ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

福田栄一/「夏色ジャンクション」/実業之日本社刊

イメージ 1

福田栄一さんの「夏色ジャンクション」。

親友と恋人に裏切られて職も住む場所も失い、車の中で寝泊りするようになった信之。すべてを
失い、所持金も底をつきかけて失意のどん底にいたところ、お人好しの老人・浮田勇と出会う。
勇は、車を所持する信之に、謝礼を出すので駅まで送って欲しいと願い出る。少しの謝礼でも
欲しいと二つ返事で承知した信之は駅に向かうが、勇が山形まで行くと知り、更に多額の謝礼
を期待して、山形まで送り届けることを申し出る。嬉々として誘いに応じた勇と乗せて、車は
山形へ向けて走りだした。信之は、目的地の途中で泊まった宿で、勇が七百万の大金を持って
いることを知り、密かに勇のお金を奪う計画を立てる。しかし、旅の途中でひょんなことから
ヒッチハイクで青森に行くというアメリカから来た若い女性・リサを同乗させることになり、
信之の計画実行は混迷を極める羽目に――著者初の青春ロードノベル。


個人的に贔屓にしている福田さんの新作(とはもう言えないかな^^;)。青年と老人と
アメリカ娘の三人がひょんなことから知り合い、それぞれの目的達成を目指して旅を続ける
ロードノベル。
正直云って、前半は、ことあるごとにお人好しの勇老人を騙してお金を奪おうと画策する信之の
あさましい心情に腹がたって仕方なかった。信之がいつ勇を裏切るのかとハラハラしながら
読んでました。でも、人を疑うことを知らな勇やリサと旅を続けるうちに少しづつ信之の
心も変化して行き、信之にとって彼らがかけがえのない存在となって行く過程が、ベタだけど
丁寧に描かれていて、清々しく読み終えられました。終盤になって、ついに信之がサービス
エリアに二人を置き去りにした時は「ついにやったか!」と内心ショックを受けたのですが、
その後の展開は予定調和とはいえ、ほっとしました。この時の勇さんの反応で、彼が本当に
いい人なんだなぁというのを実感しました。もちろん、それまでの過程でもその人柄は十分
わかってはいたのですが。信之には最初嫌悪しか感じませんでしたが、勇さんとリサに関しては、
終始ブレがなく好印象を受けるキャラでした。人間性善説みたいなキャラ造詣は、とても
福田さんらしくて好きです。結局、ストーリー的には大して盛り上がりがある訳でもないのに、
これだけ爽快に読み終えられるのは、福田さんのキャラ造りのなせる技ではないかと思います。
なんてことはないロードノベルなのに、合間合間に人の温かさや優しさが感じられるエピソード
が挟まっていて、人を信じることの大切さを感じさせてくれるところがとても好きです。
この人のお人好しキャラはやっぱり好きだな。

勇さんの最後の提案は当然あるだろうと予想していましたが、その提案に対する信之のきっぱりと
した答えに、成長の証を見た思いがしました。甘んじてその提案を受けるようなら、また
同じことを繰り返していたかもしれない。そこをつっぱね、嫌だと思っていた実家に頭を
下げると断言した信之の態度が潔くてかっこよかったです。これから再就職の道を見つけるのは
とても大変だと思うけれど、心から信頼出来る存在に出会えた彼ならきっと大丈夫でしょう。
リサとの恋愛もこの先超遠距離で苦労しそうだけど、頑張って貫いて欲しいなぁ。
終盤の元カノの言動は、すべてが呆れ果てるもので、本当にムカつきましたが、彼女の最後の
提案をきっぱりと拒絶した信之の態度にすかっとしました。こういう女は、誰と付き合っても
上手くいかないだろうねぇ・・・(呆)。

スピード感のある作品ではないけれど、ゆるゆると進む三人旅は読み心地が良く、自分も
彼らと一緒に車で旅をしている気分になりました。勇さんの大食漢ぶりも笑えたな。吐いたり
お腹壊すほど食べちゃダメだと思うけどね・・・。

夏に読むにはぴったりのロードノベルでした。面白かったです。