ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

青山美智子「月の立つ林で」(ポプラ社)

青山さん最新作(かな?その後出てたらすみません)。本屋大賞にもノミネート

されてますね。

うんうん。安定の青山ワールド。とっても素敵な作品集でした。長年勤めた病院

を理由あって辞めて次の職を探す元看護師、売れないながらもお笑い芸人の夢を

諦めきれない宅配便の契約社員、結婚して子供が生まれた娘との関係に悩む

二輪自動車の整備士、シングルマザーの母親から自立したい女子高生、夫や義母

との関係に悩むハンドメイドアクセサリー作家。

悩みや憂いを抱えるそれぞれの人物が、タケトリ・オキナという人物による

ポッドキャストの『ツキない話』という番組を通して、気づきを得ることで

自分を見つめ直し、成長していく物語。

各作品が少しづつリンクしていて、最後に謎の配信者であるタケトリ・オキナの

正体と、この番組が配信されている理由が明かされるという、連作短編形式。

それぞれの人物も微妙にリンクがあって、今回も人物相関図が欲しくなりました

(笑)。ここまで全部をリンクさせる必要があるのかはちょっと疑問を覚えなくも

ないですが(さすがにちょっと偶然が過ぎる印象は否めない)。まぁ、きれいに

繋がっているのが気持ちいいとも云えるので、伏線回収って意味ではすっきり

したのですけどもね。

タケトリ・オキナの正体は、やっぱり・・・って感じではありました。ただ、その

人物だとすると、その人物が登場する作品の主人公がそれに気づかないのが

不自然にも思えてしまうのですが。実際の声とポッドキャストの声って、そう

違わない気がするんですけど。っていうか、ポッドキャストっていうものが

どういうものなのか、恥ずかしながら今回初めて知りました。言葉自体はラジオ

とか聴いてるとちょこちょこ出て来るので知ってはいたのですけど。素人が

自由にラジオみたいな番組を作れる媒体なんですね(説明間違ってたらすみません)。

言ってみればYou Tubeとかのラジオ版みたいな感じ?この本読まなきゃ、ずっと

知らないままだったかもしれないなぁ。

月をテーマにしたポッドキャスト『ツキない話』、確かに聴いてみたくなりました。

タイトルだけだとツキがない人の話なのかな?って思われそうですけど。月に

ついての尽きない話って意味なのかな?それともツキない=月がない=新月って

ことかな。何にせよ、この番組を配信しているタケトリ・オキナが、この番組を

毎日続けている理由にはほろりとさせられました。聴かせたい相手が、ちゃんと

そのメッセージを受け取ってくれたのが嬉しかったです。

どのお話も良かったなぁ。それぞれに感情移入できました。各主人公も老若男女

バラバラで、いろんなタイプの人が出て来ましたね。1話目の元看護師が、ラストの

お話で新しい職業に就いてるのがわかって嬉しかったです。それも、ぴったりな

仕事に。そして、お互いがお互いを知らないにも関わらず、ちゃんとお互い助け

合っているところも(知っているのは、読者だけ)。こういう粋な繋がりを考える

のが、本当に青山さんは上手い。誰かが誰かを知らないところで助けている。

世界はそうやって回っているんだって気付かされます。それは2話目も3話目も

4話目も一緒なんだけれどね。こういう青山さんの優しい世界が大好きだなぁ。

さくっと読めるけど、ちゃんと根底に深くて温かいメッセージが隠されている。

やっぱり、本屋大賞候補になるだけありますね。青山さんはノミネート常連さん

だけど、そろそろ獲らせてあげたい気もしますねぇ。他も強敵揃いなので(全然

全部読めてないけどw)、どうなるでしょうかね。