ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

黒田研二/「さよならファントム」/講談社ノベルス刊

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黒田研二さんの「さよならファントム」。

事故で大怪我を負った若きピアニスト・新庄篤。三ヵ月が過ぎ、ようやく歩けるようになった当日
に妻の裏切りを知った彼は、激情のあまり彼女を殺してしまう。すべてを失い、命を絶つため家を
出た篤だったが、ひょんなことから美少女・ココロと行動を共にすることに。彼女の周りでは命を
落としかねない危険な事件が続いており、街では連続爆破事件まで発生! 果たして篤の運命は!?
(紹介文抜粋)


くろけん最新作。随分久しぶりな感じがしますが。内容は、くろけんらしいラストであっと
言わせる仕掛けが施された技巧的ミステリー。途中、ツッコミ所が満載なんですが、そういうのが
全部ラストへの伏線になってるところはさすがです。いくつか途中で気づけちゃうものもあったり
したんですが、最後の最後で明かされる主人公自身の秘密に関しては、すっかり騙されてました。
なるほど、その部分がわかった上で読むと、腑に落ちる部分がたくさんありました。途中、死神
だの、幽霊だの、しゃべるぬいぐるみの熊だの、非現実的な設定がたくさん出て来るのですが、
そのすべてにもきちんと説明がついてすっきりしました。

途中まで、主人公の鼻持ちならない性格が好きになれなくて、ちょっと読んでてイライラした
ところもありました。献身的な妻に対する猜疑心から、卑屈になって、いちいち妻の言動を
マイナスに捉えるところにもムカムカ。まぁ、読んでるうちに、なんとなくだんだんと哀れに
思えてきて、最後の方ではそれほど嫌悪感もなくなりましたけどね。特に、ココロと、生まれ
育った生家に行って、隣のオバチャンと再会したシーンでは随分と印象が変わりました。ただ、
このシーンで後から考えると一点腑に落ちない部分があったのですが・・・(後述します)。

主人公新庄と、くまのぬいぐるみクーニャとの会話は好きでした。死神だと思ってたクーニャが
実は・・・ってところも、良かったですね。
切なくてやるせない真相ではありましたが、読後感は悪くなかったです。ある人物の、新庄に
対する無償の愛にジーンとしてしまいました。本人だけが、その愛に気付いていなかったことが
悲しかったけれど。




以下、ネタバレあります。未読の方はご注意を。















先述した、生家の隣のオバチャンとのシーンですが。オバチャンの足が痛くなって新庄が
さすってあげるシーンで、オバチャンは「アー坊のお母さんにも、よくこうやって脚を
さすってもらったっけねぇ」と返しています。新庄はさすった『つもり』でも、実際は
出来ない訳で、なぜオバチャンは彼にさすってもらったと『勘違い』したのでしょう?
新庄の代わりに、ココロがさすってあげたのかな、とも思いましたが、彼女をオバチャンの
近くに呼んだのは、この行為の後。うーん。謎です・・・。

あと、チーズの試食のシーンでも一点気になるところが。ココロが食べる筈だったチーズを
食べた猫が死んだのはなぜだったんでしょう?人間の下剤で猫って死ぬのかな?

















最初の方からいろいろ怪しいぞ、と思える記述はたくさんあったので、鋭い人はからくりに
気づけちゃうかもしれないです。カオルについては想像通りでしたしね。ただ、そこを
差し引いても、私はラストでおおっと言わされてしまいました^^;細かい伏線の貼り方
なんかは、くろけんらしくてさすがだな、と思いました。ミステリ好きならそれなりに
楽しめる一作じゃないでしょうか。