ミステリ読書録

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愛川晶/「三題噺 示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳」/原書房刊

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愛川晶さんの「三題噺示現流幽霊 神田紅梅亭寄席物帳」。

怪しげな手品師と船宿の一席、狙われる老落語家、師匠いわくの山間の宿……。謎に合点し落語で
披露、笑いあり涙ありの大人気シリーズの第4弾!ついに福之助が……!?(紹介文抜粋)


相川さんの落語シリーズ第四弾。やっぱり、このシリーズは安定していていいですねぇ。しみじみ。
四作目にして、この完成度の高さは本当に素晴らしい。特別編を含めた四編が収められて
いますが、どれも面白かった。一作目で出て来たトリックが、続く作品にしっかり伏線の一つ
として効いて来るところも巧い。表題作であるニ作目はこのシリーズの最大の醍醐味である落語と
ミステリを見事に融合させて読ませる作品に仕上がっているし、続く三作目では馬春師匠の復帰
という、シリーズ最大の読ませ所をメインに据えつつ、ミステリ的要素も取り入れた上で落語の
洒落で落とす、という見事な終着点に瞠目させられました。番外編である四作目の存在がまた、
小憎いまでに作品全体に効いているんですねぇ。それまでの三作で出て来たある一つの謎が、
この作品を読むことで一気に解けるところが素晴らしかったです。四作の短編それぞれの出来も
秀逸なのですが、一冊通して読むことで、それぞれの作品がしっかりラストへの伏線になっている
ことに気づかされ、巧いなぁ、と膝をたたきたくなりました。これぞ構成の妙。
相変わらず馬春師匠のキャラが光ってますね。特に、三作目の『鍋屋敷の怪』では、師匠の
照れ屋だけど負けず嫌いな性格が非常に良く現れていて、その執念深さには呆れつつ、ちょっと
笑ってしまいました。まぁ、やられた方はたまったものではないと思いますが^^;ここまで
手が込んだことをされると、ねぇ。

今回はいよいよ、馬春師匠の落語復帰独演会が企画されることになるのですが、実現までは
一筋縄ではいかない問題が出て来ます。本当に師匠の落語は再び披露されることになるのか、
最後までハラハラさせられました。さて、結果はいかに。途中、福之助と亮子が受けるのと
同じような衝撃を私も受けました。まぁ、読む読者もみんな唖然とするでしょうね。ここまで
来て、それ!?と憤りたくなりましたもの。でも・・・なるほど、こういうことでしたか、と
納得の展開が待ち受けていました。馬春師匠が高座に上がるかどうかはともかく、最後は
爽快に読み終えられることだけは間違いありません。

最後の特別編は、『はる平は誰なのか』が一番のキモだと思います。実は私、終盤まで勘違いして
まして。もしかして、以前の作品で、改名前の名前が出てきたことがあったのかもしれませんが、
全く覚えていませんで、すっかり勘違いさせられちゃいました(恥)。はる平が誰なのかわかって、
やっと、この作品が書かれた意味もわかり、同時に、馬春師匠が拘っていた『海の幸』の謎が解けて、
胸がいっぱいになりました。本当に、良く考えられた作品構成になっていて、唸らされました。

本書が出版されたのは5月ですが、あとがきを書かれているのが三月の震災直後ということで、
当然ながら作品自体は震災以前に書かれたものだと思うのですが、作中で大きな地震が二回も
出て来るし、馬春師匠が湯治に行くのは福島県の奥会津地方だしで、なんとなく今回の震災との
奇妙な符合を感じずにはいられませんでした。作者ご自身も福島のご出身ということで、複雑な
思いを感じられたのではないでしょうか。
あとがきでも、当初の予定では本書がシリーズ完結編のつもりだったようですが、震災が
起こったことで、これで終わりには出来ない、と感じられたとおっしゃってます。
ファンとしては、その想い通り、是非ともまだまだ続けて頂きたいですね。

今回も、落語とミステリと人情噺を見事に融合させた完成度の高い一作に仕上がっていて、
大満足でした。面白かったです。