ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

舞城王太郎/「イキルキス」/講談社刊

イメージ 1

舞城王太郎さんの「イキルキス」。

僕は西暁中学に通う中学二年生だ。ある日突然、僕のいる2Aのクラスメートの岡田美紀が突然
死んだ。それから、同じクラスの女子が立て続けに6人死んだ。突然心臓が止まってぽっくり
死んでしまうのだが、原因はわからない。僕のクラスの女子にだけ感染する伝染病なんじゃないか
って言われたりした。けど、やっぱりわからない。これから、僕のクラスの女の子は全員死ぬの
かもしれない。友達の名探偵本郷タケシタケシは、6って数字を基によくわからない説を僕に
話してくれたりしたけど、僕にはどうでもいい。それより、その本郷が好きな八木智佳子が、
なぜか突然僕の家にやってきた。八木は、僕のことを好きな菱川京子がこれから僕の家にやって
来て、僕に告白するとか言うのだ。それで、僕の返事次第で、僕は菱川に殺されちゃうかもしれ
ないらしい。でも、僕はそんな菱川なんかどうでも良くて、それより目の前にいる八木とキスが
したくてたまらなくなる。それで、僕の家の倉に八木を誘う。女の子って、なんて柔らかくて
しなやかでいい匂いがするんだワオー!(イキルキス)



あらすじがちっともまとまってなくてすみません。ちょっぴり舞城さんの文章をまねて書いて
みたんですけど、やっぱり同じようには書けないですねぇ。ちなみに、最後の『ワオー!』は
本文中に出て来て、嬉しくなっちゃったフレーズ。女の子と倉の中で二人っきりになった思春期
の男の子のえっちな本音が行間から伝わって来て、こっちまでドキドキ。アホだな~と思いつつ、
なんだか微笑ましい気持ちになってしまいました。中学二年の男の子なんて、こんなことばっか
考えてるんだろうなぁ(苦笑)。って、私の甥っ子も現在中学二年生・・・ガーン(アホ)。

本書は三編が収録された中短編集。なんといっても、表題作が一番好きだったな。突然一つの
クラスの女の子が相次いで謎の不審死を遂げたり、謎の鐘の音が聞えてきたり、死んだ筈の女の子
たちが突然生きて発見されたり、ストーリーに全く脈絡がなさそうな所が、何とも舞城さんらしくて
いいじゃないですか。そして、その謎がちっとも解明されていないのに、なぜか許せてしまう。
他の作家がコレやったら、めちゃくちゃ黒べる子が毒舌吐きまくる作品になるとおもうんだけど^^;;
名探偵本郷タケシタケシの扱いも適当だけど、それが不満に感じない。だって、これが舞城ワールド
なんだもんね。もー、こんな作家は舞城さんだけですね。めちゃくちゃなストーリーなのに、
なんだか読んでいて爽快感がある。気持ちイイ。登場人物が生き生きしていて、悩んでくよくよ
してるのに、元気だからかな。パワーがあるっていうかね。だから何?っていうストーリー
なんだけどね。
『イキルキス』タイトルは、そのまんまの意味。八木智佳子は、福島のキスによって生かされた
のかな。福島は、王子様ってガラじゃ、ない気がするけどね。

『鼻くそご飯』は、もう、冒頭読むのがキツかったな~^^;でも、子供ってこういうこと
やるんだよね、確かに(苦笑)。
タイトルからしてすごい。口に出したくない^^;ひー。内容も結構重くて、読むのがしんど
かった。『ディスコ探偵水曜日』にも出て来たけど、幼児虐待ってのは、どんな作品にしても
あまり読みたいものじゃない。弟の死がトラウマになって、歪んだ人生を生きることになった
主人公の負の感情に引きずられ、終始重苦しい気持ちになって読みました。本文の字体も
好きじゃなかったなぁ・・・(作中作みたいだった^^;)。

『パッキャラ魔道』も、かなり重い。ある事故がきっかけで、家族がバラバラになってしまい、
それぞれの人生を歩む為全員が別々に暮らし始めるのだけれど、みんな自分のことしか考えて
いないから、やっぱりどの人物の新生活も破綻が訪れてしまう。なんだか、最後とことん救いが
ないなぁと脱力したけれど、この救いのない落とし方が舞城さんらしいのかも。母親と新しい
彼氏との結婚式での、父親のスピーチの中の『物事は確かにどんどん悪くなることがある。
人生も、そういうことがままある。』という言葉が、その後の彼らの人生を象徴しているとは・・・
なんとも、皮肉なスピーチになっちゃったなぁって感じでした。みんなでクラリネット
こわしちゃった』を歌うところはみんな楽しそうで、幸せそうだったのにね。あの曲のサビの
部分は、私も小学生の頃は一体どういう意味なのかちっともわからず、適当に歌ってた覚えが
ありますね。だって、『オー、パッキャマラード』って言われてもさ。何だよそれ、ですよね。
そりゃ、『パッキャラマード』って覚えたって仕方ないよ(苦笑)。そっちの方が歌いやす
そうな感じだし。ちなみに、きちんと意味がわかったのは大学に入って授業でこの曲の原歌詞を
習ってから。『オー、パッキャマラード』の『オー』『OH!』じゃないんですよ。ビックリでしょ。
正しくは、Au pas, camarade(オゥ、パ、キャマラード)』なんですね。camaradeは友とか
仲間って意味。
直訳すると『歩こう、友よ』みたいな感じかな。フランス語なんですよ、実は。仏文に入らな
かったら、永遠に知らないままだっただろうな^^;エラそうに解説してスミマセン。
ちょっとしたトリビアを披露してみました(え、みんな知ってた?^^;)。



とと、最後は脱線してスミマセン^^;
三作とも、文体が微妙に違って、これは書かれた時期のせいなのか、敢えて作風に合わせたのか、
その両方なのかな。やっぱり、器用な作家ですね。

特筆すべきは、やっぱりこの装幀の可愛らしさでしょう。書店で売ってるのを見た瞬間、
装幀に惚れました(笑)。まぁ、内容的には、この愛らしい装幀とはちょっとかけ離れて
ましたけど^^;でも、やっぱり、舞城ワールド炸裂で、愛すべき作品集なのは間違い
ありません。