ミステリ読書録

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エーリッヒ・ケストナー/「飛ぶ教室」/講談社文庫刊

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エーリッヒ・ケストナー飛ぶ教室(山口四郎訳)」。

 

子どもだって、ときにはずいぶん悲しく、不幸なことだってあるのだ…。20世紀初
頭。孤独なジョーニー、頭の切れるマルチン、腕っぷしの強いマチアス、弱虫なウリ
ー、風変わりなゼバスチャン…個性溢れる五人の生徒たちが、寮生活の中で心の成長を
遂げる。全世界が涙したケストナーの最高傑作を完全復刻(紹介文抜粋)。



今月の一冊。以前からあちこちで目にしていた作品で、気になっていたので借りて
みました。薄いし、ぱらぱら中みたら読みやすそうだったので(笑)。児童書だとは
知りませんでした^^;読んでみて、想像していた話とまるっきり違っていたので
ちょっとビックリしました。実は、タイトルから、ファンタジックな作品を想像して
いたんですよね。ファンタジックというか、頭にあったのは漂流教室みたいな
ちょっとSFっぽい設定。教室自体がみんなを載せて世界を旅して行く、とか。
とにかく、教室が飛ぶっていうんだから、そういう想像しちゃうのは仕方ないこと
だと思いません?(誰に聞いてる?^^;)
でも、そういうファンタジー要素は一切ゼロ、タイトルは、作中劇の名前から取った
ものだったのですね^^;このタイトルはいかがなものか・・・。
あと、マルチンとマチアスの区別がどうしてもつかなくて、読んでる間は終始二人
を混同してました^^;外人の名前はわからん・・・。

 

でも、内容はといえば、語り継がれる良書となるのも頷ける、素敵な作品でした。
正直、始めの方はいまひとつピンと来なかったところもあるんですが、メインの
子供たち5人が、囚えられた友達を救う為立ち上がる辺りから、俄然面白くなって
きて、心踊らされました。それに、その結果を彼らの担任の正義先生に報告した後
の先生の反応がこれまた感動的なんですよね。その素敵な先生の行動に感動した
生徒たちが、先生の為を思ってしてあげたことも粋で良かったですし。
更に更に、そのあと、優等生のマルチン少年に与えられた試練と、その顛末に涙腺
決壊寸前。担任の正義先生がここでも大活躍。なんでこの先生、こんなに良い人
なんでしょうか。ただ、現代の小中学校でこういうことしたら、心ない他の生徒
モンスターペアレンツたちがこぞって文句言って来そうですけど・・・こういう
粋な行動を肯定出来ない心の狭い人間にだけはなりたくないって思いましたね。
マルチンを目の前にした両親の喜びに、こちらまで胸がいっぱいになってしまい
ました。
嫌な人間がほとんど出て来ないんですよね。主人公たちと敵対する高等中学の生徒
のリーダーだって、自分たちが負かされたと認識した後は素直に負けを認めて反省
してましたしね(最初は嫌味なヤツって感じでしたけどね)。



まえがきの作者の言葉もとても素敵です。

 

子どものなみだは――(中略)おとなのなみだより小さいというものではありません。
おとなのなみだより重いことだって、いくらもあるのです。



そう、子どもは、子どもなりにおとなにはわからない辛い経験をたくさんしておとな
になって行くのですよね。子どもにはわからないって、切り捨ててしまっていいこと
なんてひとつもない。でも、みんな、おとなになってしまうと、子どもの頃の辛い
思い出なんてどうということもなかったって、おとなになった今の方がずっと辛い
って思ってしまうものなんでしょうね。子どもは子どもながらに、真剣に必死に
その小さな子ども社会の縮図の中で生きているのにね。

 

なんだか、そういう、忘れてはいけないのに、忘れてしまった大事な何かを思い出
させてくれるような素敵な作品でした。読み終えて、ほわっと心が温まりました。
少年少女に読んで欲しい、児童書の名作だと思います。子どもたちにずっと読み
継がれて欲しいですね。