ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

貫井徳郎/「微笑む人」/実業之日本社刊

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貫井徳郎さんの「微笑む人」。

エリート銀行員の仁藤俊実が、意外な理由で妻子を殺害、逮捕・拘留された安治川事件。犯人の
仁藤は世間を騒がせ、ワイドショーでも連日報道された。この事件に興味をもった小説家の「私」
は、ノンフィクションとしてまとめるべく関係者の取材を始める。周辺の人物は一様に「仁藤は
いい人」と語るが、一方で冷酷な一面もあるようだ。さらに、仁藤の元同僚、大学の同級生らが
不審な死を遂げていることが判明し……。仁藤は本当に殺人を犯しているのか、そしてその
理由とは!? 貫井氏が「ぼくのミステリーの最高到達点」と語る傑作。読者を待つのは、予想
しえない戦慄のラスト(紹介文抜粋)。


貫井さんの最新作。前作『新月譚』は、読み進めるのに結構時間がかかったんですけど、今回は
いつものリーダビリティ溢れる貫井作品で、ページ数少ないし先が気になるしで、あっという間に
読み終わっちゃいました。
・・・読んでる時は、本当に面白かったんです。一体どんなラストが待ち受けているのか、
仁藤という犯罪者には、どんな真実の顔が隠されているのか、どんな驚きの真相が明らかに
されるのか・・・ってね。






えーと、これから本書を読まれる方の興味を削がない為にも、ここから先、未読の方はご遠慮
頂いた方が良いかもです・・・。
ある意味、自分にとって『衝撃のラスト』という煽り文句は間違いではなかったです・・・
思っていたのとは、全く別の意味で、でしたけど・・・。






















え、ええーーーーーーーっっ!!ここで終わり!?って叫びたくなりました・・・。こ、ここまで
引っ張っておいて、そんなオチ!?貫井さん、そりゃないぜよ・・・。
少しづつ、仁藤の本性が明るみに出て、『真実』の章で、ついに羊の皮を被った仁藤の真実の
顔(狼の顔)が明かされるのかと、否が応でも期待MAXでページを捲ってた私のドキドキ感は
何だったんだぁぁぁ(泣)。
帯の作者本人による『僕のミステリーの最高到達点』がコレなの!?
そりゃね、ある意味、間違ってはいないと思うけれども。犯罪者の内面心理なんて、結局
周りには理解出来ない、本人にしかわからないっていうのは。でもさ、それを敢えて暴くところが、
ミステリーの醍醐味なんじゃないのか?
今まで貫井作品を読んで来て、ここまでもやもやした作品もなかったような。最後のオチを
読むまで、本当に面白く読んでいただけに、このぐだぐだなラストにはガッカリを通り越して
ショックでした。貫井さんなら、もっとあっと言わせる逆転オチがあると信じていたので。
こんなつまんないオチで終わらせるなんて。確かに、最後の『真実』の章で多少のトリックは
使われているけれど、一番気になる仁藤の真実があまりにもおざなりなので、違う意味で驚か
されました。だって、一番肝心なとこじゃないの?今まで主人公が追っかけて来たものは
全くの無意味だったってこと?煙にまかれて、尻尾巻いて逃げて終わり?まぁ、それだけ
仁藤という人物が得体が知れない、と言いたいのかもしれないけれど。そういう点で考えれば
こういう書き方をしたのも理解出来ない訳じゃないけれど。でもね~・・・読者としては、
それじゃ納得出来ないですよ。もやもや感MAXです。

仁藤の妻子殺害の理由は、本当に彼自身の言葉通りなのか?
過去に彼の周りで起きた死亡事件は、本当に彼が関わっていたのか?
小学生の時の友人ショウコの父親の事故死の真相は?
そのショウコが主人公である作家の取材を受け、彼を騙したのは何故か?仁藤に頼まれて
いたのか?
なぜ、仁藤は『ショウコ』という女性に拘るのか?


・・・ざっと思いつくだけでも、これだけ腑に落ちない部分が書き出せる。細かく考えたら、
もっとあると思う。全部が全部、意味深な書き方をしているだけに、きちんと真実を明かして
欲しかった・・・。
ページ数倍になってもいいから、ちゃんとしたオチをつけて欲しかったです。
なんか、何らかの理由で連載が打ち切りになって、無理矢理終わらせたのじゃないか、とか
穿った見方をしたくなってしまった。だって、ページ数も貫井さんの割に少ないし。
これが最高到達点って断言しちゃうのは、どうなんだろうか・・・。
大好きな貫井作品でまさかの黒べるこ・・・。ほんと面白く読んでただけに、最後だけが
残念でした・・・。

























いやー、どうなんですかね、この作品。貫井ファンでも賛否両論分かれるんじゃないだろうか。
面白く読めることは間違いない。仁藤という犯罪者が、悪の教典のハスミンのように
魅力的なのも(いや、人間としては最悪だと思うけど^^;)。
犯罪の動機としては、前代未聞なんじゃないでしょうかね。普通に考えたら理解不能
でも、作品をずっと読んでいって、仁藤という人物を掘り下げて行くと、有り得そうだと
思えてしまえるところが怖かったです。
一冊通して犯罪者仁藤の内面心理を掘り下げることにページを割きながら、最後まで内面心理が
一切出て来ない、というのがこの作品の狙いだったのでしょうね。
個人的には、もったいない、というのが正直な感想でした。