ミステリ読書録

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柚木麻子/「けむたい後輩」/幻冬舎刊

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柚木麻子さんの「けむたい後輩」。

大学で元詩人の先輩・栞子に出会い、心酔していく真実子。親友を栞子に取られたようで美里は
面白くない。一方、栞子の恋人・蓮見教授は美里の美貌に心を奪われて―。女子大で入り交じる、
三者三様のプライドとコンプレックス(紹介文抜粋)。


少し前に読んだ『あまからカルテット』がとても面白かったので、図書館の新刊案内で本書を
見かけて予約してみました。『あまから~』のほのぼの路線とは正反対で、読めば読む程イヤーな
気分になるような作品でした。女同士の友情とか、微妙な距離感を描いたって意味では共通してる
ところもあるんですけどね。
大きく違うのは、出てくる登場人物にことごとく共感も好感も持てないってところでしょうか。
とにかく、今回メインに出てくる栞子も真実子も美里も、それぞれにクセが強くて、思い込みも
激しくて、彼女たちの言動のほとんどすべてに嫌悪を覚えました。こういう女にだけはなりたく
ないよなーってタイプばっかりって感じ。三人三様、自分の中には全くない要素を持った女性
たちばかりだったので、私だったら絶対三人とも友達になれないだろうなぁ、と思いながら
読んでました。

栞子は、親のコネで14歳の時に詩集を出してもらったことで、自分は特別な人間だと思い
込んでいる凡人。才能もないくせに、プライドだけは高く、周りの人間をバカにして敵を作る
くせに、自分を慕ってくれる後輩にはいい格好しようと自分を取り繕う。その上、ダメな男に
ばかり引っかかって、身を持ち崩す。よくもまぁ、ここまで俗物な人間像を作り出せるものだ、
とある意味感心しちゃいました^^;ほんと、彼女の言動がことごとく痛くて。自分に酔ってる
バカ女にしか思えなかったです・・・。

そんなバカ女を心の底から心酔する後輩・真実子の言動がこれまた痛い。邪険にされても、
全くめげずに栞子の後を追っかけて、彼女の言葉一つ一つを真に受けて、自分のものに
しようとひたすら努力する。ある意味非常に努力家だし素直な良い子ではあるんですが、
こと栞子に関してだけは、その純粋さがおかしな方向に行っちゃうところが理解出来なかった
です。新興宗教にのめり込んだ信者のごとくに、彼女に心酔する真実子の言動は、イライラを
通り越してちょっと怖いくらいでした。なんでこんな明らかに薄っぺらい女にそこまで心酔
出来るのか、ほんと理解不能でしたね。

そんな真実子を心配する親友の美里は、これまたちょっとクセのある女性。アナウンサー志望で
とびきりの美女だけど、実は男とまともに付き合ったことがない処女。栞子の正体をあっさり
見ぬいて、真実子の心酔っぷりを心配する。常に物事を上から目線で見てるところがあんまり
好きになれなかったです。真実子のことを本当に心配しているところは良い友だちだと思い
ましたし、自分の夢に向かって努力してるところは、栞子とは正反対でまだ好感持てました
けどね。

それにしても、栞子が好きになる男はほんとにダメな男ばっかりでしたねぇ。大学教授の蓮見
にしても、年下の伊佐夫にしても、旅先で知り合った黒木にしても、なんでこんなの好きに
なるんだろって首を傾げちゃうような、どうしようもない男ばっかり。こと男に関しては、
持ち前のプライドの高さが崩れるところが、より俗物っぽさを強調してる感じがしました。

真実子が成り上がって行く過程はちょっと、ご都合主義が過ぎる感じがしました。いくら何でも、
たった一枚のデジカメ写真を映画のポスターに使うなんてあり得ないだろう・・・。見よう
見まねで出したシナリオがコンクール一位ってのも、ねぇ。まぁ、それが真実子の才能の凄さ
なんでしょうけど^^;


栞子と真実子のラストの逆転劇は、賛否両論あるようですね。私も、ここまで真実子のキャラを
変貌させる必要はあったのかな、とちょっと疑問に感じました。たった三年で、そんなに人間
変われるものかなぁ・・・そりゃ、真実子はそれだけの地位に上りつめた訳だけど。
いままでの栞子からの仕打ちを考えると、胸がすかっとしたと言えなくもないけれども、
なんだか、個人的には真実子の純粋さが失われてしまったことが悲しかったです。イヤな女に
なっちゃったなぁって感じがして。
苦い後味だけが残る結末でした。


イヤな気分になりながらも、先が気になって一気読み。面白かったといえば面白かったのですが、
好きな作品かと聞かれると、好きとは言えないなぁ・・・。女同士って、ほんといちいち面倒くさい
なぁってしみじみ思わされる作品でした。