ミステリ読書録

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赤井三尋/「ジャズと落語とワン公と 天才!トドロキ教授の事件簿」/講談社刊

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赤井三尋さんの「ジャズと落語とワン公と 天才!トドロキ教授の事件簿」。

早稲田大学の等々力教授は専門の言語学だけでなく、推理力でも超人的。大正11年、ノーベル賞
受賞決定直後に来日したアインシュタイン博士の愛用するバイオリンが盗まれた。限られたチャンス
に大胆不敵な犯行を成し遂げた真犯人と、その意外な狙いとは。大正から昭和初期の実在人物が続々
登場。3つの事件の謎を追い、大学教授師弟が帝都トーキョーを駆けめぐる。乱歩賞作家が軽妙に
描くレトロモダン推理小説(紹介文抜粋)。


初めましての作家さん。乱歩賞作家ですが、乱歩賞のはいまいち食指が動かず読まず仕舞い
だったんですよね^^;これは、図書館の返却棚コーナーで見かけて、完全にジャケットと
タイトル借り。だって、ジャズも落語もワン公も、ミステリとは相性が良いではないですか。
文章もぱらぱら中みたら読みやすそうな感じでしたしね。実際、読み易かったし、なかなか
面白かったです。ただ、思っていた内容とは大分違っていたのですが^^;
中には三編の中編が収められています。八十歳を過ぎた早稲田大学の元教授・井上が、大正時代に
体験した3つの事件を回想する、という形。その回想録の中心になっているのが、井上が
当時助手として付き従い、尊敬していた等々力教授。等々力教授は、教授としても優秀だった
けれど、同時に私立探偵としても多くの事件を解決して世に名前を馳せていた人物。この
等々力教授が鋭い推理で解決した3つの事件を回想し、一編ごとの最後にインタビュー形式で
井上とインタビュアーの当時についての対話が収録されています。

三編ともなかなか面白かったです。ただ、ラストに収録されている表題作は、既存の作品と
ミステリーの真相が丸かぶりのようですが・・・。
一応ミステリーの部分はフィクションだと思いますが、実在の人物や事件も絡んで来て、
大正時代の時代背景がちょこちょこ垣間見えました。出てくるお料理も、今なら当たり前のように
食べられるお馴染みのものばかりですが、当時はそれこそ上流階級の人間しか食べられない贅沢品
だったことが伺えました。大正時代のレトロな雰囲気と、等々力教授の明晰だけれどもどこか
呑気な性格がマッチしていて、なかなか好みの一作でした。

一作目は、アインシュタイン博士が来日中に、博士の大事にしていたバイオリンが盗まれて
しまった、という事件。バイオリン紛失が全く関係なさそうな別の事件と繋がっていて、
面白かったです。カツ丼がめちゃくちゃ美味しそうでした。あと、アインシュタイン博士が
普通に日本人と会話してるのが不思議な感じがしました。歴史上の偉大な人物って印象しか
ないので^^;

二作目は、外務省の電信課に勤める係員が事故で亡くなった際、洋服のポケットから暗号が
書かれたメモが見つかり、国の外交暗号が某国によって解読されたのではないかと危惧した
外務省の幣原男爵から、暗号を解読して欲しいと頼まれる事件。暗号の解読法は説明されても
さっぱり理解出来ませんでしたが、亡くなった男が持っていた暗号に関しては非常に単純な
解読の仕方でちょっと拍子抜け。まぁ、全然気付きませんでしたけどね^^;しかも、その
内容がまた・・・もっと、外交上の重要機密とかが書いてあるのかと思いきや・・・って
感じでした^^;途中に出て来たロシア料理が美味しそうだった~。

三作目は、落語家の柳家金語楼の元に、富山の薬売りを名乗る男から、病気の友人の為に造成中
隅田公園でジャズ落語をやって欲しいという依頼が持ち込まれるが、依頼した後男が姿を消して
しまい、男が話していた病院に入院しているという友人も存在せず、途方にくれて等々力教授に
相談を持ちかける、というお話。
確かに、ミステリの真相はどこぞで読んだことがあるような内容でしたね^^;でも、ハチ公の
活躍に胸がすく思いがしましたし、井上さんと奥様の出会いも読めて楽しめました。


等々力教授のキャラは、ちょっと島田荘司さんの御手洗さんっぽいかなーと思いました。
御手洗さんっぽいキャラクターの探偵役ってほんと多いですよねぇ。まぁ、等々力教授は御手洗
さんほど奇矯な性格ではないですけどね。もうちょっと穏やかだし、大人でダンディって感じ
かな。なかなか素敵なキャラクターで気に入りました。井上さんとのコンビも良かったですね。

全体的にはちょっと薄味な感じもありますが、個人的には結構楽しめました。