ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

桂望実/「週末は家族」/朝日新聞出版刊

イメージ 1

桂望実さんの「週末は家族」。

シェイクスピアに心酔する小劇団主宰者の大輔と、その連れ合いで他人に愛を感じることが
できない無性愛者の瑞穂は、母親の育児放棄によって児童養護施設で暮らす演劇少女ひなたの
週末里親になって、特殊な人材派遣業に起用することになるが―ワケあり3人が紡ぐ新しい
“家族”の物語(紹介文抜粋)。


桂さん最新作。子供を作らないワケあり夫婦の大輔と瑞穂が、児童養護施設で暮らす一人の
少女の週末里親に名乗りをあげ、週末だけ三人で暮らす擬似家族生活が始まります。はじめは
ぎこちない関係だったけれども、そこから紆余曲折を経て、三人の関係が少しづつ変わって
行く様を描いたちょっと変わった家族の物語です。

実は、中盤までは、主役の三人それぞれに好感が持てなくて、結構読んでるのが苦痛でした。
特に大輔には好感どころか、嫌悪しか覚えず、彼の内面描写には終始イライラさせられました。
一見明るくて屈託のない性格っぽいんですけどね、内面は結構嫌なこと考えてたり、シェイクスピア
に心酔していて、シェイクスピアの話になると周りが見えなくなって、一人でしゃべりまくる
ところもウザくて仕方なかったです。大輔の元劇団員で、現在は有名女優となった元カノとの
くだりもほんとムカムカしました。まぁ、元カノにも同じくらいムカつきましたけどね。
大輔は自信家のあまり、自分の脚本の評判が悪いのは、周りに見る目がないせいだ、とか
思っちゃうタイプで、端からみると、ほんと痛いキャラだなーって思いました。でも、こういう
タイプ、結構いますよねぇ。思い込みが激しいっていうのかな。ただ、根が単純だから、自分の
ダメなところを認めちゃうと、案外素直に直そうとするようなところもあって、それで終盤は大分
印象が良くなったのですけどね。

ひなたは最初、すごい計算高い嫌なタイプの子供なのかと思ったけど、単に、いろんなものを
諦めてしまって、期待しないようにしていただけなんですよね。あんな母親に育てられたら、
そりゃ、性格も歪んじゃうよなーって思いました。
『子供は母親に会いたいものだ』という思い込みで、彼女を母親に必死で会わそうとする施設の
大人たちと、ひなた自身の母親への冷めた思いとの温度差にやりきれない気持ちになりました。
思い込みだけでひなたと接する佐藤には腹が立ちましたね。こんな子供の気持ちを少しも汲み取れ
ない人間が、こういう施設で働いてる事実に憤りを感じました。でも、これが現実の一端なのかも
しれません。一人一人、全員の子供の気持ちを慮っていたら、こういう仕事は成り立たないのかも
しれないですね・・・。ある意味、割り切った佐藤のような性格だからこそ、務まっているのかも。

瑞穂がひなたの母親と対決(?)したシーンは、多分ひなた同様大丈夫かとはらはらしたけど、
言葉はたどたどしくても、瑞穂の気持ちがちゃんと伝わって来て、ちょっぴり感動しました。
瑞穂とひなたが一緒にいると、どっちが母親かわからなくなる時がありましたけど^^;
瑞穂が興奮すると、ひなたがすぐに背中をさすって落ち着かせてあげるところが良かったな。

大輔と瑞穂とひなた。彼らの関係を家族ではなく、『チーム』と表現したところが良かったです。
家族にはなれなくても、一つのチームとして、お互いに信頼して認め合える関係っていいなって
思いました。最初読んでる時は登場人物に感情移入できなくてどうなることかと思いましたが、
最後は爽やかに読み終えられました。


ただ、ひなたが最後まで瑞穂のことを『オバサン』と呼ぶのが悲しかったな。確かに、瑞穂自身が
『オバサン』でいいって言ったんだけどさ。大輔を『大輔君』って読んでるんだから、瑞穂は
『瑞穂さん』って呼ばせてれば良かったんじゃないのかなぁ。なんか、ひなたが瑞穂を『オバサン』
って呼ぶ度に、ちょっと悲しい気持ちになったので^^;せめて『瑞穂おばさん』とかさー。
カタカナで『オバサン』って表記、個人的にはすごく嫌でした。