ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

道尾秀介/「ノエル -a story of stories-」/新潮社刊

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道尾秀介さんの「ノエル -a story of stories-」。

理不尽な暴力を躱すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生と祖母の病で不安に陥り、
絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を亡くし、生き甲斐を見失った老境の元教師。それぞれの
切ない人生を「物語」が変えていく……どうしようもない現実に舞い降りた、奇跡のような
チェーン・ストーリー。最も美しく劇的な道尾マジック!(紹介文抜粋)


久しぶりにブログ開けたらブログ様式が変わっててちょっとびびっております^^;アバター
終了は知ってたけど、ほんとに終わっちゃったんですねぇ。しかし、この横に伸びた画面は
どうにかならんのか・・・違和感ありまくりなんですけどー。これって表示元に戻せるので
しょうか?^^;;見にくいよぅ(涙)。

と、どうでもいい愚痴はさておき。ミッチー最新刊です。読んだの一週間くらい前なんで、
すでに記憶があやしいかもですが・・・(おい)。
三つの中編からなる連作集。連作といっても、内容的にはほとんど繋がりはなく、一部
登場人物が重複しているくらいなのですが。この繋がりが絶妙なんですよねー。単独でも
十分楽しめるけれど、それぞれの繋がりが分かった上で読んでいるとより楽しめる、という。
冒頭の『光の箱』は、以前アンソロジーで読んでとても気に入っていた作品だったので、
この作品が続く二編への布石となっていた事実に驚きつつ、嬉しかったですね。

最近、道尾さんの作品を読んでよく感じるのは『光』への拘り。いろんな作品の中に、いろんな形の
『光』が登場するんですよね。それは、日の光であったり、蛍の光であったり、今回であれば
フラッシュの光であったり、赤鼻のトナカイの鼻の光であったり、もちろん、いろんな人の
希望や救いの光であったり。その時々で、形を変えた光が登場するので、道尾さんの中には、いつも
光という存在に対する憧れとか拘りがあるのかな、と感じるんですよね。暗いトーンの作品の
中にも、かならずどこかに光が登場する。前回の作品なんて、そのものずばりなタイトルでした
しね(笑)。『光媒の花』とかも、光を媒体として飛ぶ蝶が出てきましたよね。きっと、道尾
さんの中で重要なアイテムなんだろうなーと感じますね。まぶしくて、手に触れられないけど、
温かく心を照らしてくれる存在。どんな作品でも、どこかに光があれば、読後に優しい気持ちに
なれますからね。


では、以下、各作品の感想。

『光の箱』
前述したように、これのみ既読。大分忘れかけてはいたのですが、オチはしっかり覚えていたので、
初読の時のような驚きはなかったですね^^;でも、やっぱり、このラストにはほっとしました。
作中作の赤鼻のトナカイのお話はベタなんだけど、ほろっとさせるものがありますね。出版された
絵本バージョンが読んでみたいなぁ。弥生の絵はきっと、優しくて明るい色合いなんでしょうね。
夏実は結局、圭介のことをどう思っていたのかな。弥生に隠れて圭介と仲良くしようとしたりして、
ちょっと嫌な女だなって印象だったんですけどね。転校の理由も理解できるけど、その怒りを弥生に
向けるのは少し違うかなって思ってしまいました。まぁ、自分が夏実の立場になったら、やっぱり
同じ反応しちゃうのかもしれないですけども。

『暗がりの子供』
妊娠した母親が、生まれてくる赤ちゃんに取られちゃうような莉子の悲しいきもちがダイレクトに
伝わって来て、切なかったです。妄想の中の真子との会話が次第にエスカレートしていくのが
ちょっと怖かったです。その会話を踏まえた上でのあのラスト、完全にしてやられましたね^^;
道尾さんのことだから、そのままで終わるわけはないとは思ってましたけどね。莉子は、真子の声
に負けなかったことで、またひとつ大人になったんでしょうね。

『物語の夕暮れ』
与沢の決意が本当に遂行されてしまうのか、最後まではらはらしながら読みました。最愛の奥さんに
先立たれて、そういう気持ちになってしまうのも理解できなくはないけど、やっぱり、どんなに
悲しくて辛くても、そういう選択だけは選んで欲しくないです。与沢のように優しいひとなら尚更。
電話越しでもいいから、あの時の祭囃子が聴きたい、と願う与沢の想いが切なかった。作家との
繋がりは、ちょっとご都合主義的すぎな気もしましたが、与沢の教師としての夢が叶っていたことが
嬉しかったです。作中作のかぶと虫とやもりのお話も良かったですね。


四つのエピローグがまたそれぞれの人物のその後を示唆していて、素敵でした。こういうお話
構成、ほんと上手くなりましたね。
一作づつのミステリ度はそれほど高いという訳ではないけれど、三作が絶妙に絡み合って、最後に
温かく心を打つ感動作です。直木賞作家らしい作品と云えるかもしれません。
装丁も素敵ですねー。タイトルから考えると、ちょっと外れた時期に出版したなーって感じは
しますけれど(苦笑)。これから読まれる方は、クリスマス時期に読まれると良いかもしれませんね。