ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森見登美彦「夜行」/貫井徳郎「壁の男」

どうも、こんにちは。外は朝から雪です、雪!11月に雪が降るとは・・・(絶句)。
仕事休みなので、家に閉じこもっております。まぁ、午後から出かけなきゃ
いけないんですが・・・やだなー。
みなさま、お出かけの際はくれぐれも足元にお気をつけて。

 

読了本は今回二冊。雪でやることもないんで、記事書いちゃおっと。

 

森見登美彦「夜行」(小学館
モリミー新刊第二弾。こちらはシリアス一辺倒なヒヤリとした連作短編集。
この手の怪談作品は、『きつねのはなし』以来久しぶりのような。宵山万華鏡』
そうだったっけ?あれは怪談って感じじゃなかったよね。
10年前、英会話スクールの仲間だった5人が、久しぶりに集まった。仲の良かった
彼らは、10年前、鞍馬の火祭りにみんなで訪れた。その時、仲間の一人だった
長谷川さんが突然姿を消した。みんな、長谷川さんのことが好きだった。長谷川さんは、その時以来姿を消したままだ。長谷川さんの思い出を抱えたまま再び集まった
彼らは、一人づつ自ら体験した旅の思い出を語り始めた。不思議なことに、
それぞれ全員が何らかの形で旅先で早世した銅版画家・岸田道生の連作画『夜行』
と出会っていた――。
なかなかに、凝った構成の作品になっています。この作品が作家生活10周年記念の
作品ということでか、モリミーも気合入れて書いたのが伺えました。
それぞれの怪談話では、かなり不穏なラストを孕んだものもあります。なぜ、語り手が
ここにいられるの?と不思議に思うこともありました。まぁ、その辺は、幻想と記憶が
ごちゃまぜになっていて、どこまでが真実なのかわからない、みたいな感じなのかな。
真夏にやる百物語みたいに、一人が話し終えると、他の人が話し始める、みたいな
構成になっているから、それぞれが怪談話のように脚色したと考えてもおかしくは
ないしね。
普通に怪談集としても楽しめると思いますが、ラスト一作で反転される世界を知ると、
また違った感想を抱くのではないかしら。ただ、何がどうなってるのか考え出すと、
ぐるぐる回ってしまうような、酩酊感を覚えるラストでした。
個人的にはユーモア溢れるモリミー作品の方が好きだったりするのだけど、やっぱり
こういう系統のお話作りも上手いんだなーと感心させられました。謎の画家岸田による
連作画『夜行』を、すごく観てみたくなりました。対になっていると言われる『曙光』
の方も気になるけれど、私はやっぱり『夜行』側の絵に惹かれる気がする。
ミステリアスな長谷川さんのキャラクターが効いていますね。本人自身は最後のお話
まで登場しないのだけど。

 

『夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ』

 

長谷川さんの謎の言葉が、この作品の世界観をとても良く表していると思いました。
冷やりとした夜の光景が、いろいろな都市を舞台にして浮かび上がって来るよう
でした。
基本的には京都が舞台ですが、それぞれが語る怪談は旅先での経験ばかりなので、
ちょっといつもの京都を舞台にしたモリミー作品とは趣が違う印象でした。
どの人が語るラストも、あまり後味がいいとは言えない、不気味な気味悪さを感じる
ものばかり。この有耶無耶な感じが怪談らしいのかな。で、その後どうなったの?と
気になるばかりでした。
装丁も美しいですね。真ん中の女性には、顔を描かないで欲しかった気がするけど
(岸田が描いた『夜行』の全ての作品には、顔を描かれていない女性が登場する
のです)。
モリミーの新境地といった作品でしょうか。良かったと思います。

 

