ミステリ読書録

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大倉崇裕/「小鳥を愛した容疑者」/講談社刊

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大倉崇裕さんの「小鳥を愛した容疑者」。

警視庁捜査一課の第一線で活躍していた警部補の須藤友三は、九ヶ月前に起きた殺人事件で頭に
銃弾を受け、九死に一生を得る。半年の入院を経て週に一度通院しながら復帰したものの、捜査
一課に戻ることは叶わなかった。新しい職場は、現場復帰が困難な刑事がリハビリ目的で配属される
警視庁総務部総務課だった。飼い殺しのような勤務が続く中、ある日同期の石松が奇妙な仕事を
持ち込んで来た。石松が言うには、総務部の正式名称は総務部総務課動植物管理係だという。
仕事の内容は、殺人現場に残された被害者のペットの保護――そんな須藤の相棒にあてがわれた
のは、動物に関する専門家、薄圭子巡査。動物に無情の愛を注ぐ薄の言動には、強面の須藤も
戸惑わされっぱなし。しかし、薄はいざ殺人現場に臨場すると、現場に残された動物の世話を
楽しそうにこなしながら、鋭い推理を開帳し始めるのだ――。


面白かった!これ好きー。警視庁の捜査一課を怪我で退いた須藤警部補が、リハビリと称して配属
されたのは、動植物管理係。何する課?って感じですが、簡単に言ってしまうと動植物全般の
お世話。つまり、警察内部の『生き物係』って訳です。もちろん実際にこんな課は実在しない
でしょうけど、なかなか目のつけどころが新しくて、面白い設定だなぁと思いました。大倉
さんって、こういうの巧いよなぁ。で、ここに配属された須藤の元には、殺人事件の関係者が
飼っていたペットのお世話をする仕事が、同僚の有り難い配慮(=嫌がらせ?笑)により度々
持ち込まれるようになります。そして、そんな時須藤の頼もしい片腕となるのが、動物の
エキスパート、薄(うすき)圭子巡査。まだ二十代の若くて可愛らしい女性巡査なのですが、
困ったことに、彼女は人間よりも動物を優先させてしまう生粋の動物マニア。事件が起きた
現場だろうが関係なしに残された動物の世話に熱中してしまうのです。そんな薄巡査に須藤は
戸惑つつも、次第に信頼を置いて行くようになって行きます。なんだか、一作ごとに二人の
関係が親子みたいに微笑ましいものになって行くのが読んでいて嬉しかったです。普段は
おっとりしている薄巡査が、動物のことになると夢中になって活動的になるのが面白い。
そして、小さな齟齬から事件の真相を看破していく慧眼にも感心させられました。
あと、現場に残されたペットに関する飼育の薀蓄にも「へ~」って感じで勉強になりました。
残されたペットが事件解決の鍵になっているところがなかなか巧い。中にはとても飼いたいとは
思えないペットもいましたが、どのペットも飼い主が愛情を注いで飼っていたことがわかる
ところは良かったですね。同じペットを飼っているペット仲間がいる飼い主もいて、やっぱり
特殊なペットを飼っているというだけで仲間意識みたいなものが芽生えるものなんですかね。
そういった被害者たちとは反対に、『警察博物館』の前に飼い切れなくなったペットたちを捨てて
行く無責任な人たちには腹が立ちました。実際のニュースでも、好奇心から特殊なペットを
買ったはいいけど、結局飼いきれずに捨ててしまうという話題はしょっ中耳にしますけれど。
自分のペットとして購入したのならば、最後まで責任持って面倒みてあげて欲しいですね。
須藤と薄巡査のちょっと咬み合っていない会話がコミカルで、とっても楽しかった。何度も
読んでる途中で吹き出してしまいました。薄巡査の動物中心の発言に戸惑いながらも、その会話
が須藤自身のリハビリにも効いているところが良かったですね。これぞ正しくアニマルセラピー



以下各作品の感想。

『小鳥を愛した容疑者』
隅田川で他殺死体が見つかった。容疑者の家には、たくさんの十姉妹が飼われていた。しかし、
中に一羽だけ奇妙な鳥が混ざっていて――。
小鳥は可愛いですが、大量に飼っているところを見るのはちょっとぞっとするかも。臭いも
凄そうだし・・・。シリーズ第一作ということで、まだ初心者向けのペットが題材になった
のでしょうね。

『ヘビを愛した被害者』
千葉東海岸で投身自殺をしたと思われる遺体が発見された。被害者の家ではヘビ愛好家の間では
垂涎とされる巨大なヘビ、コロンビアボアが飼われていた――。
うう。世の中には愛好家がいるというのもわかっているのだけれど、やっぱり私も須藤さん同様、
ペットにヘビを飼うひとの気持ちは理解できません・・・。あのにょろにょろを思い浮かべた
だけで・・・ぞぞぞ。そして、ヘビの餌の解凍シーンを頭に思い浮かべて気が遠くなりそうに
なりました・・・。うげー。冒頭に出て来た伏線が最後に効いて来るところが巧い。

『カメを愛した容疑者』
弁護士兄弟の弟が失踪。弟の家には巨大なカメが残されていた。カメの世話の為、須藤と薄は
現場に臨場するが――。
カメ可愛いとは思いますけど、ここに出て来るような巨大だったり獰猛だったりするのは
ちょっと勘弁して欲しいなぁ。縁日とかで売ってるミドリガメも意外に獰猛だって聞きますしねぇ。
あと、カメに寄生虫がいっぱいいるっていうのは知らなかったです。不用意に触ったりしない方が
いいんですね。

『フクロウを愛した容疑者』
民家の書斎で男が撲殺された。通報者は妻、容疑者は隣人。隣人と被害者は、生前隣人が飼っている
フクロウを巡って折り合いが悪かった。須藤と薄は、容疑者の部屋のフクロウの世話の為に臨場
するが――。
須藤さんに異動の話が持ち込まれて、これで最終回になっちゃうのかな、と残念に思ったのですが
・・・この終わり方だと、まだこの先も続けられそうで嬉しいです。一作ごとに二人のコンビが
良くなって行くのがわかりましたから。まだまだこの二人の活躍読みたいです。
ちなみに、ミミズクとフクロウが同じものを指しているとは知らなかったです。ミミズクの耳
みたいなヤツが羽っていうのもへー、でした。フクロウというと、ハリポタのハリーが飼って
いるヘドウィグを思い出してしまうのですが、ああいう白いフクロウなら飼ってみたいなぁ。
でも、餌をやるのはきっと無理・・・。




須藤さんがいつも勉強している『猿でも判るパソコン』が、一作ごとに巻数を重ねて行ったり、
薄巡査がことわざを言い間違えたりと、細い部分でくすりと出来るところも楽しめました。
とぼけた魅力のある薄さんがとっても可愛い。それを親のように見守る須藤さんも微笑ましいし。
なんだか、とっても二人のコンビに癒されました。
是非ともシリーズ化して欲しい。そして、トンデモないペットをどんどん出してもらいたい
ものです(笑)。
ユーモアミステリがお好きな方には自信を持ってオススメ致します^^


あ、昨日書き忘れましたが、福家警部補とのリンクがちょっぴりあります(本人が出て来る
訳ではないのですが)。それもファンには嬉しい要素でした^^