ミステリ読書録

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アラン・ベネット/「やんごとなき読者」/白水社刊

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アラン・ベネット「やんごとなき読者(市川恵里訳)」。

 主人公は現女王エリザベス二世。それまで本にはほとんど興味がなかったのに、ある日飼い犬が
縁で、すっかり読書の面白さにはまってしまう。カンニングする学生のように公務中に本を読み
ふけるわ、誰彼かまわず「最近どんな本を読んでいますか」と聞いてはお薦め本を押しつけるわで、
側近も閣僚も大慌て。
 読書によって想像力が豊かになった女王は、初めて他人の気持ちを思いやるようになるものの、
周囲には理解されず、逆に読書に対してさまざまな妨害工作をされてしまう。孤独の中で女王は、
公人としてではなくひとりの人間としての、己が人生の意味について考えるようになっていたのだが、
王宮中に、「陛下はアルツハイマーかもしれない」という噂が広まっていき……。イギリスの
人気劇作家・脚本家によるベストセラー小説(あらすじ抜粋)。


今月の一冊。予約本が重なりいっぱいいっぱいなので、楽に読めそうなのがいいなぁと思いつつ
書架を物色していたら、以前からあちらこちらの書評ブログで取り上げられていて気になっていた
本書を見つけたので、手にとってみました。なかなか本好きの心をくすぐる内容で、楽しく読め
ました。児童書のような体裁でページ数も少ないので、あっさりと読み終えてしまいましたが(苦笑)。
舞台は英国。女王エリザベス二世がひょんなことから本好きになってしまうことから、英国王室に
思わぬ影響が出てしまうというユーモアと皮肉に溢れたコメディ小説。80歳の女王陛下の言動が
なんだか可愛らしく、浮世離れして世間知らずなところもどこか憎めない。使用人だけど本の
師匠であるノーマン少年とのやりとりが好きでした。でも、両者の身分の違いのせいで、最後は
残念な結末になってしまうのだけれど。移動図書館の司書・ハッチングスの存在も好きだったな。
予算削減のせいでこちらも悲しい結末になってしまいましたが。ただ、そうした本を通じて知り
合った人たちと突然会えなくなったとしても、陛下にとってはさほど打撃を受ける出来事でもなく、
あっさりその現状を受け入れてしまう辺りで、やっぱり幼い頃から自分の身分というものを
受け入れて育って来た育ちのせいなんだろうな、と思わされました。
突如本を読むのが好きになった女王陛下は、本好きの使用人・ノーマンから読む本の訓示を
受けつつ、貪るようにいろんな本を読みあさるようになります。でも、そのことで公務に支障が
あるのではないかと、王室の周りの人々は女王の読書に好意的ではありません。なんとかして
彼女に読書を止めさせようと思いを巡らせることになります。本を読むことは知識を増やすこと
でもあるし、普通は推奨するものだと思うけれども、王室側が反対の行動に出るというのが意外
でした。日本だったら絶対こういうことはないでしょうねぇ。意外だったのは、英国の人が
他の国の人に比べて読書をしない、というところ。これは一般論なのかな。英国の作家にも
たくさん有名な人がいるし、知的なイメージがあるから本好きが多い感じがしていたけれど、
実際はそうでもないのかな。

普通の読者と違って、女王陛下ともなると、自分が好きになった本の作家と普通に会えてしまう
ところがすごい。でも、好きな作家と会えても当然の如くに会話は弾まず、残念な会合になって
しまうのだけれど。ちょっぴり寂しそうな女王が可哀想だった。それで現代作家を読むのは
やめて古典に走るところが笑えますが(作者がすでに死去しているため)。とにかく、極端な
陛下の言動がユーモアたっぷりで、可笑しくてなんとも可愛らしい。女王ならではの高飛車な
言動もなくはないのだけど、本人悪気も何もないのだからやっぱり憎めないのですよね。
ラスト一行は衝撃な展開で終わっています。読むことから書くことにシフトしていく陛下の興味が、
最終的にこういうところに落ち着くとは。やっぱり、極端なひとだった(苦笑)。
ここまで実在の人物を取り上げて風刺的に描いてしまって大丈夫なのかとも思ったけれど、
それがかえってこの作品の面白さを増長させているのでしょう。ユーモア好きの英国人ならでは
の発想の作品って感じがしますね(英国事情なんて別に良く知らないけどさ←おい)。


好きな読書も周りに阻まれて思うように出来ない身分なんて、やっぱり窮屈に感じてしまいますね。
女王は女王で大変なんだね。誰からも咎め立てされずに、思う存分読書三昧を送れる自分が
なんだかとても幸せに感じたのでした。