ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

倉知淳/「なぎなた 倉知淳作品集」/東京創元社刊

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倉知淳さんの「なぎなた 倉知淳作品集」。

凶器の金槌は相手の頭蓋骨に見事に突き刺さった。人気のない多摩川の河べりの土手の上。伊庭は、
計画を冷静に遂行した。土手の草むらに死体を隠し、物取りの犯行に見せかける為の小細工も
施した。あとは隠しておいた自転車で速やかに立ち去るのみ・・・しかし、その場所に行くと、
自転車を盗もうとする中年のホームレスがいた。怒って追い払ったが、それが伊庭の完全犯罪の
綻びになろうとは――(『運命の銀輪』)。デビュー以来書きためたノンシリーズのミステリ短編
を集めた集大成、第二弾。


というわけで、倉知さんの新刊第二弾。こめぐらの姉妹編、なぎなたです。今回も
タイトルに意味はない模様(収録作品とも何ら関係なし)。予想はしてましたが、やっぱり
コメディ路線の作品が多かった『こめぐら』に比べて、シリアス調で硬質なミステリ短編集で
ありました。既読作もいくつか含まれてましたが、倉知さんらしく小技の効いた作品が多く、
どれも楽しく読めました。そして、今回もあとがきの自作解説は大いに楽しめました。なんで
今まであとがき書かなかったんだろ。こんなに面白いのに。今度はエッセイとかも出してくれ
ないかな。本音満載で面白そうなのにー。一番好きな言葉が『増刷』『重版』というところに
大ウケ(爆)。ほんとに、サインと一緒に書いたのかなぁ。もらった人が羨ましいっ。絶対
もらった瞬間ウケたはずだよね。『新刊書店で買った人には福が訪れる』『新古書店などで
買っても何も起きません』の言葉に胸がキリキリキリキリと痛みました・・・。でも、倉知
さんの本を売り払うなどという不届きなことはしてないから、膝の裏から毛が生えることは
・・・ないよね?図書館で借りている場合は、一体何が起きるんでしょ。


以下、各短編の感想。

『運命の銀輪』
倉知さんには珍しい倒叙ミステリ。人気の二人組ラノベ作家の一人が、相方を殺害するの
だけれど、現場に自転車で行ったことから齟齬が発見される、というもの。葬儀社の社員
のような死神顔の乙姫刑事がなかなかいい味出してます。と思ったら、シリーズ化する為の
布石だったのだとか。構想はあるようですが、本当に今後作品が書かれるかどうかは倉知さん
の気分次第のようです(苦笑)。

『見られていたもの』
冒頭に、『この話は後味が悪く、気味の悪いラストシーンのため、そうした不快なことが嫌いな
読者は読むことなかれ』みたいな作者の注意書きがあるので、一体どんなエグいラストシーン
が待ち受けているのかと戦々恐々としていたのだけれど・・・そっちの気味悪さだったのかーーと
ちょっと脱力。まぁ、確かにある意味、気持ち悪いといえば悪いのは確かなんですけど。まぁ、
でも、ねぇ。世の中にはこういうひとたち結構多いし。別にさほど不快にも思わなかったです。

『眠り猫、眠れ』
これは猫好きの人にとっては切ないお話ですねぇ。そういえば、猫って、自分の死期を悟ると、
誰もいないところで死のうとするって聞いたことがありますね。あれ、犬もそうだっけ?
父親の想いも、ラスト一行も、切なすぎます・・・。この作品と、二つ先の『猫と死の街』の
あとがき解説を読むと、倉知さんがいかに猫好きなのかがわかりますね。ねこちやん。個人的
には、『や』は小さい『ゃ』の方が普通にかわいいとおもうけど・・・(苦笑)。

『ナイフの三』
コンビニに集う、お互いに氏素性も知らない仲間たちが、世間を騒がす指切り誘拐犯を捕まえ
ようと奔走し合うドタバタ系ミステリ。作風的には『こめぐら』に収録された方が良かった
ような気がするけど、事件自体が猟奇的で重いせいかも。オチは拍子抜けしましたが、コンビニ
探偵団という設定は面白い。実は、シリーズ化を想定していたのに、挫折した作品なのだそう。
倉知さんのシリーズ構想読んでるだけでも面白そうなのに。実現させて欲しかったなぁ・・・。
ちなみに、作中に出て来る主人公の脚本家目指して勉強中の「ブンガク」は、二つ先の『闇ニ笑フ』
の主人公と同一人物なんだそう。言われなきゃ、絶対気づかないね、この裏設定。

『猫と死の街』
主人公の愛猫ピラフが行方不明になり、探索チラシを近所に貼りまくったところ、ピラフを殺した
という男が現れる、というお話。最初凶悪な態度だった男が、主人公に会った途端に意外な行動に
出るのですが、その真相には思わぬ理由が隠されていました(蓋然性の理由ではありますが)。
ピラフの身の上にはほっとしました。途中、ホラーになるのかと思いましたよ^^;

『闇ニ笑フ』
これは何かのアンソロジーで既読だったので、オチもだいたい覚えていました。映画館で、一人
だけ残虐で残酷なシーンを観て笑う女性。彼女はなぜそんなシーンで笑えるのか?というもの。
ラスト一行で真相が明らかになるフィニッシング・ストロークを狙った作品だそうです。前に
読んだ時は全然意識してなかったけど、確かに、ラスト一行で女性の正体がわかるように書かれて
ますね。それで、主人公は彼女とどうなったんでしょうかねぇ。『ナイフの三』の感想で書いた
ように、主人公が同一人物。書かれたのはこちらが後みたいなので、こちらが時系列でも後って
ことでいいのかな。もう、件のコンビニには行かなくなっているのでしょうか。

『幻の銃弾』
翻訳小説のパロディとして発表されたそうな。道理で、読みにくかったワケだ(海外ものオンチ)。
なんとなく読んだ覚えがあったので、多分どっかのアンソロジーで既読だったんでしょう。
三発の銃弾が鳴った直後に倒れ、群集に踏み潰された死体。しかし、死体に銃弾の後はなく、死因
は群集に踏み潰されたことによる内臓破裂だった。銃弾はどこに消えたのか?というお話。
群集に踏み潰されてぺったんこになるって、ほんとにそんなことあるのかなぁ。いくらパニック
になってても、人が倒れてたら避けて通ると思うんだけど・・・。
長ったらしいカタカナ名に苦戦して、人間関係が把握出来ないまま読了・・・月イチ海外企画が
何の効果も齎していないのが悲しい・・・(少しは慣れるかと^^;)。






まぁ、ラスト一作はアレでしたけど(^^;)、他はどれも面白く読めました。巻末の自作
解説と併せて読まれるとより楽しめるのではないかと思います。シリーズ化出来そうな短編が
多いので(死神刑事もの、コンビニ探偵団もの、猫と女の子もの・・・)、構想だけじゃなくて、
是非とも実現させて欲しいなぁと思います。もちろん、一番出て欲しいのは猫丸シリーズなの
ですけれどね。そろそろ長編でもいいのではないかなぁ・・・殺人事件解禁で。
何でもいいけど、ファンとしては、倉知さんにはもう少し出版のインターバルを短くして欲しい
ですね。