ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

奥泉光/「桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活」/文藝春秋刊

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日本一下流の大学教師、クワコーこと桑潟幸一と女子大生探偵たちの活躍を描くユーモア・
ミステリー。たらちね国際大学に首尾よく職を得たものの、薄給と田舎暮らしに意気上がらない
クワコー。そのうえ顧問をつとめる文芸部の部員たちはファッションがゴスロリだったり、学校の
裏庭でホームレスのような生活をする変わり者ぞろい。だがそんな彼女たちが抜群のチームワークで、
クワコーの周囲で発生する怪事件を次々解決していく(紹介文抜粋)。


シューマンの指』は自分の予約引取りミスで読み逃してしまったので、今回は早々に予約し、
しっかり引取りに行ってきました。東川篤哉さんのトークショーで触れられていて、面白そう
だったので、刊行を楽しみに待っていた作品。
奥泉作品は鳥類学者のファンタジア以来、二作目。ファンタジーとSFが絶妙にブレンド
されて独特の世界観を醸しだしていた『鳥類~』とはまた全く雰囲気が違い、お笑い要素
満載のギャグ先行作品。
これほど、タイトルと表紙が内容を裏切ってる作品も珍しいんじゃないでしょうか。これ、
買ったひとから苦情とか来ないのかなぁ・・・『騙されたー!金返せー!!』って声が聴こえて 
来るような・・・^^;;
とはいえ、内容的には十分おもしろかったです。表紙から想像した内容とは間違いなく乖離
してるんですけれども、これはこれでアリじゃないかと。っていうか、私はこういうクダラナイ
のが大好きなので、大いに楽しんじゃいました。
何といっても、主人公クワコーのキャラが最高ですね。バカ大学から更なるバカ大学に移って、
極貧生活を送らなくてはいけなくなってしまった不惑(40歳)の大学准教授の受難が
次々と描かれるのですが、どんなに酷い目に遭っても、クワコーはめげません。いや、
最初は女々しくめげるんですけれども、そこから開き直りの自虐が始まるんですね。これがもう、
鬱陶しいやら、可笑しいやら。地味にひとりで40の中年男がいじけるところには妙な悲哀が
あって、ついつい頑張れ、クワコー!負けるな、クワコー!と応援してあげたくなってしまい
ました(笑)。
クワコーのキャラ自体は、ラストの『森娘の秘密』だけ雑誌掲載時に読んだばかりだったので
知ってはいたのですが、『森娘~』読んだ時は、クワコーがなぜ文芸部の顧問をしてるのかとか、
その辺の事情がよくわからず、ちょっと入っていけないところもあったので、今回その辺の経緯
を読んで、なぜ彼があそこまで文芸部のみんなからおもちゃにされているのかがわかってすっきり
しました(笑)。ここまで生徒に対して頭が上がらない大学教師も珍しいのじゃないだろうか^^;
大学准教授というポストのくせに、ひと月の給料が11万とんで350円ってのもすごいですが。
それでも、文句も言わず、少ない給料の中でやりくりしちゃう辺り、クワコー、かなりの高い
順応力を持っていると言わざるを得ません。クワコー考案の極貧料理がまた、美味しそうなんだな。
これだけの順応力があれば、きっとどこででも生き延びて行けるでしょうね(苦笑)。

文芸部のメンバーたちのキャラもそれぞれ個性的で、クワコーとの絡みが面白かったです。特に
ジンジンのキャラがいいですねぇ。女の子のなのに、クワコー以上に貧乏で、学校の敷地内に
ダンボールハウスを立ててホームレス生活。なんか、自伝でも出したら、ひと儲けできそうです(笑)。
見た目も性格もクールなのに、生活はホームレスっていうギャップが面白かった。なんだかんだで、
クワコーの窮地を救ってあげる慈悲深い面があるかと思えば、その裏にはちゃっかり文芸部の利益に
なることを考えてる狡猾なところもあるし。まぁ、基本的に頭がキレるんでしょうね。すぐに
他人に騙されるアホでお人よしなクワコーとは対照的で、いいコンビだと思いました。

ミステリとしては、まぁ、どうということもないのですが、キャラや会話がツボにはまって、
何度も吹き出しながら読んでしまった。最初の方はなかなか慣れないところもあって、ちょっと
入って行くのに時間はかかったのですけれどね。クワコーのキャラに慣れたら、自然と楽しく
読めるようになってました。
まぁ、ダメな人は早々に挫折しちゃうタイプの作品かもしれないですが、ハマる人はどっぷり
ハマって楽しめるんじゃないでしょうか(私はもちろん、後者でした)。

まぁ、タイトルの『スタイリッシュな生活』の定義がどんなもんかはわかりませんが、
間違いなく、クワコーの送る生活はスタイリッシュとは対極にあるでしょうね(苦笑)。
『モーダルな事象』クワコーが出て来る作品なのですね。おそらく、レータン時代の話なのだとは
思いますが。分厚いから気になりつつも躊躇していた作品なのですが、ちょっと読んでみたく
なりました。そのうちチャレンジしてみようっと。