ミステリ読書録

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池上永一/「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ」/角川書店刊

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池上永一さんの「トロイメライ 唄う都は雨のち晴れ」。

19世紀、『テンペスト』と同じ時代の琉球王朝。新米岡っ引きとして少しずつ大人への階段をのぼる
武太。水不足の村の窮状、盗みを働いた貴婦人、謎の風水師の秘密……今回も6つの難事件が立ち
はだかる!(紹介文抜粋)


テンペストのスピンオフ作品トロイメライの続編です。前作を読んだ時に、すぐに続編が
出るという情報を得ていたので、とても楽しみにしていました。やー、今回も面白くて、あっと言う
間に読んじゃいました。
本編に比べると、市井の市民生活を描いている分、地味という感想を持つ方が多いみたいですが、
私はこっちもすごく好きだなぁ。一作一作、人情味溢れるストーリーですごく優しい読後感だし、
相変わらずどのキャラも立っていて、キャラ同士の会話も楽しいし。本編のキャラがちょこちょこ
カメオ出演(というより目立っている場合も多いけど^^;)するのも嬉しいし。琉球言葉に
ピンと来ないので、若干読みにくい部分もあるにはあるんですが、その辺は気にせず豪快にスルー
しちゃえば全然オッケー(え、ダメ?^^;)。武太の三線の部分はいつも飛ばし読みだし(苦笑)。
どのお話も楽しめたのですが、特に前半の三作が好きだったかなー。
ただ、今回は、武太の成長があんまり伺えなかった気がするのが残念といえば残念かも。なんか、
前作よりも印象悪くなってる気が・・・^^;第二夜の『職人の意地』での、あっちについたり、
こっちについたり、のふらふらした感じなんかイラっとしましたし(苦笑)。まぁ、結果的には
若い二人をコンテストに出した功労者と言えなくもないんですけどもね。最後の話では、なけなしの
お金をギャンブルにつぎ込んであっさり破産しちゃうし。なんで、そっちに賭けるんだよー、と
ツッコミたくなりました・・・。
今回はやっぱり、真牛に再会出来たのが嬉しかったですね。でも、聞得大君の位って、下ろされた
んじゃなかったっけ?また最後に復職(?)したんだっけ?それとも、その前の話なのかな、これ。
その辺り、なんか記憶があやふやなんですが^^;
でも、一番期待していた、黒マンサージの正体が結局わからなかったのが、なんとも歯がゆいです
・・・。でも、この書き方で、わかる人にはわかるのかな??この人と繋がっているってことは、
かなり選択肢が狭まったってことなんでしょうけれど・・・うう、ピンと来ない自分が恥なのか^^;
わかった方、是非教えて下さい・・・。


以下、各お話の感想。

『第一夜 真切倒』
真切倒(税収が悪化し、村の運営が危ぶまれること)を起こした村の再建に派遣された下知役
(租税徴収が困難な村に派遣される役人)は、村人に酷い苦役を強いる悪人だった・・・。

真牛のねちっこくも容赦ない仕返しで、極悪非道な下知役がとっちめられるところがとっても
痛快でした。こういう、勧善懲悪の世界は読んでいてスカっとしますね。真牛のキャラはやっぱり
憎めなくって好きだなぁ。

『第二夜 職人の意地』
王宮に献上する新しい菓子と器を競う会が開かれることになった。をなり宿の三姉妹も、職人が集う
若狭町村の職人をそれぞれパートナーに迎え、新作菓子の製作に取りかかることに。 

お菓子担当、器担当、それぞれに一番下っ端の二人が、上の立場の人たちにこき使われながらも、
自分に出来る精一杯のものを作ろうと頑張る姿が初々しくて良かったです。特に、思亀の熱意には
頭が下がる思いがしました。彼の情熱が最後実を結んで嬉しくなりました。

『第三夜 雨後の子守唄』
をなり宿で、ウフスーコー(年忌法要の中でも、三十三年忌など節目になる法要。盛大な料理で
もてなす)の重箱泥棒が出た。しかし、盗人には思いも寄らない事情があった・・・。

最初は、三姉妹が精魂込めて作ったウフスーコーを盗むなんて!と盗人に腹が立ちましたが、事情を
知って胸が痛みました。裁判での人情味溢れる判決にほろり。みんないい人だなぁ。

『第四夜 那覇ヌ市』
武太は清国から輸入している蛇皮を横流しする密売組織の調査の依頼を受け、町屋の屋良座当ヤー
が怪しいとの情報を得、調べに向かう。そこで聖母像を買おうとしている大貫長老と出くわし、
長老が密貿易に関わっている現場を見てしまうのだが・・・。

蛇皮を探す魔加那と、金を探す黒マンサージが出くわす場面で、お互いに嘘を教える所にくすり。
でも、魔加那って、前作で黒マンサージのことが好きになったんじゃなかったっけ?
今回、そういう素振りが全くなかったのが意外でした。しかし、ほんと、黒マンサージの正体って
誰なのーー^^;最後に出て来たアノ人に想いを寄せている人物ってことですよねぇ・・・それだと、
あの人しか思い浮かばないんだけど、なんか、義賊しそうなタイプに思えないしなぁ。ううう、
気になる(><)。

『第五夜 琉球の風水師』
真切倒寸前の比嘉盛村を訪れた風水師の神山は、村に留まって風水を見るうちに、村の一番の美女、
ウメと恋に落ちる。しかし、神山には人に言えない秘密があった・・・。

最後、神山が王府お抱えの風水師・林学石と意気投合しちゃうところが良かったですね。独学でも
才能があれば一人前になれるってことですかね。

『第六夜 芭蕉布に織られた恋』
王府の御用物座の役人・真境名は、首里天加那志に献上する究極の反物を探し、情報を頼りに
素晴らしい布を織る織り手がいるという末吉の森にやって来た。そこで、素晴らしい芭蕉布
織る若い女性と出会う。真境名に依頼された布を織る彼女を手伝ううちに、次第に彼女に惹かれて
行く真境名だったが・・・。

唯一悲しい結末です。身分違いの恋ってやつですね。切ない・・・。気になったのは、最後、
武太が真境名に宛てたメッセージの内容。『形見』って・・・?武太が使う言葉を間違ったの
かな。だって、いくら何でも村から逃げてただけで死罪ってことはないよねぇ?



今回も楽しく読めました。まだまだ続きそうな感じですね。この形式なら、いくらでも続きが
書けそうだし。せめて、黒マンサージの正体を明かすまでは続けて欲しいです・・・^^;
出来れば、やっぱり、本編の続きも書いて欲しいですけどね。