ミステリ読書録

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大門剛明/「告解者」/中央公論新社刊

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大門剛明さんの「告解者」。

23年前に2人を殺し、無期判決を受けた男・久保島が仮釈放され、深津さくらの勤める金沢の
更生保護施設に入寮してきた。凶悪事件を起こしたとは思えぬ誠実な更生ぶりに、次第に心ひかれて
いくさくら。市内で殺人事件が発生し、寮生に疑いの目が向けられた。さくらは真相をつきとめる
べく奔走する(あらすじ抜粋)。


福ミス大賞を獲った大門さんの四作目。三作目から間を置かずにここまで早いペースで新作が
出るとは思いませんでした。新人としては異例の執筆ペースじゃないでしょうか。よっぽど、
大門さんの中には世間に訴えたい司法の問題点がたくさん燻っているのでしょうね。全作の
確信犯では不満を感じるところが割とあったのだけれど、個人的にはこちらの方がずっと
好み。相変わらず読みやすいし、ぐいぐいと読まされてほぼ一気に読み終えてしまいました。
今回のテーマは『更生』。司法を取り扱った社会派作品では度々問題提起される題材だと思い
ますが、著者なりに噛み砕いて答えが出されているように感じました。といっても、簡単に
答えが出せる問題では到底なく、100人の犯罪者がいたとしたら、100通りの更生がある
だろうし、そもそも更生できない犯罪者だって多い。それに、更生したように見せかけて、
内心では何ひとつ反省していない犯罪者だっている。事件に関係ない人から見て更生したように
見えても、犯罪被害者やその関係者から見たら、全く更生していないように見える場合もある。
どんなに罪を悔い改めて真っ当に生きようとしたって、犯した罪が消せる訳でもない訳だし。
本当に、難しい問題だと思う。こういう作品を読む度に、いつも自分だったらどうだろう、と
置き換えて考えてみようとするのだけど、やっぱり、その立場になってみないと自分がどう
思うのか、結局答えは出せずに、思考のループにはまってしまいます。でも、一つ云えるのは、
自分の大切な人が理不尽な理由で殺されたりしたら、絶対に犯人を赦すことなんて出来ない
だろうし、犯人がどんなにやったことを悔いて謝罪したとしても、その後の人生を真面目に
生きたとしても、一生犯人を憎んでしまうだろうということ。でも、例えばそれが、本書の
様に、殺されても仕方のない状況だとしたら、また違って来ることも考え得るのですが・・・。

本書の中心人物となるのは、過去に二人の若者を殺害して無期懲役になった久保島。刑務所内で
模範囚として刑に務めたことで、仮釈放されて、ヒロインのさくらが勤める更生保護施設の寮生
となるところから始まります。穏やかで優しい性格の久保島は、傍から見るととても二人の人間
を殺しているようには思えず、罪を悔い改めて、完全に更生したように見えます。けれども、
彼とは関係なく見えるところで新たな殺人事件が起きて、事件を追う刑事の梶は、ある理由から
彼に目をつけるのです。なかなか緊迫感のある展開で、読みやすい文章と相まって先へ先へと
ページが進みました。ヒロインのさくらが、次第に犯罪者の久保島に心惹かれて行く過程の
心理描写もなかなか巧みで、特にさくらが決定的に久保島に対して恋に堕ちるシーンなどは
この手の社会派にしては、リアルにさくらの心情が伝わって来て良かったです。久保島が自分に
心を向けることがないとわかっても、それでも彼に尽くそうとするところが健気だなぁと思いました。

終盤、ミステリーとしてはひねりのない展開になって行くので、ちょっと拍子抜けしていたところが
あったのですが、さすがに、デビュー作でのあの二転三転のどんでん返しを書いた大門さんらしい
反転があって良かったと思います。ある人物に関しては何かあるだろうなぁと思っていましたが
・・・前作では全体的にごちゃごちゃしてて人間関係がわかりづらかったり展開が間怠っこしい
感じがしたところもあったのですが、本書はその点はかなりすっきりしていて、変に捻りすぎない
ところが解りやすくて良かったと思います。デビュー作なんかはやり過ぎな感じもありましたから
ねぇ^^;
久保島が殺した若者二人の黒幕の人物に関しては、嫌悪しか感じなかったです。あまりにも
身勝手な理由で、自分だけは安全な場所にいながら、唾棄すべき犯罪行為を示唆した罪は重い。
だからといって、殺していいとまでは思わないですが・・・。でも、こういう人物こそ更生が
必要なんじゃないのかな・・・。

司法の問題提起をするのと同時に、恋愛のロマンスも入れたことで、なかなかドラマティックな
展開になって読ませる作品に仕上がっていると思います。個人的評価でいうと、前作よりもずっと
良かったと思う。
前作ではほとんど好感のもてない人物しか登場せず読後感が悪かったのに対して、本書は比較的
好感の持てる人物が多く読後感も良かったので、対照的な作品として出したかったのかもしれません。
タイトルも三文字で照応してるし(笑)。読み比べてみると面白いのではないかな。

何にせよ、デビュー作から犯罪や贖罪など、容易に答えの出ない司法の問題点を題材にして、
問題提起させる作品を書き続ける姿勢には頭が下がりますね。一作ごとに着実に力をつけているとも
感じます。
できれば一生犯罪とは無縁の世界でいたいけれど、自分だっていつその渦中に置かれるかわからない
のだから、やっぱりこういう作品を手にして、犯罪について思いを巡らせることはとても大事なこと
だと感じます。これからも、本格を軸にした社会派ミステリーの書き手として活躍し続けて行って
欲しいと思います。