ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾ルカ/「てふてふ荘へようこそ」/角川書店刊

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乾ルカさんの「てふてふ荘へようこそ」。

ある街の高台に佇むおんぼろアパート「てふてふ荘」。敷金礼金なし、家賃はわずか月一万三千円、
最初の一ヶ月は家賃をいただきません。この破格の条件の裏には、ある秘密があって……(あらすじ
抜粋)。


乾さんの最新作。しかし、この人はほんとに出す作品ごとに雰囲気の違うものを書いて来ますねぇ。
今回は、ちょっぴり切ないけれども、人情味溢れるハートウォーミングな連作集。優しい読後感に、
読み終えて心が温まりました。作品構成は、三浦しをんさんの木暮荘物語に似てるかな。
あとは、三羽省吾さんの路地裏ビルヂングあたりとか。
三浦さんのは、どの作品にも共通したテーマに『性』がありましたが、こちらはまた違ったあるテーマ
が出て来ます。あまり書いてしまうとネタばれになってしまうので、なかなか感想の難しい作品
ですね^^;まぁ、帯なんかで盛大にネタばれしちゃってるかもしれないですけれども。家賃
月一万三千円という破格の値段で、しかも最初の一ヶ月は家賃いりません、という破格の好条件
で貸し出されている、おんぼろアパートてふてふ荘。もちろん、その条件の裏には秘密が隠されて
います。そりゃ、誰が見たって怪しすぎる好条件ですよねぇ。どう考えたって、何かあると思う
のが普通でしょう。その理由は、まぁ、至ってオーソドックスではあるんですが、各部屋ごとに、
という所がちょっと普通と違うかな(読んだ人にしかわからない書き方ですみません^^;)。
普通に考えたら、こういう状況に置かれるのは非常に抵抗があるんですが、てふてふ荘に住んだ
としたら、すんなり受け入れられちゃうのかも。何より、ダンディで美声でとっても親切な大家
さんの存在がありますからね。終盤で明かされる、大家さん自身の正体に関しては、かなり驚かされ
ました。特に、五号室の回でその正体が仄めかされる場面の書き方が巧い。大家さん自身を救う方法
を考え出すくだりもそうなんですが、作品構成も軽くミステリ色があるところに感心させられました。
乾さん、ちゃんとしたミステリーにもチャレンジしてくれないかなぁ。

各作品それぞれに楽しめたのですが、若干終盤はご都合主義的な印象もありました。特に大家さんを
救うくだりは、感動的なのだけれど、良く考えるとツッコミ所が満載って感じがしました。いくら
何でも、そこまで都合良くバタフライ状に事故現場が散らばるものかねぇ、と。しかも、年齢も
符合してるっていう確率といったら、神の配剤としか思えません^^;これも大家さんの力なの
ですかねぇ・・・。
ビリヤード本番の描写も、もう少し欲しかったかなぁ。あっさりエピローグに飛んじゃったので^^;

エピローグの展開は切ないですが、大家さんのことを考えると、これで万事良かったのでしょうね。
それぞれの住人は、またてふてふ荘での経験と思い出を胸に、新たな人生を歩んで行くのでしょう。

今までの乾作品の中では、一番軽く読めるお話かも。だからといって、作品の内容が薄い訳では
なく、一作ごとに訪れるお別れには切なくしんみりしましたし、じわりと心に沁みる作品集となって
いると思います。
一番感情移入したのは美月の回だなぁ。美月が今までしたこともない化粧を、好きな人の為に
必死になって覚えて、それがことごとく裏目に出て行くのが、読んでいて歯がゆくて、哀れで
仕方なかった。でも、恋をして、好きな人の為に少しでも綺麗になりたいと頑張る彼女はとても
可愛らしかったし、それを笑う周りの人間たちには猛烈に腹が立ちました。まぁ、食べ物を扱う
職場にいて、どぎつい化粧や香水がNGなのは常識の範疇だと思いますがね・・・^^;部屋での
おっちゃんとのやり取りも良かったなぁ。それだけに、ラストが切なかったです。

恋愛・友情・BL(←ここ入ってるところがしをんさんっぽい(笑))etc...と、それぞれに
バラエティに富んでいて、マンネリにならずにバランス良く構成されているな、と思いました。
装幀もタイトルも可愛らしいですね。
乾さんはほんとに一作ごとに作風が変わる作家さんなので、次はどんな作品を読ませてくれるのか、
追いかけるのが毎回とても楽しみなのです。次はどんなジャンルかな。