ミステリ読書録

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佐藤多佳子/「第二音楽室」/文藝春秋刊

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佐藤多佳子さんの「第二音楽室」。

鼓笛隊の華々しい楽器からあぶれたピアニカ組6人が練習するのは、屋上の第二音楽室。あぶれ組
のウチらには、ウチらだけの特別な時間が流れていた――(「第二音楽室」)。音楽を通して
綴られる四つのピュアなガールズストーリー集。


音楽を題材にした佐藤さんの新作。と思ったら、もうすでに第二弾の『聖夜』が発売されている
ようで、ペースが早いですね。もちろん、そちらも予約中なので、回ってくるのが楽しみです。

四つの短編が収録されていますが、それぞれに切り口の違う『音楽』ストーリーになっています。
この方の感性は本当に瑞々しくて、読むと十代の頃を思い出してくすぐったい気持ちになります。
仲間と奏でる音楽が、それぞれの主人公を成長させて行く過程がとても爽やかに描かれています。
少し前に読んだ宮下奈都さんのよろこびの歌も同じような作品でしたが、少女たちが音楽に
触れて喜びを感じる作品というのは、やっぱり読んでいて心が和みますね。十代の若い頃に音楽に
触れるというのが、いかに大事なことなのかがわかります。音楽のことだけではなく、恋や友情
の悩みや戸惑いも細やかな筆致でとてもリアルに伝わって来ます。やっぱり巧いな~。さくっと
読めてしまうけれど、とってもピュアで切なくて温かい、自分が忘れてしまった何かに触れた気持ち
になりました。この手の学校が舞台の爽やかな作品を読むといつも思うことだけれど、ほんとに、
若いっていいなぁって思う。何でも吸収して成長して行ける、伸びシロがあるってすごく羨ましい。
もはや何一つ伸びシロのない私には、彼女たちの言動がひとつひとつ眩しくて仕方がありません
でした。小学生の頃、学年全体で演奏した『砂漠の隊商』で生まれて初めてアコーディオン
弾いて四苦八苦したことや、中学一年の時に合唱部で歌った『海はなかった』や、中学三年で歌った
合唱祭の『翼をください』なんかの、みんなで歌って綺麗にハモった時の気持よさなど、かつての
自分の音楽経験が走馬灯のように蘇ってきました。懐かしいなぁ。歌いたいなぁ・・・。最近は
カラオケさえも行かなくなってしまったので、ほんとに歌をうたう機会ってないんですよね(鼻歌
程度はありますけれど^^;)。楽器を弾く機会なんて更にない。ほんとは、ピアノ、またやりたい
んだけどな。でも教室自体がなくなっちゃったし、やっぱり社会人になるとなかなか毎週通うのって
難しい。まぁ、もちろん、やる気があれば何だって出来る筈で、出来ないって思うのは単なる
言い訳でしかないのもわかっているのだけれどね。
音楽を通して伝わって来る思いが行間から滲み出している、こういう音楽小説はやっぱり読んでいて
気持ちがいいですね。佐藤さんの感性が光る短篇集になっていると思います。


以下、各作品の感想。

『第二音楽室』
屋上の第二音楽室で練習するのは、鼓笛隊のあぶれ組、ピアニカ六人。寄せ集めのウチらだけど、
一緒に練習するのが楽しくて、屋上が特別な場所になりつつあった――。

ピアニカなつかしー。確かに、鼓笛隊の中では一番地味で『その他大勢』って位置づけの楽器
ですよねぇ。まぁ、私は大抵こっちに入ってましたけどね^^;先に述べたアコーディオン
決まった時は「おお!」って思ったけど、良く考えるとその時はアコーディオンがピアニカの
位置にある楽器だったんですよね^^;私は、鉄琴とか木琴とか、ほんとはやってみたかった
けど、ピアノとかエレクトーンとかやってなくて楽譜読めないから無理って最初から諦めて、
一番無難な楽器に流れてしまった。練習したら出来たかもしれないのにね。今思えば、やって
みればよかったと思う。でも、アコーディオンも十分楽しかったからよかったけどね。

『デュエット』
音楽の実技テストを男女ペアでやることになった。ペアは自由に組んでいいという。美緒は、
軟式テニス部の三野田君に申し込みたいけれど、彼は美緒と同じ書道部の藤川さんが好きらしい・・・。

これはドキドキだわー。気になる男(女)の子にデュエットのペアを申込む。でも、これって、
気になる人がいない場合や、誰も申し込んでくれない場合とか、かなり困るし凹むよねぇ。
先生も罪なことを・・・。もし私の学生時代にこんなことがあったら、私は間違いなく
あぶれ組だったろうな・・・^^;

『FOUR』
卒業式の卒業証書授与式の時のBGMに、リコーダーの生演奏を流すことになり、四人が選ばれた。
それから定期的に四人のアンサンブルの練習が始まった――。

これまた小中学生にはお馴染みの楽器、リコーダー。もう、運指とかぜんっぜん覚えてないぞ^^;
身近な楽器だけど、八種類もあるとは知りませんでした。実は奥が深いんだねぇ。せいぜい、
アルトとソプラノくらいだと思ってた。たまに、小学生がランドセル背負いながらリコーダーを
吹いて帰るところを見かけることがあるけど、なんだか懐かしくて微笑ましい気持ちになりますね。
アンサンブルの四人の中で芽生える仄かな恋心に胸がキュンとしました。私は主人公のスズが好き
になる明るいお調子者の中原君よりも、いつもタイミングが悪い朴訥男の西澤君のが好きだな~。
でも、身近にいたらちょっとイラっとするのかも^^;

『裸樹』
二年前、クラスのみんなからいじめられ、途方にくれていた時に出会った『らじゅ』。綺麗な歌声の
彼女に惚れこんだウチは、彼女に憧れてギターを弾き始めた。高校に入って新たなスタートを切った
ウチは、軽音部に入って当たり障りのない生活を続けていた。しかし、ある日、あの日に会った
『らじゅ』と再会して――。

ギターを弾いたことがないので、専門的な用語の部分はちんぷんかんぷんだったのですが、過去
にいじめに遭ったことで心に傷を抱えて、好きな歌手を心の拠り所に、表面的には波風立てない
ようにおどおどと生きて来た主人公の心の動きがリアルに伝わって来て、共感出来ました。ほんの
少しの友達の言動にビクビクして、嫌われないように振舞う彼女の姿が健気で可哀想でした。
ラストで彼女がその殻を破って一歩を踏み出し、ヘタでも、友達と一緒に弾いて、合わせられた
時の達成感や気持ち良さに気づくシーンが爽やかでした。未来の扉を開いた彼女たちには、
無限の可能性が広がっているんですね。




やっぱり、音楽を題材にした作品はいいですね~。自分にもっと音楽の知識があったらなぁと
残念に思ったりもするけれど。
爽やかに気持よく読み終えられました。