ミステリ読書録

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舞城王太郎「畏れ入谷の彼女の柘榴」(講談社)

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久々の舞城さん。果実シリーズ(勝手に命名。正式なシリーズ名があるかは謎)

第三弾。三作収録されております。

一話目の表題作『畏れ入谷の彼女の柘榴』は、半年以上身体に触れてさえいない妻が

妊娠した。俺は妻の不貞を疑うが、妻はあくまでも知らないと言い張る。そんな

夫婦の危機の中、四歳になる息子の指の異変に気づく。息子が「ピー」をすると、

指先が光り、そこから生命が生まれる!?妻のお腹の子は息子の「ピー」

原因なのだろうか――?

四歳の子供が面白がって生命を誕生させるシーンは、なかなかにショッキング。

でも、それをやらせていた人物の倫理観に一番怯えました。せめて、主人公が

まともな感性を持っている人で良かった。しかし、妻のお腹の子が結局アレが原因

だったというのには拍子抜けだったな。結局、妻の人間性が一番問題だったという。

タイトルは鬼子母神から来ているのでしょうね。

第二話の『裏山の凄い猿』は、<西暁の子供を見守り隊>の見守り対象である

四歳児が行方不明になるが、その後山の中で見つかった。しかし、山の中でその子の

面倒を見ていたのは、人語をしゃべる猿だったらしい。その猿が言うには、その子

に悪いカニが悪戯していたから、病院に連れて行った方がいいという。その通り

病院に連れて行くと、体内から苔玉のようなものが発見される。その後、その猿を

探しに行った別の中年男性が山の中で行方不明になってしまう。どうやら、悪い

カニに攫われたらしい。人の気持ちがわからないらしい俺は、思い立って中年男性

を探しに山に入るが――。

人語をしゃべる猿に、子供に悪戯するカニ。なんだかもう、かなりシュールな世界観

で、何が何やらって感じでしたが、舞城さんが伝えたい本質は別のところにあるの

だろうなって思います。他人の気持ちがわからない主人公が、なんとか人間らしい

感情を理解しよう悩む姿は、普通に人間らしいと思いました。でも、こういう人間が

結婚したら、また同じような子供が生まれて来るのかもしれないなぁ。両親から

自分たちは人を好きになれない人間だと告げられるのは結構キツイだろうなと思うな。

知らないままの方が幸せだったような気もするけど、主人公が自分を省みる機会には

なったのだから良かったとも云えるのかな。

三話目の『うちの玄関に座るため息』は、人の心残りがやって来る特殊な家に生まれた

三兄妹の話。今心残りの相手をしているのはばあちゃんだけど、ばあちゃんが

いなくなったら誰が心残りの相手をするんだろう?両親は気にせずお前の好きなことを

しなさいと言ってくれた。東京に出て来た俺は、先に東京に出ていた兄から、交際

相手を紹介される。相手は男性だった。同じく先に東京にいた姉を交えて四人で

会うようになったが、ある日兄が交際相手の直哉さんに特殊な我が家のことを打ち

明けると、二人の間に不穏な空気が流れてしまい――。

これまた不思議な話だった。人の心残りが訪れる家。兄と兄の交際相手とのやり取りは

何か不毛な感じがしたなぁ。正しい、正しくないことって何だろう。心残りが嫌

だから人と付き合うとか付き合わないとか。もっとシンプルに考えればいいのになぁ

って思ったけど、こういう家に生まれちゃったからには、いろんな業に縛られて

しまうものなのかな。後悔を引き受けるって覚悟がいるころなんだろうな、と

思いました。

うーん、なんだか上手くこの作品を読み解けていない気がして、何を述べても

薄っぺらい感想になっちゃうなぁ。舞城さんの作品の感想は難しい・・・。

でも、ところどころで人にとって大切なメッセージがたくさん隠されていて、

やっぱりすごい作家だな、とはっとさせられるんですよね。まぁ、どう捉えて

良いのかわからない時も、しばしばあるのですけれどね(だめじゃん^^;)。

ちょっと今回は、上手く自分の中で消化しきれなかった気がするな(すみません)。