貫井徳郎「壁の男」(文藝春秋
貫井さん最新刊。今回も、一度読み出したらページを繰る手が止められず、ほぼ
ノンストップのような状態で読み終えてしまいました。
地方の小さな集落がSNS上で話題になっていた。その集落の民家の壁のほとんどに、
子供の落書きのような奇妙な絵が描かれているのである。ノンフィクションライターの
鈴木は、なぜ民家にこんな下手な絵が描かれているのか、描いた人間はどんな人物
なのか、興味を惹かれ、取材に出かける。描いたのは伊苅という、この集落で
便利屋のようなことをしている男だという。早速当人に取材を申し込むが、取り付く
島もなく追い払われてしまう。
仕方なく集落の住人たちに話を聞いて回るが、伊苅についての謎は深まるばかり
だった。
一体彼はどういう人物なのか――。
集落の民家の壁に描かれたたくさんの稚拙な絵から、どんどん話が別方向に進んで
行って、ラストは意外な事実が判明して終わります。要するに、絵を描いた伊苅
という男が、どんな人生を歩んで、集落の壁に絵を描くに至ったのかを描いた
ミステリーなのですが。
終盤に進むにつれて、思わぬ事実が次々と判明して行って、途中で感じた腑に
落ちなさに次々と説明がつけられて行きました。なるほど、こういう理由で
あれはああだったんだ、ということの連続。こういう構成を考えられること自体に
感心しちゃいます。
ただ、ラストは「え、ここで終わり?」って感じではありましたけど・・・最低限
のことしかわかってないような。まだ、いくつも気になる点が残っているのだけど。
作品の狙いとして、完全にすべてを語るのではなく、敢えて最低限の部分だけを
描いて後は読者に想像させる、という形を取っているのかな、とは思いました。その
部分まで描けば、十分その後のことも類推出来る、みたいな。読者としては、ちょっと
突き放された感じはしましたけどね。
最初は、伊苅という男にあまり好感が持てなかったのだけど、彼の人生と人となりを
知って行くにつれて、印象が変わって行きました。ただ、梨絵子との結婚に関しては、
女性としてちょっと引っかかる部分はありましたけどね。これから結婚する相手に
対して、ああいう条件をつけるというのはね。私だったら、相手の気持ちもわかる
けど、引いてしまうと思うな。梨絵子が頼まれると断れない性格なのを見越して
その条件を申し入れたとしたら、ちょっと卑怯な感じもするし。もちろん、純粋に
結婚したい気持ちもあったとは思うけど・・・。梨絵子がよくOKしたなぁと思い
ました。あと、二人の結婚後に関しても、ある一点の部分で気になるところはあり
ました(子供関係)。笑里がいたから、なのかなぁ。
笑里が病気になった時、梨絵子の反応があまりにも薄く、伊苅の方が必死になっている
感じが強かったので、変だな、とは思っていたのですが、ああいう理由があったから
だったとは。ちょっと、何書いてもネタバレになりそうで、遠回しな感想ですみません^^;
あと、離婚の経緯があまりにも端折りすぎだったのも気になったんですけどね。そこは
その後で語られる予定だったからこそ、ああいうあっさりした書き方だったのだとわかり、溜飲が下がりました。
途中で出て来る笑里と伊苅の闘病生活のくだりは、どうしても加納(朋子)さんと
貫井さんの闘病生活と重なってしまいました。あんな風にきっと大変な思いをした
のでしょうね・・・。
だからこそ、非情にリアルで胸に迫るものがありました。読んでいるのが辛かった。
気になったのは、ノンフィクションライターの鈴木が伊苅に頼んだ絵に描かれたもの
が何だったのか。鈴木は想像通りのものが描いてあったみたいですが・・・女の子かな。
とにかく、構成の巧さで読ませる作品だと思います。伊苅の人生を、時系列をバラバラにして語ることで、一つまた一つと彼の現在の生活が腑に落ちて来る。たくさん
気になることが残されているけれども、それは読者の想像に任せるのでしょうね。
最後に、伊苅が絵を描く理由に思い至った時、胸にぐっと来るものがありました。
最近の貫井作品はたまにどうしちゃったの?ってのがあったりするけれど、今回は
貫井さんらしい構成の妙が光る力作で良かったです。