ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

凪良ゆう「すみれ荘ファミリア」(講談社タイガ)

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本屋大賞受賞作家・凪良ゆうさんの最新文庫作品。以前に他のレーベルから出た

作品を再文庫化した作品だそう。続編となる短編も収録されているので、こちらで

読んだ方がお得感はありそうです。

本屋大賞の作品は当分借りられそうにないので、それ以外の作品をちまちまと

読んでいけたらいいなぁと思っているところです。

んで、本書。病弱で仕事を続けられれず、やむなく実家のすみれ荘という下宿屋で

管理人をしている和久井一悟という青年が主人公。一悟は、ある日、自転車で

歩行人の男とぶつかり、怪我をさせてしまう。男は小説家で、右手を怪我し、

仕事が出来ないという。なりゆきで、一悟は男を自分の下宿屋で面倒見ることに。

しかし、その男は、実は一悟の生き別れた弟だった――。

ボロい代わりに、管理人が食事を作って食べさせてくれる下宿屋って、今どき

なかなかないような。一悟は病弱な代わりにお人好しで、困った時は何でも

要望を聞いてくれるし。店子が長く居続ける理由もわかります。でも、そんな

すみれ荘に一悟の弟で小説家の芥がやって来たことをきっかけに、住居人たちの

裏の顔が見えてくるように。どの人物も表向きとは違う顔を持っていて、まともな

人がいなくて辟易しました。それぞれに、KYでデリカシーに欠ける会話をする人

ばっかりなんだもの。相手に配慮して言葉を選ぶ人なんて、主人公の一悟くらい。

裏表がないって意味では、弟の芥が一番信頼出来る人物だったかも。芥もKY発言

連発ではあったけど、悪意や皮肉はそこには一つも入ってなかったから。

一悟の周りで、これだけ裏表のある人物ばかり集まるってのは一体何の因果なん

だろう、と気の毒になりました。最愛の奥さんは事故で亡くしてるし。娘は

義父母に取られてるし。なんか、いろいろ、悲惨な境遇過ぎて。一悟が人生に

諦めたように、枯れ木のように生きているのがやるせなかったです。でも、芥の

登場によって、いろんなことが明らかになって、大変な目にも遭ったけれども、

最後は収まるところに収まったのだから良かったのかな、と思いました。芥は

終盤まで敵か味方かわからなかったけれど。一悟の為にも、私が思う通りの人物

であって欲しいと願っていたので、その通りでほっとしました。一悟の体調不良

の原因は、途中でだいたい見当がつきました。ある人物の言動はいろいろおかし

かったし、そもそも自宅の部屋とはいえ、お見舞いに鉢植え持って来た時点で

やばい人だなっていうのはわかりましたから(なぜか、その点については作中に

触れられてなかったけど)。

放火犯についても、なんとなく予想はつきましたね。その人物も、一悟に対する

言動にはいちいち引っかかるところがあって、読んでてムカついてましたから

(一悟はお人好しだからあまり引っかかってなかったみたいだけど)。

芥との関係だけが唯一この作品での救いだったかな。二人の今後の関係がどう変化

していくのか、続きが読んでみたいです。新しくなったすみれ荘の住人たちは、

裏表がない人々でありますようにと願わずにいられませんけどね。

あとがきの後の短編は、構成が上手いですね。取り壊す前のすみれ荘の一室の

壁に、たくさんの謎の御札が貼ってあり、物議をかもすという作品。その御札を

貼った人物と、それを指示した人物の思惑が最後に明らかになり、意表をつかれ

ました。怨念が籠もってそうで怖すぎる。一悟の一連の不幸はこれがきっかけだった

のでは・・・。ひぃぃ。