ミステリ読書録

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「放課後探偵団 書きおろし学園ミステリ・アンソロジー」/創元推理文庫刊

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「放課後探偵団 書きおろし学園ミステリ・アンソロジー」。

『理由あって冬に出る』の似鳥鶏、『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞した
相沢沙呼、『叫びと祈り』が絶賛された第5回ミステリーズ!新人賞受賞の梓崎優、同賞佳作入選の
「聴き屋」シリーズの市井豊、そして2011年の本格的デビューを前に本書で初めて作品を発表
する鵜林伸也。ミステリ界の新たな潮流を予感させる新世代の気鋭五人が描く、学園探偵たちの
活躍譚(紹介文抜粋)。


創元推理文庫から出た書きおろしアンソロジー。これは、個人的にかなり楽しめた短篇集でした。
お目当ては似鳥さん、相沢さん、梓崎さん。東京創元社から刊行された各作家の著作はどれも
個人的にかなり気に入った作品だったし、しかも似鳥さん、相沢さんはシリーズの新作。文庫
だから図書館入るかわからないし(結果として現在入荷したようですが^^;;)これはもう、
買うしかないでしょう、ということで、珍しく昨年本屋で見かけて衝動買いしちゃったのでした。
でも買って良かったです。お目当ての三作家の作品は期待に違わぬ出来でしたし、他の二作も
そこそこ楽しめましたし(鵜林さんだけは若干イマイチ感があって残念でしたが^^;)。
どの作品も東京創元社らしい短編って感じがしました。学園ミステリーだけを集めたというのも
良かったですね。楽しく読める一冊でした。


以下、各作品の感想。

似鳥鶏『お届け先には不思議を添えて』
映研所蔵のVHSテープを貸して欲しいと卒業生から頼まれた映研のメンバーは、テープをダンボー
に詰めて先輩宅へ配送した。しかし、折り返し返って来た時には、入っていた筈のテープが他の
テープとすり替えられていた。一体誰が、何の為にこんなことをしたのか?映研の手伝いを
させられていた葉山は、友人のミノたちとともに真相を推理しようとするのだが。

このシリーズはやっぱりキャラ同士の会話がコミカルでテンポ良くていいですね。謎自体は
大したこともないですが(^^;)、テープをすり替えた人物には驚かされました。しっかり
ミステリとしてのポイントを押さえているところもツボ。あとがき代わりの編集者からの一言
でも触れられていますが、あの人が出てこないので、葉山君と彼女の掛け合い漫才(夫婦漫才?笑)
がなかったのは残念。でも、今年中にシリーズ新作が出る予定だそうなので楽しみです。

鵜林伸也『ボールがない』
そこそこ野球の名門校として名を馳せている日泉工業高校野球部に入部した俺。中学の時は
エースとして活躍していたが、高校に来たら俺以上に上手いヤツばかりで、練習して必死に
食らいついて行くのが関の山だった。ある日、練習試合で有力な選手が出かけている中、残り
の選手は監督から100球のボールで自主練習を言い渡された。しかし、練習が終わってボール
の数を数えると、1球足りない。全員でどこを探しても見つからない残り一球のボールは一体
どこへ消えてしまったのか・・・。

初読み作家さん。それもその筈、まだ著作が出ていないのだそう。鮎哲賞の常連投稿者で、
その実力を認められて今回お声がかかったそうで。でも、正直、私はこの作品が一番イマイチ感
があったかなぁ。野球の練習ボールが一球なくなってしまったのは何故かという、謎自体も
あまり魅力的とは云えないし、文章も展開もさほど光るものを感じなかった。真相も拍子抜け
だったし。何かもう一味欲しかった感じ。そこがやっぱり職業作家との違いでしょうか。
とはいえ、今年中に一冊本が上梓される予定だそうですが。読むかどうかは微妙だなぁ。

相沢沙呼『恋のおまじないのチンク・ア・チンク』
バレンタイン当日。前日に好意を寄せている酉乃初がチョコレート売り場にいたという情報を
得た須川は、期待を寄せる。しかし、朝一番で初を巡るライバルの八反丸から嫌がらせの
チョコレートを押し付けられた場面を初に目撃され、機嫌を損ねてしまう。須川が学年集会が
終わり教室に帰ると、教卓の上にはたくさんのチョコレートが集められていた。みんなが
持っていたチョコレートを誰かが密かに集めて置いたもののようなのだが・・・その目的とは?

