ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「オールスイリ2012」/文藝春秋刊

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「オールスイリ2012」。

人気作家の読みきりミステリーを集めた注目の小説誌。東川篤哉の新作は可愛いメイドとドMの
青年刑事が活躍するユーモア中篇。湊かなえ「望郷、夢の国」は厳しい家に生まれた少女の人生を
描き、有栖川有栖「探偵、青の時代」には学生時代の火村英生が登場! ほか、奥泉光貫井徳郎
辻村深月麻耶雄嵩乾くるみの力作中篇、石田衣良×瀧井朝世「このミステリーがモテる!」
対談や、万城目学米澤穂信のエッセイを収録(紹介文抜粋)。


絶対一作は読み飛ばし作品があると思っていたので、記事も書くつもりはなかったのですが、
なんだかんだで寄稿作家がほとんど好きな作家ばかりで、結局一冊全部読んでしまったので、
一応記事に残しておこうかと(笑)。前作も借りて読んでいるのですが、そっちは記事に
しなかったみたいです(書いたような気がして探してみたけど、INDEXに残ってない^^;)。

小説部分もそれぞれに面白かったのですが、小説以外の、石田衣良氏と滝井朝世さんの
特別対談や米澤さんの読書日記なんかも結構楽しめました。石田さんは個人的にあんまり
いい印象のない作家さんなのですが(作品は一作も読んだことがないにも関わらず^^;;)、
結構まともなことをおっしゃっていて(←失礼過ぎ^^;)、ちょっと見直しちゃいました。
とはいえ、対談のテーマが『このミステリーがモテる!』っていうのが、なんともかんとも、
ですけど(苦笑)。石田さんらしいテーマというか、なんというか^^;対談相手の滝井
さんは、以前私が参加した東川篤哉さんのトークショーで司会(?)を務めてらした方
なので、より親しみが湧きました。


では、各作品の感想を。

湊かなえ『望郷、夢の国』
これはちょっと中途半端な作品でした。ミステリーを期待して読んだら肩透かしを食らわされる
かも。祖母の死の真相の部分でちょっぴりミステリ要素があるかな?くらい。それも、ほとんど
予想がついちゃうものなので。島の権力者であるおばあちゃんのせいで、いろんなものを諦め
なければならない主人公が可哀想でした。祖母のいいなりになって子供に夢を諦めさせる母親
にもムカついたなぁ。

東川篤哉『魔法使いと失くしたボタン』
魔法使いマリィのキャラが、どうしても頭の中で西澤保彦さんの神麻さんに重なって仕方
なかったです^^;東川さん、執事の次はお手伝いさんですか。よっぽど、使用人キャラが
好きなんですかね(苦笑)。ゆるい作風は相変わらず。殺人シーンまでもがやたらに軽い^^;
倒叙もので犯人は最初から明らかですが、聡介が最後にある切り札をたてに、犯人を追い詰める
ところは『なるほど!』と思わされました。

貫井徳郎『籠の中の鳥たち』
設定は割とありがちなクローズドサークルもの。人を一人でも殺したら死刑になるという世の中
で、山の中の山荘に集まった男女間で殺人が起き、連続殺人に繋がって行く、というもの。
設定はありがちなんですが、最後で明かされる犯人の動機には唖然。到底理解出来ない殺人心理
でした。部屋の中で死んだと思われる人物の死体が全然出て来ないので、そこに何かトリックが
あると思っていたのに、全く関係なかったという^^;これもまた、作者のミスリードの一つ
だったのかな。

麻耶雄嵩『バレンタイン昔語り』
なんと、またしても『神様ゲーム』の続編。作者の中で、神様鈴木はかなりお気に入りのキャラ
だったりするんですかね。語り手の桑町淳って、『神様ゲーム』の主人公と同じなんでしょうか。
だとしたら、三作目にして明かされる驚きの事実にビックリ・・・ってとこなんですけど。
神様ゲーム』の内容うろ覚えなんで、そこの辺りはっきりしないまま読んでたんですけど^^;
ラストの反転にはあっと言わされました。ほんとに、何者なんでしょうか、神様鈴木^^;

米澤穂信『雨読』
米澤さんの読書エッセイ。出て来る本は、ほとんど知らない本ばかりでした^^;;でも、
泡坂さんのとか都筑さんのとか、面白そうだったな。

万城目学『海外ドラマ、ときどきニュートリノ
海外ドラマにはまる万城目さんのエッセイ。海外ドラマに全くはまったことのない人間としては、
ちょっと話題についていけなかったのですが、ドラマにはまる気持ちはわかるので、共感出来ない
訳じゃなかったです。一度見だすと、続きが気になって仕方なくなるものなのよね。ドラマって
よく出来てるよね。

乾くるみ『殺人テレパス七対子
麻雀よくわからないので、麻雀薀蓄は何が何やらでした。トリックもさほど目新しいものでは
なかったので、全体的にイマイチ楽しみ切れなかったなぁ。

奥泉光『海のクワコー』
とにかく、収録作中圧倒的にページ数が多い。ってか、割きすぎじゃないか?^^;まぁ、
クワコーだしね。相変わらず、周りからの扱いの酷さに、悲哀感が漂っていて笑えました(酷)。
ミステリーと言っていいのか悩むくらいのクダラナイ事件でしたが、クワコーのキャラだけでも
笑えるし、全体的に漂うぐだぐだ感も楽しめました(笑)。

有栖川有栖『探偵、青の時代』
これは今回一番の拾い物じゃないでしょうか。なんたって、学生時代の火村センセに会えるの
ですもの。学生の頃から老獪な雰囲気漂ってたんですねぇ。付き合い悪いのに、妙に人気が
あるというのも、なんだか頷けちゃいます。そして、学生の頃からしっかり名探偵としての
片鱗を漂わせているところがさすがですね。

辻村深月『君本家の誘拐』
なんとなく、オチを予想しながら、はらはらしながら読んでいたのですが、思った展開とは
ちょっと違ってました。もっと最悪の事態を想像していたので、ラストはちょっとほっと
しました。
出産を経験されたからこそ、こういうお話が書けるのでしょうね。欲しくて欲しくてやっと
出来た子供だからこそ、良枝のようになっちゃう母親って結構多いんだろうなぁ・・・。
児童虐待のニュースとか見ると、ほんと許せないし信じられないって思っちゃうけど、自分が
いざその立場になってみたら、どうなるのかちょっと怖いな。




寄稿作家がほとんど好きな作家ばかりだったので、なかなか読み応えがあって楽しめました。
多分、新潮社のStory Sellerに対抗したいんでしょうね。ミステリ好きとしては、こういう
ムック本ならどんどん出して欲しいですね。
表紙の『あ・・・スイリしちゃった』のセリフがなんか可愛くて好きだな(笑)。