコよくて、
出来もしないのにガラスのチェスセット(本書の表紙みたいなやつね。台もガラスで出来てる)
を買いたくなったりしたこともあるんだけど(苦笑)。
チェスというゲームをもう少し理解していれば、もっと楽しめた作品かもしれません。天才チェス
プレーヤーのアンディのキャラは最初ちょっと鼻につくところもあったのだけど、天才って
こういうものなのかも。まー、子供の頃からイヤな奴ですけどね。身近にいたらブチ切れそうに
なるかも^^;


ボディーガードものとして読むと、緊迫感に欠けるところがあってなんとなく盛り上がりに
欠ける感は否めないのですが、ミステリとしての騙しの一手がそれを補っている感じでしょうか。
そこを評価するか否かで、作品に対する印象が違うかもしれません。キャラ読み小説としても
もう少し安奈本人のキャラを確立させて欲しかった気はするな。
女性が主人公っていうのが何より意外だったかも。柳さん、読んでない作品はたくさん
残ってるけど、読んだ限り女性が主人公ってないような気がするんだけど・・・。
うん、まぁ、面白かったです。でも、すぐ内容を忘れて行きそうな気が、なきにしもあらず^^;