ミステリ読書録

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有栖川有栖/「真夜中の探偵」/講談社刊

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有栖川有栖さんの「真夜中の探偵」。

平世22年―すべての探偵行為が禁止された日本。空閑純は、17歳。両親ともに有名な探偵だが、
母の朱鷺子は4年前から行方不明。父の誠は昨年、警察類似行為で逮捕され、収監されている。
純は叔父の住む大阪で独り暮らしをはじめる。母の行方の手がかりを探すなか、父母に仕事を仲介
していた押井照雅という人物と会える機会が訪れる。1週間後、押井の別宅で水に満たされた木箱に
入った溺死体が発見された。被害者は元探偵で“金魚”と呼ばれていた男だった。容疑者リストに
入った純は、自ら「水の棺」の謎を解くために調査をはじめる。純は探偵としての一歩を踏み
出せるのか(あらすじ抜粋)。


理論社のYAレーベル、ミステリーYA!シリーズから刊行された闇の喇叭の続編。前作は、
非常に中途半端なところで終わっていたので、最初からこの続編の刊行を想定して書いていたの
でしょうね。ただ、続編がなぜ版元すらも変えて出されたのかは、謎ですが・・・大人の事情って
やつですかね。今回の続編の刊行に併せて、前作も同じ講談社から出版されたようです。今後は
こちらの媒体で書かれて行くのでしょうね。

舞台は、法律で探偵行為が禁止されている、架空の日本。探偵の両親を持つ空閑純ことソラは、
母が行方不明になり、父は探偵行為のせいで警察に逮捕され、たった一人で生きて行かねば
ならなくなります。友人との交流も絶ち切って、単身、叔父の住む大阪で一人暮らしを始めます。
密かに探偵になり、母親の行方を捜したいと願う純の元に、両親の仕事の仲介者をしていた人物
接触する機会が訪れます。そして、その人物が持つ別宅で不可解な殺人事件が起き、純はその
殺人事件の謎を解こうとし始める――というのが大筋。
一作目は舞台背景の説明部分が結構多くて、読むのがしんどかったところがあったのですが、
今回は一人で生きはじめたソラの身に起きる出来事を追うというのが物語の核になっている分、
大分読み易かったです。とはいえ、派手なストーリー展開がある訳ではないので、なんだか
ちっとも物語が進んだ気がしなかったのですが・・・。母親の失踪の件も、最初と最後に
意味深に出て来るだけで、結局何一つわからないままだし。まぁ、三作目もすでに刊行が
決まっているようなので、まだ繋ぎの一作って感じなのかもしれないですが。

木箱の中の溺死体という謎自体はなかなか魅力的で良かったですし、真相も面白かったので
本格ミステリとしてはさすが有栖川さん、という出来ではあると思うのですが、ソラによる
謎解き部分の書き方が淡々としすぎていて、全く盛り上がりに欠けるせいで、なんだかすごく
勿体ない感じがしました。もう少し、後半にかけて盛り上がりのある書き方をしたら良かったのに。
犯人による犯行動機も、ちょっと説得力が欠けていたような・・・。

そもそも、このシリーズの大元となる、『政府によるあらゆる探偵活動の禁止』という部分が、
私的にどうも納得が行かないんですよねぇ。だからどうも、この世界自体に馴染めない、というか。
政府の支配下に置かれ、監視された世の中という、鬱屈した空気自体がなんだかじめじめしていて
好きになれないです。こういう暗いトーンが好きな人もいるのでしょうけれどね。

残念だったのは、一作目で出て来たソラの友人二人が名前しか出て来なかったこと。ソラ自身が
敢えて彼らとの関係を断った訳だから、当たり前ではあるんですが。出来れば、由之視点で
彼の現在の心情なんかも読みたかったな。前作でせっかく彼のソラへの想いが明らかになった
のに。次回作では出て来るでしょうか・・・(無理そうな気も^^;)。


新シリーズとして有栖川さんが力を入れようとしているのはすごく良くわかるのですが、正直、
私としては、こちらのシリーズよりも火村シリーズ(江神シリーズなんて贅沢は言わないから)の
方に力を入れて欲しいなぁ・・・。


でも、装幀はすごく凝っていて素敵。ページ枠の部分が全部青く塗ってあって、表紙や中扉には
お魚が描いてあって、なんだか水の中にいるみたいな装幀。スピンも青だし。水が関係した事件
だからでしょうね。

次回作では福岡が舞台になるようです。ソラが探偵になれる日は来るんでしょうか。文句
言いつつ、多分次も読んじゃうんだろうな(苦笑)。