ミステリ読書録

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近藤史恵/「砂漠の悪魔」/講談社刊

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近藤史恵さんの「砂漠の悪魔」。

大学生の橋場広太は、親友である夏樹への積年の鬱屈した思いから、夏樹が思いを寄せる一つ上の
先輩・桂を利用して彼を陥れる計画を思いつく。計画は実行され、夏樹がまんまとその姦計に
はまってくれたことで、広太は満足していた。しかし、ある日広太の仕掛けた策略が桂の口から
夏樹にバレてしまい、親友と愛する女性同時に裏切られたことを知った夏樹は、絶望から自殺
してしまう。その夏樹の死が契機となり、広太の人生は急落、ヤクザに付け狙われて中国の地で
運び屋をやらされる羽目になってしまう。しかし、現地で知り合った日本人留学生の鵜野と
出会ったことで、再び広太の運命は変わって行く――極寒の地・中国を舞台に繰り広げられる
逃亡劇の果てには何が待ち受けているのか――。


近藤さん最新作。いやー、ぶっとんだ。なんなんだ、この結末。まさかまさかの展開に唖然と
してしまいました。いや、まぁ、作中の至るところで中国が抱える問題を小出しにしては考え
させられる作品だなぁとは思っていたけれど。中国のウイグル自治区なんかが出て来る時点で、
主人公の抱える鬱屈した心理描写と相まって、この国の社会情勢の暗部に暗い気持ちにさせられ
ながらの読書でしたが・・・極めつけがこのラストの一撃。ここまで書いちゃって大丈夫かな、
近藤さん・・・ってちょっと心配になってしまった。多分、これが実情なのだろうけれど、
だからこそ、真に迫っていて恐ろしいものを感じました。ホラー小説なんかでは全くないの
だけれど、このラストの怖さはそこら辺のホラー以上のものがあります。それがこの地では
日常に起こり得ることであるという紛れもない事実に、同じアジアの国とは思えない怖さを感じ
ました。ただ、日本人として歴史を学んだ人ならば誰もが、この事実に目を背けることは
出来ないと思います。ネタばれになっちゃうのでこれ以上書きようがないんですけど・・・
多分その部分を読んでいただければ私の言いたいことがわかってもらえると思う。とにかく、
冒頭で広太が夏樹にした唾棄すべき仕打ちからして吐き気がする程の嫌悪感を覚え、さらに
そこから上乗せするかのように暗い気持ちになるような出来事ばかりが続いて行くので、
なかなか精神的に読むのがきつい作品ではありました。ただ、広太が二度目に中国に渡って
逃避行を始めてからは、完全に中国ロードノベルと化して行くので、見知らぬ土地を自分も
旅している気分にはなったのですが。特に、今まで漠然と思い描いていた中国とは全く違った
景色の土地を転々とするので、本当に中国というのはいろんな顔を持っている国なんだなぁと
再認識させられました。中華料理は好きだけど、中国自体にあまりいいイメージはないので、今まで
行ってみたいと思ったことはなかったのですが・・・でも、この作品読んで「中国に行ってみたい」
と思う人も、ほとんどいないんじゃないかなって思う・・・。出てくる料理はやたらにどれも
美味しそうだったんですけどね・・・。

一気読み出来るリーダビリティは保証しますが、どこまでも救いのない結末をどう捉えるかは
読む人によって違うでしょうね。主人公に関しては完全に自業自得だと思うんですが、ある
人物に関しては運が悪かったとしか言い様がなく・・・あまりにも無情な結末に暗鬱な気持ちに
なりました。タイトルの『砂漠の悪魔』が何を表すのか、それがわかった時の破壊力は凄まじい。
この作品を読んで、中国の砂漠になんて絶対に行きたくない、と思ってしまった・・・それが
どんなに美しく忘れがたい風景だとしても。砂漠が見たくなったら鳥取砂丘にでも行こう・・・
(え、全然違うって?^^;)。
読んでいて気持ちの良い話ではないですが、問題提起させるという意味では、十分な衝撃作じゃ
ないでしょうか。中国問題に作者が真っ向から挑んだ、と言ってもいいかもしれない。良くも
悪くも、問題作と云えるでしょう。
読んだ方のご意見がいろいろと聞いてみたい作品なのは間違いありません。