デビュー作午前零時のサンドリヨンはかなり好みの一作だったので、その続編が読めた
のはとても嬉しい。しかも、今回、バレンタインのお話ということで、前作以上にスウィート
でキュートなお話。相変わらず須川君の独白はうじうじぐるぐるしてますが、そこがなんだか
憎めないのだよねぇ。クールな美少女初とのやり取りにもニヤニヤ。やっぱこのシリーズ好き
だな~。甘ーいラストもいいですね。むふ。こちらも、シリーズ新作が年内に出る予定だそう
なので、楽しみ、楽しみ(*^^*)。

市井豊『横槍ワイン』
他人の話を聞いてあげる『聴き屋』の柏木。いろんな人から相談事を持ち込まれ、話を聴いては
相槌を打ってあげるくらいの役割だが、みんなには重宝がられている。そんなこんなで顔が広い
柏木に、大学の後輩から映画製作の為に演劇学科の役者を紹介して欲しいと頼まれ、引き受けた。
数週間後、そのお例に製作した映画の鑑賞会に招待された柏木だったが、その席で映画上映中に、
後輩が好きな女性がワインをかけられるという事件が起きて――。

こちらも初読みの作家さん。そして、この市井さんも雑誌に短編はいくつか発表されているものの、
著作はまだ刊行されていないもよう。『聴き屋』柏木のキャラは結構気に入ったので、今年中に
シリーズが纏まって刊行されるようなので、出たら読んでみたいですね。女性がワインを被った
理由はちょっと強引なような気もしましたが(っていうか、こんな方法取らなくても他にやりよう
がありそうな気が・・・)、ある人物の認識違いをついた破綻のない推理で、なかなか面白く
読めました。

梓崎優『スプリング・ハズ・カム』
十五年ぶりの同窓会で、十五年前に埋めたタイムカプセルが掘り起こされた。二次会の席で、
最後に読み上げられたメッセージには『あの事件の犯人は、私だ』のメッセージが。あの事件とは、
卒業式の真っ最中、放送委員たちが作ったバカな応援歌が突然流されたことだった。放送委員
だった鳩村たちは、メッセージの主で応援歌を流した犯人が誰だったのか推理を交わすが――。

デビュー作叫びと祈りで去年大ブレイクした梓崎さんが日本の学園を舞台にどんな作品を
書かれるのか楽しみにしていましたが、さすがの出来です。完成度としては5作の中では飛び抜けて
いますね。十五年前の卒業式でいたずらを仕掛けた犯人が誰かという点でも二転三転する推理に
翻弄されたのですが、ラストにもう一つ大仕掛が待ち受けてました。これは完全に騙されてました
ね~。ミステリとして若干アンフェアな真相と言えなくもないですが、こういう騙され方なら
個人的には大いにアリです。伏線はきっちり張られていますし、真相を知ってもう一度主要な
部分を読み返してみると、確かにフェアに書かれていることがわかり脱帽でした。ラストの切なさ
といい、やはりこの人の感性は並ではないですね。現在長編を執筆中とのこと、非常に読むのが
楽しみです。




気に入った順は、梓崎→相沢→似鳥→市井→鵜林ですかね。完成度は梓崎さんですが、お話として
一番楽しく読めたのは相沢さんって感じかな。各作品の終わりに挿入されている、各作家の
新刊情報も嬉しかったですね。各作家の今年の活躍が非常に楽しみです。なかなかつぶ揃いの
アンソロジーだったんじゃないでしょうか。
学園ミステリがお好きな方には是非お薦めしたい一冊です。